「なんだろう?」
「騒がしいけど……」
 店内電気コーナーの人だかりに、アスカとレイは吸い寄せられた。
「どうしたの?」
 シンジも追って覗き込む。
『……ネバダ州全域に発令されました、非常事態宣言は』
「ネバダ?」
 アスカが答える。
「確か宇宙船の地上訓練施設みたいのがあった場所よね?」
「って言っても広いよ?、まさかネルフってわけじゃ」
 レイの希望的観測は打ち砕かれた。
『これに関しまして、ネルフ第二支部の広報部は』
「あう」
 どうしようと振り返る。
「シンジクン」
「うん……」
 ネルフに行ってみようとシンジは誘った。




「災難だな」
 かけられた言葉に、リックは苦笑を返してしまった。
「災難なのはお前の方じゃないのか?、ゴリアテ」
「それに、どういう心境の変化だ?、君からそんな言葉を聞けるなんてね」
「そうか?」
「そうだよ」
 ゴリアテは顎を撫でさすった、まるで自分の表情を確かめるように。
「俺にだって人を痛む気持ちはあるつもりだが」
「だろうね」
 大丈夫だよと、リックは憔悴し切った笑みを見せた。
 本部のそこら中で、似たような光景を見ることができた、友人の心配をする者、泣く者、いたわり合う者、またこれからに対する不安を抱く者と様々ではあったが、誰もが今の状況にうろたえていた。
「アメリカはどう出た?」
「僕たちは捨てられたよ」
「捨てられた?」
「ああ、帰国の許可は誰一人として下りなかった」
 自分たちが送り込まれたことについては、何かしらの思惑があるのだろうとはわかっていた。
 それでも、こうなってくれば話は変わるのだ。
 上の考えなど、気にしてはいられない。
 個々としては、帰って安心したくもなる、だが、それは拒否されたのだ。
「裏にあるものは、確実だね」
 ゴリアテはかすかに頷いた。
「……ナンバーズに関る何かが起こった」
「でなければ、どうして僕たちを拒絶する?、他に考えようなんて無いよ」
 おどけて見せるが、力無いことに変わりは無い。
「ナンバーズ……、『エヴァ』を根源とするなにかが起きたんだ、そして上はそれを知っている」
「知っている?」
「そうさ、どうやら本部は航宙訓練施設で何が起こったのか掴めてはいないらしい、そこまで情報規制がされていたっていうのに、上は原因を知っているかのように振る舞っている」
 なるほどとゴリアテは頷いた。
「何かが行われた、それは上が指示したものだ、だから上は知っていて当然、そして知っているからこそ、チルドレンは手に余ると判断し、放棄するような策に出た」
「そういう論法になるね」
 さてとと顔をぴしゃりと叩く。
「いつまでも、こうしているわけにはいかないな、行かないと」
 ゴリアテは訊ねた。
「管理官の元にか?」
「うん……」
「あの人はお前の?」
「そうだよ?」
 胸を張ってリックは答えた。
「僕はあの人と付き合ってるんだ」


 マリア・サーフェイスは、上の判断に息巻いていた。
「そんな馬鹿な話があるもんですか!、こっちには兄弟とかがあそこに居たって子供たちが沢山いるのよ!?」
 だが電話の相手はつれなかった。
『それはわかっているが、だからといって全体の不安も考えてくれ』
「考えて言ってるの!」
『マリア……、怒りたい気持ちはわかるが落ち着いてくれ』
「あたしは十分落ち着いているわ!」
 これは駄目だろうと思ったのだろう、相手は諌めることを放棄した。
『いいか?、こちらでは社会全体に疑念が広がっているんだよ、本当にナンバーズは安全なのかとね、NYダウンタウンの事件は知っているだろう?』
 それはさして珍しくもない抗争だった。
 ただ、そこに野放しの能力者が関ってさえいなければ。
『ギャング同士が互いに能力者をぶつけ合ったおかげで、あわや自由の女神が消し飛ぶ寸前にまで行ったんだ、ナンバーズという『登録制度』における安全宣言や保証がいかに当てにならないものなのか、今やニュースメディアはその分析で一杯だよ』
 向こうに見えないのを良いことに、マリアはきつく唇を噛んだ。
「そんなの、今に始まったことじゃないでしょう?」
『『伝染』の勢いのことを言っているんだよ、恐怖心に煽られた市民が暴動やデモを始めてる、君の泣き崩れてる子供たちを見ていられないって気持ちもよくわかるが、だからってこっちに戻せばもっと酷い目にあわせることになるんだよ?』
「だから、こちらで保護していろと言うの?」
『それがベストな……、あ、悪い、なんだ?』
「ちょっとヘイト……」
『すまない、急用ができた』
「こっちの状態を少しは察して!」
『本部の上層部と掛け合って対応を協議してくれ、じゃあな』
 切れた電話にふつふつと怒りがこみあげて来る、マリアは受話器を端末のモニタに投げ付けた。
 ガシャンと酷い音が立つ。
「冗談じゃないわ!」
 うなだれ、震え、そして彼女は肩に手を置かれて悲鳴を上げた。
「ひっ!」
 悪いと手の主は両手を上げた。
「驚かすつもりじゃなかったんだ」
「リック……」
 ほっと胸を撫で下ろし、それから再び怒りに身を染める。
「もう!、部屋に入ってくる時は、ドアから入ってって言ってあるでしょう!?」
「もちろんそれは承知しているけどね」
 それがリックの能力であるらしい。
 彼は机の縁に尻を引っ掛けるようにして楽な姿勢を取ると、転がっている受話器を拾い上げ、正しい場所に置き戻した。
「今は、僕たちは会わない方が良い……、少なくとも、表向きね?、理由は言うまでもないだろう?」
 マリアは深刻な顔つきになり、リックに訊ねた。
「そんなに酷いの?」
「みんな君を問い詰めたがっているよ、どうなっているんだってね?」
「そう……」
 再び落ち込む彼女に、リックは憐れめいた目を向けた。
「マリア……」
 頬に手を添え、顔を上げさせる。
 それから、キス……、離れて、リックはマリアに言い聞かせた。
「今のマリアは隙だらけだよ……、みんなの不満を抑え切れなくて、でも上を動かすには力が足りなくて、どうしようもないって落ち込んでる、でもそんな姿を見られたら、今がどれほど絶望的な状況なのか知られてしまうよ?」
「わかってるわ……、でもね、だからってわたしにどうしろって言うのよ!」
「マリア……」
 リックは言葉の中に失望感を滲ませた。
 それに気がつき、さすがに覚める。
「あ……、ごめ、ごめんなさい」
「いいんだ……」
 完全に萎れてしまったマリアの肩に、今度は彼女に許されるように手をかけた。
「ごめん……、僕こそ、子供でごめん」
「リック……」
「こんな時は……、僕にも力があればいいなと思うよ、大人に耳を傾けさせるだけの、大きな力が」
 そしてリックの脳裏には、とある少年の顔が思い浮かんでいた。




「うわぁ……」
 シンジ、アスカ、レイの三人は、本部の警戒のものものしさに、言葉を失ってしまっていた。
「これは……」
「凄いってぇか、酷いって言うか……」
 どうしても首を縮めるように、身を小さくしてしまう。
 銃を持った歩哨まで出ているのだからただごとではない。
「あ、シンジ君!」
 やっほぉっと手を振っているのはマナだった。
 ゲート前で数人がもめている、その最後尾に彼女は居た。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。