L.A.S.Symphony no.9 6
この病院……、そっか。
アスカとレイもサルベージされた事を確認したシンジは、自分の居る場所が何処であるかに思い至った。
トウジも……、確か居るはずだよな?
むくりと起き上がる。
「……ちょっと行って来るよ」
心地好く眠る二人に穏やかな笑みを向け、シンジはベッドから抜け出した。
「……トウジ」
「シンジか?、久しぶりやな……」
当然目指したのはトウジの病室。
ベッドの上で本を読んでいたトウジは、そんなシンジを訝しんだ。
何しにきおったんや?
以前のように脅えているわけでは無く、強がってもいない。
「まあ座れや」
「うん……」
シンジも少々驚いている。
「……なんや?、これか?」
「うん……、トウジが本を読むなんてね?」
「他にやる事あらへんしな」
お互いはにかむ。
「……どうしたの?」
居心地悪そうに動いている。
「……なんや、変わったな?」
「そう?」
「頭でも下げに来たんかと思たわ」
シンジは微笑む。
「謝ったら殴るつもりでしょ?」
「当たり前や!」
怒鳴り付ける。
「僕も言い訳はしないよ、次は僕の番かも知れなかったし、実際そうなったからね?」
「……サードインパクトか」
つい声を潜めてしまうのは、精神的な圧迫感があるからだろう。
「僕はトウジの足を奪った、でも謝らないよ」
「わかっとる」
「謝るよりももっと、現実的に責任を取ることにしたんだ」
「……責任なんてあらへん」
「トウジがそう言ってくれても、トウジのエヴァを潰したのは僕だ」
「まだ言う気か!」
「歩きたいんだろう?、もう一度……」
「……んなことあらへん」
「走りたいくせに」
「しつこいわ!」
「トウジがほんとのことを言わないからだよ」
トウジの激昂を誘発する。
「ああそうや!、わしかて歩けるもんなら歩きたいわ!、そやけど……、仕方あらへんやろ、もう……、できひんもんは」
「大丈夫だよ」
唇を噛んだまま顔を上げると、シンジは笑っていた。
「あ?」
「トウジが歩いて、走っていた頃の自分を忘れてないのなら、大丈夫だよ」
「……なんや?、何を言うとる」
シンジの手が額に触れる。
なんや?
シンジの顔が男の子のものから微妙に中性的な印象に変わった。
なに言うとるんや?
その赤い唇が動いている。
まあ、ええわ……
赤い瞳を見ている内にそう思った。
手のひらから伝わる温もりにとろけてしまう。
なんや、眠ぅなって……
バタッと倒れる。
「……お休み」
自分の手のひらを数秒見つめた後、シンジは満足げに退室した。
この後、看護婦が「両足揃っている患者」を見付けて大騒ぎになるのだが、彼の意識が戻ったのはシンジ達が退院した後のことであった。
……フォースチルドレンの登録は抹消されてるはずだけど。
トウジは志願してでも、再登録を望むだろう。
廉価版エヴァの計画も順調だし。
廉価版とはいえ、その性能はエヴァのプロダクションモデルに引けは取らない。
ただ装甲は材質が落とされ、その厚さも減っている。
これはATフィールドがあれば装甲は大きな意味を持たないからだ。
申しわけ程度の見栄えを整えるための外装として纏う事になっている。
次にエヴァを倒せるのはエヴァだけである。
この考えからサードインパクトまでに追加され続けた、過剰なまでの装備品は外された。
廉価版は戦闘用ではないからである。
それにエヴァ用の武装の前には、量産機に使用された最終モデルの装甲ですら薄紙に過ぎない。
金の無駄と判断されたわけである。
僕に出来るのは、みんなが働きやすい様にしておく事ぐらいかな?
しょせん今していることは慈善にもならない。
自己満足のために人を救っている、その罪悪感があるから、フォローをレイ達に任せているのだ。
人はサードインパクトの時と同様に、その奇跡をレイが起こしてくれたと信じている。
赤き神を従えしアスカ。
奇跡を振りまく少女、レイ。
二人の名前は更に高まっていた。
その陰にちらつく、黒翼の悪魔と共に。
神の前に立ったはずの、少年の姿を重ねながら……
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。