Symphony no.9 and... 2

 目を開く。
 目の前にレイが居る。
「……綾波?」
 微笑んでくれている。
「ここは?」
「……あなたの望んだ世界」
 夢のような世界。
 誰もいない世界。
 傷つける者のいない世界。
 傷つけられる心配のない世界。
「……僕は死んだの?」
「いいえ……、他人の恐怖のない世界よ……」
 先程の嘆きが頭で響く。
「違う……、これは違うと思う」
 手のひらに異物の感触。
 ……ミサトさん。
 十字型のアクセサリー。
「他人を望むの?」
「寂しいんだ」
「また傷つけ合う日々が始まるのよ?」
「……いいんだ」
 何を求めていたか分かったから。
 ここには欠けている願いがあるから。
 見てもらいたかったのだと気がついたから。
 自分を。
「……ありがとう」
 綾波が、僕を見付けてくれたから……
「だからありがとう」
 よかったわね……
 そんな声がどこからか聞こえた。


 抱きしめ合うが良い、幾百万の人間達よ!
 この口付けで世界の全土を満たして回れ!
 抱きしめ合うが良い、幾百万の人間達よ!
 この口付けを世界の全土に!


 でもその中にあなたはいない。
 あの人の言葉に縛られてしまうの?
(絶対に嫌)
 拒絶。
(それも絆?)
 存在の肯定?
(あなたの絆は、ここにはないのね……)
 ザワザワするんだ。
 落ちつかないんだ。
 声を聞かせてよ。
 僕の相手をしてよ。
 僕にかまってよ!
僕を助けてよ!
一人にしないで!
僕を見捨てないで!
僕を殺さないでよ!
 でもあんたとだけは……
 彼を見つめるのは、彼女だけ……


 哀れね……
 誰かが言った。
 結局自分が大事なのね?
 自分だけしか居ないんじゃない。
 その自分も好きだって感じたことがないくせに。
 一番楽で傷つかなくてもいいからって。
 あたしに逃げ込まないで。
 あたしに触れないで。
 側に来ないで。
 あんたに触れられるなんて。
 絶対に。
 嫌。


 なんでだよぉ!
 悲鳴に近い。
 僕と同じなんだろ?
 寂しいくせに。
 僕の気持ちだって分かるくせに!
 一緒に居てくれたっていいじゃないか!
 同じにしないで!
 全否定。
 何も分かってないじゃない!
 あんたと一緒にしないでよ!
 裏切るんだ!、僕の気持ちを!
 始めからあんたの勘違いじゃない!
 僕はいらないの?
 勝手に思い込んでたくせに。
 僕が居てもいなくてもいいの?
 あたしはそれでもここに居るもの。
 僕はここに居ない方がいいの?
 そんなのあたしが知る分けない。
 じゃあここに居てもいいんだね?

 無言。

 それでもいい。
 また勝手に思い込むの?
 僕はそう思い込みたい。
 しっかり生きて、それから死になさい。
 僕はまだ、許されてない。
 その想いがあたしを傷つけるのに?
 だけどもう一度会いたかったんだ。
 嫌われてる僕でもいいから、僕は僕に戻りたかったんだ。
 寂しいから。
 優しくして欲しいから。
 側に居てもらいたいから。
 だから取り戻すんだ。
 僕の形を。
 人に流されても……
 作られても。
 僕の姿を。
 そんなあんたが嫌いなのよ。
 ほら、情けない僕を作ってくれた。
 それでいい。
 自分のことぐらい自分で決めなさいよ。
 自分だってできなかったくせに。
「あんただけには言われたかないわよ!」
「だって僕にはそう見えたもの!」
 お互いがお互いの形を決める。
「見えただけじゃない、勝手に思わないで!」
 その怒りが自分も作る。
「何も言わないくせに」
「言う必要なんてない」
「それでいいの?」
「いい事ってなによ」
「そんなの知らないよ!」
「だからって都合の良い話を作らないで」
「作り事で護魔化してきたのはそっちじゃないか!」
「みんなあたしを大事にしてくれてた」
「そう思いたかっただけじゃないか」
「みんなあたしを見てくれてたもの!」
「無理矢理見てもらってただけじゃないか」
「いいじゃない!、辛いのよ!」
「……護魔化して、いいことあったの?」
 泣かせてしまう。
「それで優しくしてもらえたの?」
 嗚咽が聞こえた。
「だから僕は優しくするよ」
 嫌いたいなら。
 嫌われてあげる。
「そのために僕は一人になるよ」
 情けない姿を晒して。
 嫌われて。
「でもそれでみんなが優しく付き合えるのなら」
 僕はそれで良いと思う。
 アナタダレ?
 世界が震える。
「僕は思いを受け止める」
 傷つけ合う恐怖を。
「全て僕は受けとめる」
 だからもう傷つけないで。
「傷つけ合う事を終わりにしてよ」
 とても穏やかになれるはずだから。
 アナタダレ?
 慟哭が走る。
 だから帰って来てあげて。
 寂しい世界に還らないで。
 みんなで寄り沿って。
 触れ合って。
 暖め合って。
 生きていって。
 世界との決別。
 彼は世界最大の大罪を犯す。
 身勝手な想いは人を巻き込み、同情を招く。
 この心穏やかで居られる世界に波風を起こす。
 一人にしないであげて……
 お願いだから。
 捨てないであげて。
 あそこに居る女の子を。
 僕の代わりに。
 側に居てあげて。
 アナタダレ?
 そこに居るのは誰?
(思われているのね?)
 羨望。
(羨ましい)
 嫉妬。
(可哀想)
 愛情。
(妬ましい)
 憎悪。
 それらが一人の女の子へと向けられる。
 この世界からはじき出された、たった一人の女の子へと。
 あたしを見てくれるの?
 あたしにかまってくれるの?
 一人じゃないのね?
 一人じゃないんだ……
 でも……
「それで、あんたは、どうするのよ……」
 寂しげな笑みが心を乱した。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。