「むぅ〜〜〜」
ぷうっと頬を膨らませているマサラを後部座席に乗せ、ムサシは機体を立ち上がらせた。
『気をつけて、使徒の攻撃があなたに向かうのを予測して、機体の各部パーツをパージしやすいように設定してあるから』
「はい」
『武装も誘爆を恐れて外してあるから、だめなようなら即時撤退、いいわね?』
「了解しました」
そんなやり取りをオープンチャンネルで拾いつつアスカは首を捻った。
「高校生?、あれが?」
ははっと困ったような笑い声、マナだ。
『良いんじゃない?、高校生に見えない人だって居るんだし』
「そりゃそうだけどねぇ……」
『それより』
ゴシップ好きなのか、鼻の穴を膨らませる。
『いいの?』
「いいってなにが?」
『碇君』
「ああ……」
アスカはちらりと下を見た、その動きに合わせてエヴァの首が足元を見る。
そこには何やら話している、レイとシンジの姿があった。
「なに?、話って」
「うん……」
レイは恐る恐る、上目づかいにシンジに頼んだ。
「これが終わったらね」
「うん」
「デートして欲しいの」
「デート?」
「うん……」
今更なんだろうと首を捻る。
「どうしたの」
「え?」
「変だよ?、なんだか……」
レイはシンジの目を見ていられなくなって顔を逸らした。
足元を見つめる。
(わかんないんだ……)
シンジが動く度に風を感じる。
肌に来る温もりを意識してしまう。
無意味に二の腕を撫でさする、けれど一年、二年前にはもっと近くて、気軽に息を感じられる傍にいれた。
じゃれつけた。
「ううん」
青くなった顔を上げる。
「だめなら良いの、じゃあ!」
「え?、あ……」
止める暇も与えずに逃げ去って行く。
レイは目も口もぎゅっと引き結んでいた、これ以上話しているとなにもかもぶちまけそうになってしまうと。
「なんなんだよ、もう……」
別にそれくらい良いけど、そんな普通の返事を送ることができなかった。
それが不安に繋がってしまった。
「使徒は!」
「ルートAを進行中!、二層下に到着!」
「律義な奴ね」
ミサトは毒づきながらも安堵していた。
これまでの使徒のことを考えると、いきなり天井を撃ち抜いて、直進して来るとも限らなかったからである。
それが、こちらが開拓した領域の、整備した通路を通ってやって来てくれる。
「やるとしたら」
「ここですね」
マコトはシゲルに目配せを送って、あらかじめ選び出していたポイントの地図を表示させた。
「ここ?」
「はい、使徒の能力を合わせ持っているなら、当然加粒子砲を備えているはずですから、直線上に配置することは危険です」
「壁を盾に待ち伏せか……」
「そのためにT字路になっている場所を選びました」
「後は左右に別れるか、どちらか一方で待機させるか……」
「僕は固めることをお薦めします」
「なぜ?」
「もし予想外の攻撃をされた場合、分断されることになりますから……、それに、こちら側のルートには本部に通じる撤退のためのルートがありません」
「そう……」
でもねとミサトは爪を噛んだ。
(これでダメなら、使徒は間違いなくここに辿り着く、やるかやられるかしかないのよ)
自然、物騒な発想になる。
(使徒同士潰し合ってくれたんだから、むしろ遺跡の奥の方が安全かもしれないわ)
活動可能な使徒は、殺戮と統合の結果、もういないはずだから。
それならとミサトは指示を出した。
「A55へのルートを設定しておいて」
「A55ですか?」
「そうよ、だめならあの子たちには『下』に逃げてもらうわ」
そこにあるのは、以前シンジが空けた大穴である。
僕たちはどうなるんですか、とはマコトには言えなかった。
その時は、自分たちは使徒によって殺されることになるだろう、それでもアスカたちの安全を優先するのは、事後のことを考えてのことだとわかるからだ。
(エヴァさえ無事なら、再建できる、反撃できるってことか)
その時には、他国の、支部の人間が、自分たちの代わりを勤めるだろう。
それでもまあ、それもまたやむをえないかと、マコトは命令通りの地図作成に入った。
●
エヴァが出ていったゲートを眺め、シンジは動こうとしなかった。
「行ったね」
「うん……」
「僕たちは発令所に戻ろう」
「そうですね」
リックに誘われ、シンジはようやく戻ることにした、しかしリツコがそれを呼び止めた。
「待って、シンジ君」
「はい?」
「あなたに、見せたいものがあるのよ」
首を傾げたシンジに対して、悪いわねと、拒否できないものを匂わせた。
戻って来た人間の顔を見て、ミサトは片眉をつりあげた。
「赤木博士はどうしたの?」
「碇君と一緒に、僕はだめだと……」
「そう……、わかったわ」
追い出されるんじゃないかと思っていたらしいリックは、拍子抜けして肩をすくめた。
指令塔の外壁に背を合わせて立つ。
リックは主モニターに映し出された作戦の概要図に不機嫌になった。
「消極的な……」
「そう?」
聞こえてしまったようで、ミサトは前を向いたまま答えた。
「でもこれがベターだと信じているわ」
「ベストではないんですか?」
「この状況で、ベストと言える策があるなら、聞かせて欲しいものね」
リックは言い返すことができなかった。
大量にある不安材料に、どう判断を下して良いのかわからなかったからである。
それだけでも、優先順位を付け、ベターだと信じて実行できる精神力には、実に敬服できるものがあった、
「すみません」
「謝る必要はないわ」
ミサトは冷たく言い放った。
「あたしだって、いきなり実戦に参加させるような馬鹿な真似を、何度やれば良いんだろうって思ってるくらいだから」
「何度も?」
「ええ」
誰のことだろうかとリックは思ったが、それはシンジであり、ムサシやケイタたちのことであり、その他多くの子供たちのことでもある。
敵は使徒ばかりではないのだ。
以前には、同じ人間に攻め込まれている、今度は能力を持った子供たちが忍び込んで来るかもしれない、そんな時には、またチルドレンを動員しなければならなくなる。
「あまりね……、信じてないのよ」
「え?」
「エヴァを、あなたたちを、能力って奴を」
「そう……、なんですか?」
「ええ」
「それは……」
どう答えて良いものだかわからない。
「僕たちの周りの大人は、みんな便利な能力だって、道具同然に使えと喚いていましたが……」
ふんとミサトは鼻で笑った。
「でも、万能じゃないでしょう?」
言い切る。
「その力で、食物を育てて、食べ物になるところまで加工できる?、結局、あなたたちのそれは、ヒューマンパワーを補うだけのものでしかない……、でも、使徒は別よ」
「別?」
「そう、エネルギーの補給を必要としない、それどころか自己修復するたびに強大になる、そんなでたらめな生物なのよ、そんなものに対抗するのに、あなたたちの力がどれくらい有効なのか……」
ミサトの言葉に、そうですねと、肯定の声を吐く。
「マサラの能力については?」
「聞いたわ」
また顔をしかめた。
「にわかに信じ難いわね」
「でも事実ですよ」
「世界でただ一人の能力」
「増幅の力」
それでは、エヴァンゲリオンと同じだということになる。
「マサラの力は触媒効果です、誰かの力を拡大強化する、僕はその力の凄さを知っている」
だからと、リックは忠告した。
「問題は、『増幅される能力者』ですよ」
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。