──どうしてこうも流されやすいのかとシンジは思った。
(巻き込まれやすいってだけかもしれないけど)
 それはそれで嫌だなぁと、自分の意志の弱さを自覚する。
「ん、ああ、最短距離で届けるところだ、カートレインを用意しておいてくれ」
 車両専用ゲートをくぐって別れ道へ、その先にあるのは鉄道だった。
 台座の上に乗ると、スライドし、隣の貨物車に固定される。
 ガクンと震動、動き出して、すぐに景色は闇に包まれた。
「どうした?」
 加持の言葉に、窓の外の景色を眺めたままでシンジは答えた。
「夜のジオフロントって、随分と雰囲気が違うなぁと思って……」
「ま、そうかもしれんな」
 地表を歩いていればそう違和感が無いかもしれないが、天井から見下ろした時、そこにはただ暗闇が広がっているだけである。
 だがそれが恐怖に変わることは無かった、まるで闇を彩るように、イルミネーションが輝いていたからだ。
 ネルフ本部、その周辺にある施設ビル。
 あるいは周回道路など、そして空、天井にも、星のようにビルの明かりが灯されている。


「ちょ、マヤちゃん!」
「ちょっと待って下さい!」
 ミサトが何かの故障だと思ったのも仕方のないことだった。
 鞭と炎がせめぎ合い、恐ろしいばかりの状態で拮抗を維持した、周囲に力の余波を巻き散らし……、なのに、その動きの全てが静止してしまったのだ。
 炎のひとかけらさえも揺るぎもしない。
「故障じゃないわよ」
「リツコ!」
 焦らず、リツコは解説した。
「あれが、彼の能力なのよ」
「彼って……」
 ミサトはリツコの視線を追って、その先に映っている機体に気がついた。
「ムサシ君の?」


「くううう!」
 ムサシは必死の唸りを上げていた。
 彼の放つ強固な意志が、全ての活動を抑え込んでいる。
「ケイタ!」
「うん!」
「マナは惣流を!」
「わかった!」
 力尽き、気を抜く、と同時に、全てが再び動き出した。
「きゃあ!」
 マナの機体の腕に腰を抱かれてアスカは転ばされた、その上を鞭が直進していく、先にいるのはケイタの機体だ。
 ドン!
 ポジトロンスナイパーライフルが火を噴いた。
 鞭と交差し、歪なエヴァンゲリオンを閃光が撃ち抜く。
 ──爆発。
「ケイタ!」
「大丈夫!」
 片腕をもぎ取られていたが、バランスは保っていた。
 状況はよくわからなかったが、アスカは咄嗟に判断を下した。
「レイ、ATフィールドで熱を遮蔽して、霧島はリーを、リーの機体は破棄、浅利はライフルを捨てて下がって、こっちからはショートしてるのが見える」
 それぞれにわかったという返事が戻る。
「なんなの?、今のは」
 ミサトは安堵しながらも、再び訊ねた。
「ムサシ君の能力って?」
 リツコはマヤの手元のキーを操作しながら答えた。
「凍結よ」
「凍結ぅ?」
「そう、あるいは減衰、彼の能力はアスカの対極にあるものなのよ、あらゆる物体の運動にブレーキを掛けて、制止させる」
「時間を止めたっていうの?」
「そうなるわね」
「そんな!」
「不可能なことじゃないわ、あらゆる物体は分子運動を行っているもの、それを拘束するだけのこと……、それよりミサト」
「え?」
「もっと大事なことがあるんじゃない?」
「大事なこと?」
 リツコはコクリと頷き、妙に鋭い目を向けた。
「彼、エヴァ同士の戦闘に介入して見せたのよ?、生身のままでね」
「と〜ちゃくぅ!」
 リツコの言葉に生唾を飲み下し掛けたミサトであったが、あまりにも明るい場違いな声に引っ掛かって、むせてしまった。


「あれ?」
 むせて咳をするミサトの背を撫でて介抱するマヤ。
 どうして子供がと引っ掛かっているマコト、シゲルは気にしながらも戦闘部隊の撤退のためのルート案内に忙しい。
 そしてリツコが口にする。
「良く来てくれたわね、シンジ君も」
「え?」
「こっちに来て、状況を説明するわ」
 マサラ、シンジ、リックの三人を呼び寄せる、さり気なくその最後に着いて、リツコは加持を肘で下がらせた。
 肩をすくめ、引き下がる加持である。
「いいこと?」
 リツコはシンジにだけ聞こえるように呟いた。
「当たり前のような顔をしていて」
「え?」
「そうすれば、みんな安心するから」
 付き合いもこれくらいになれば、考えていることはわかってくる。
 今まで何度も、もう駄目だというところに、割り込んで来た。
 今度もそのつもりで?、と、期待感が伝わって来る。
(連れて来られちゃっただけなのに……)
 だが周囲はそんな真実に気付くことなく、勝手にシンジを後ろ楯にして動き始めた。
 錯覚だというのに、きっとなんとかしてもらえるのだと思い込んで。
「マサラさん」
「はーい」
「あなたの力を借りたいの」
 これは、逃げられないなと感じて、シンジはリツコとマサラの後を追い、別の場所へと移動した。




 命からがら帰還したアスカたちを待っていたのは、再出撃の命令だった。
「そりゃあ?、なんとかするしかないんだけどね」
 用意されていたスポーツドリンクを口に含み、眉を寄せる。
 エヴァの体液に犯された舌は、味覚が麻痺してしまっていた、まずくてとても飲めやしない。
「あたしとレイはいいけど、そっちはどうなの?」
 アスカは気を紛らわせるように訊ねた。
「予備パーツは幾らでもあるから、それに、今の出撃中に、使えるようになった機体もあるみたいだし」
「そう……」
 それはそれで不安であると表情を翳らせる。
(戦い方が見つからない)
 先程は幸運だった。
 幸いにも力にそれほど差がなくて、力比べに持ち込むことができた、そうなれば数の差でいくらかの分があった。
 ムサシの予想外の能力に、マナとケイタのサポート、幸運にも、隙を突く形に持ち込めた。
 しかし、次はこうはいかないとわかっている。
「使徒が残り二体になったって」
 作業員の一人が伝言を持って来た、マナが読み上げる。
「それも、交戦はしないで動き出したって」
 どうやら、同じ側が残ったらしい。
「これでますます、こっちの状況が悪くなったってわけね」
「……」
 一同、沈黙に囚われる。
 一体だけでも、最強の攻撃力を持つアスカと同等であったのだ、それがさらに強くなった化け物が二匹。
 どう対処して良いのかわからない。
 ぽつりとレイ。
「シンジクンを前にした時の使徒って、こんな気持ちだったのかな……」
 顔をしかめる。
「やめなさいよ」
「でも……」
「死にたいの?」
 ギロリと睨む。
「幸い、アタシたちは使徒と違って大勢居るのよ?、大丈夫、なんとかなる……、ううん、するのよ」
「そうね」
「リツコ!」
 驚き、首を振り向けたアスカは、さらに目を丸くした。
「シンジ!、どうしてここに……」
「どうしてって……」
 後頭部を掻く。
「なんとなく……、成り行きで」
「成り行きって」
 それはいいからとリツコは会話を無理矢理止めた。
「あなたたちに勝利をもたらしてくれる、素敵な女神を連れて来たわ」
「女神?」
 怪訝そうに、アスカは小さな女の子へと目を向けた。
「小学生?」



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。