L.A.S.Will you ……? 8
レイは背中を丸める、シンジにしがみついたまま。
シンジのものを異物のように感じていた。
だがそれが消えていった、溶け合う感じに満たされる。
一体になっている感触が生まれる。
じわりとした温もりが染み込んで来る。
ようやく消えてくれた嫉妬、安堵感に心が安らぐ。
(こうしてもらいたかったのね?、わたし……)
あの時、自分で慰めてしまっていた。
それが何を差すのかも知らずに触れていた。
それが今、解き明かされた。
(これ、なのね?)
アスカよりももっとシンジを感じる事が出来たのだ。
自分の上げた嬌声に満足できた。
世界が揺れるほどの快感に意識が弾ける。
そして深く沈んでいく。
レイはこれ以上感じた事の無い充足感の中で、深いまどろみへと落ち込んでいった。
『エリス!』
『はい!』
『わかってるわね?、非常用の拡張電源と水中用M型装備、使いこなして見せて』
『わ、わたしがですか!?』
『これはエリスとマーク2にしかできない事なの、わからないの!?』
拡張電源は背中に背負うようになっている、形状は酸素ボンベそのものだ。
第六使徒の事がある、嫌な予感が尽きない、そこでアスカが用意だけはさせていたのだ。
『あたしの弐号機じゃ空母から電源供給を受けなきゃいけないの、水中戦闘は無理なのよ』
『お姉様……』
エリスはアスカの信頼し切った瞳に息を飲んだ。
掛けられた期待に緊張が走る。
『次弾、魚影来ます!』
『エリス、行って!』
空母から見て左のタンカーの幌が舞った、立ち上がった弐号機によって海が割られる。
ATフィールドに当たった魚雷が水柱を上げた。
『密集体形を取らせて、早く!』
「あ、いや、しかし……」
最後の意地だろう、艦長はそれでも渋った、だが……
『艦長は降格!、トーマス、引き継いで、あんたが艦長よ!』
「はっ!」
「お、おい!」
艦長は慌てて周囲を見渡した、が、よほどウケが悪かったのだろう。
味方は居ない様だった。
「ふっ、あ……」
シンジは尾てい骨が痙攣している様な感じの中で果てていた。
快感のままにレイの中に全てを放つ、それが何を意味しているかは分かっていた、が、あえてそうしていた。
跳ね飛ぶほど反りかえりをくり返すレイの背中を、さば折るほどに抱きしめて。
(なんだ?)
組み敷いた少女が先にぐったりと動きを止めた。
だがビクビクと繋がった部分で自分を感じてくれているのがまだわかる。
(違うのか?)
やがて最後の気入れも終わり、シンジは力を抜いて倒れようとした。
そして二人は体を合わせて共に眠りに……、落ちる事が出来ればよかったのだが。
だがまだ激しい揺れが続いていた。
レイの鼓動か自分の呼吸か?、あるいは波の揺れなのかとも思ったがそれとも違う。
「うわっ!」
ゴォンと派手な衝撃に室内が揺れて傾いた。
「なんだぁ!?」
とっさにレイが転がらないように押さえつける。
振り子のように部屋が揺れる。
「何か起こってるのか!?」
シンジはベッドから跳び下り、階段を駆けおりようとして、股をピタピタと叩く情けないものに気が付いた。
「振ってもらった役割は果たすわ?、でも、これはきっとあたしの……」
くりくりカールを弄ぶ。
各支部でのイヴ開発競争は苛烈を極めていた。
だが実際にはマーク1同様に、性能はエヴァに遠く及ばない上に似たり寄ったりのはずであった。
横並びで大差も無い。
そのはずだった。
だがその壁を叩き壊した張本人は、誰でもない、エリスなのだ。
「あたしの力じゃなかったけど……」
だがシンジは間違いなくエリスが引き出したのだと言う。
彼の言う事だから余計に反発してしまうのだが、現実としては数字と言う事実が各支部に行き渡ってしまっている。
「マーク2を手に入れるつもりなんだわ」
チルドレンの力だと信じられない者が居たとしてもおかしくはない、それにマーク2はドイツ支部製なのだ、弐号機を完成させた。
そちらにこそ秘密があると勘繰ったとしても、おかしくはないだろう。
「あたしのせいで、お姉様が……」
どれほどの兵器であろうともパイロットが搭乗していなければ話にならない。
そしてファーストクラスと違って、セカンドクラスのチルドレンには替えが利くのだ。
だからこその先制攻撃のはずだった。
搭乗される前にタンカーを沈めて持ち去る。
あるいはチルドレンが居るはずの空母を沈めて……
安易だが実に効率的な作戦……、のはずだった。
が、彼らにとって幾つか不幸な偶然が存在していた。
一つ目は予定外のチルドレンによる模擬戦の実施。
二つ目はセカンドチルドレンのストレス解消を名目としたシュミレーションの延長。
そして……、セヴンスに大量のフラストレーションが蓄積されてしまっていた事である。
弐号機のタンカーと違ってマーク2を収容していた船は潜水艦用の洋上ドックを改装したものだった。
海水が注水され、艦底が左右に開く。
船上では無く、水中へと潜り出るような作りになっているのだ、ドッグ船は。
「視界補正」
エリスは海水による屈折率を調整して目を丸くした。
「あんなところに!?」
ほぼ真下の海底に、動力を切って息を潜めている潜水艦がいた。
「じゃあ前方のは誘導なの!?、あっ!」
その船から四本の魚雷が発射された。
泡立てるように航跡を残して昇って来る。
だが。
ゴコォン……
水中独特の響くような音を残して爆発した、泡立つ境界面に一瞬金色の光がちらついていた。
(お姉様の……)
改めて力の大きさを感じ入る。
アスカのATフィールドは弐号機を中心にして球を描いている。
(通常兵器がこうも役に立たないなんて……)
エリスには指向性の防御壁を展開するのがやっとなのだ。
こういうものだとは知っていたが、アメリカ支部ほどの実弾を使った演習は経験していない。
驚嘆してしまうのも無理は無いだろう。
「行くわ!」
エリスはイヴの手を使って艦底から泳ぎ出た、そして足に着けていた『足びれ』で深海へと潜り出す。
イヴによる『スキンダイビング』である。
慌てるように潜水艦のスクリューが動き始めた。
しかしそれは人魚のように泳ぐイヴに比べ、余りにも鈍重な『なまこ』に見える。
「スクリューを潰して、捕獲……、え!?、きゃあ!」
だがエリスは急に海流を掻き乱されて焦った。
「なに!?、なんなの!」
巨大な魚のような物体が泳いでいく。
大きさはイヴにも匹敵するだろう。
「あれは……」
イヴのデータバンクに情報があった。
「マーク3!?」
それはマレーシアに居るはずの、イヴシリーズの三体目であった。
「なにがあったの?」
慌てて服を着て外に出ると、空母の甲板には弐号機が立っていた。
「どこぞのバカが喧嘩売って来たのよ」
「ふぅん……」
シンジはイヴが拿捕した二隻の潜水艦を眺めた。
現在は戦艦によって曳航されている。
「サウジの船だって話よ?」
「サウジ……、そっか、だからだね?」
「ええ」
アスカは渋い顔で頷いた。
「あそこはネルフに不参加を表明してるの、イヴの建造費を捻出できないってのが本当の所なんだけど……」
だが美味しいものは手に入れたかったのだろう。
潜水艦は両艦ともにスクリューを潰してある、自力での逃走は計れない。
乗員は全て弐号機を収容していたタンカーに移して監禁してある。
「でぇもぉ、あたし一人でもちゃんとやれたんですよぉ?」
「はいはい」
アスカは苦笑しながら、腕にぶら下がるエリスの頭をくしゃくしゃと撫でた。
そんなアスカの労いに、喉を鳴らすように更にエリスは嬉しそうに甘えた。
「マーク3、か」
シンジは殿を勤めている白い『魚』に視線を送った。
空母の甲板には相変わらず弐号機が膝をついている。
マーク2はドック船に戻してある。
マーク3はどこか第六使徒に似た形をしていた、他のイヴとは違って人型すらしていない。
大きさも空母並みに巨大である。
「なに考えてんのよ?」
「……エヴァやイヴも同じ使徒から作られてるからね?、用途を限定すれば形はやっぱり似るんだなぁと思って……」
「そ……」
(なにかしらね?)
アスカは目を細めた、シンジの動きに気怠さを感じたのだ。
「ま、良いとこは取られちゃったわねぇ?」
アスカは様子を窺うようにエリスを見た、心配だったのだ、かつての自分のようになってはいないかと。
しかしエリスはアスカにじゃれ付けるだけで幸せな様で、特に気にしてはいなかった。
「ただの潜水艦相手じゃどのイヴが出たって同じですよぉ」
少なくとも沈降して隠れていた一隻はエリスが捕えたのだから上等であろう。
逃げようとしたもう一隻は、マーク3が確保した。
「イヴで相手をするほどの物じゃ無し、そうですよね?」
「そうね?」
クスリと笑って、空を見上げる。
自分と加持の関係よりは、自身が女性であるだけマシなのかもしれない、そう思える。
「あ〜もぉ!、LCLが乾いちゃってパリパリするわ!、エリス、お風呂に入るわよ?」
「はぁい!」
コンテナ車へと戻る二人を目で送る。
「マーク3、か……」
シンジは何故ここにと目を細めた。
そして意識も奪われる、だからだろう。
シンジは車のベッドの上に爆弾を放置したままなのを忘れていた。
……火薬庫に火がついたのは、このわずか後のことである。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。