「霧島さん」
シンジが足を向けるまでもなく、マナの方から駆け寄って来た。
「なんだ、中じゃなかったんだ」
「どうしたの?」
「どうもこうも」
とにかくっとマナは腕を取って引っ張った。
「え?、え?」
「ここじゃちょっと目立つから」
「って、ちょっとアンタ!」
アスカはその手を無理矢理離させた。
マナも目を細くする。
二人はお互いに睨み合った。
「惣流さん?、痛いじゃない」
「イタイのはあんたよ!、なに急に『シンジ君』とか言っちゃってんのよ!」
マナはああらと白々しくふるまった。
「嫉妬?」
「ウザイってんのよ!」
うわぁとレイ。
「修羅場だよシンちゃん」
「とかやってる場合じゃないんじゃないのかな?」
シンジは人目を気にして、二人の背を押した。
「とにかく離れようよ、ね?」
ゲートから少し離れた自動販売機コーナーの前にたむろする形を取る。
「で、霧島さん……、あれ、なんなの?」
シンジの問いかけに、マナはアスカに横目をくれつつ、体ごと擦り寄って行った。
「それがねぇ……、アメリカで大規模な事故があったらしくて、テロの可能性もあるからって、通行制限かけてるんだってさ」
「離れろってのよ!」
じゃあっとレイ。
「誰も入れないの?」
もちろん、ちゃんとマナの腰を蹴る。
「そ、そうなの……」
くぅっとマナは腰を押さえて涙目になった。
「でもほら、米国支部から来た人の中には、仲の良い子もいるから、はげましたくって、入れてもらいたかったんだけど」
ああっとわざとらしい悲鳴を上げてよろめき、シンジにしがみつく。
「シンジ君♪」
「じゃないってんでしょうが!」
ちょうど良い高さにある後頭部に、アスカはエルボーを叩き込み、マナを地面に叩きつけた。
──ゴン!
うわぁっと思ったシンジだったが、案外マナは頑丈だった。
「いったぁ……」
「余計なことするからよ!」
マナは頭を押え、涙目になった顔を上げた。
「ちょっとからかってみただけなのに」
「それがイラつくっての!」
(なんだか霧島さんって、レイとアスカを足して二で割ったみたいだ)
もちろん、口に出しては思わない。
「でも、ネルフに行けば何かわかると思ったのに、残念だったね?」
は?、っとアスカは問い返した。
「なぁに言ってんのよ、このバカ女のおかげで、ちょっとは状況がわかったじゃない」
「いたいいたいいたい」
こめかみをぐりぐりとやられてしまうマナである。
「普段は情報なんかいくら隠しても無駄だって垂れ流してるくせに、ゲートを封鎖してんのよ?、混乱を防ぐためにったって、アタシらならなんとでも中の様子を探れるじゃない」
「つまり?」
「あんたバカぁ?、混乱の元になる情報の漏洩は止められないのよ、その上ゲートなんて封鎖しちゃったら、大変なことになってますよって宣伝してるようなものじゃない、つまり上の連中が切り離したがってるのは、情報とかじゃなくて『あたしたち』なのよ」
シンジはアスカを無視して振り返った、まるで何かを感じたかのように、いきなりだ。
そして驚いたのは、そんなシンジの勘の良さに、『そのとおり』だと四人に話しかけようとした人物だった。
──リックである。
●
「あ……」
リックは間抜けな声を発してしまった後、赤面してしまった。
(っと、タイミングが……)
あまりにもシンジが間を外すように振り返ってくれたため、上手く繋ぐことができなかった。
なんとか体勢を立て直す。
「……良かったよ、碇君、君に会えて」
「リック君……、だっけ?、良いの?、外に出て来て」
(え?)
驚いたのはシンジ自身だった。
(どうして、僕)
勝手に言葉がついて出た。
そんな感じだった。
リックは中に居た、そしてなんらかの方法で出て来たのだとわかってしまった、でもそれが何故だかがわからない。
「戻ろうにも、戻れないんだよ」
だがそんなシンジの突飛な言葉を、リックは都合よく誤解してくれた。
「ちょっとね、用事があって外出していたんだけど、間抜けにもニュースに気がつかなくて、この様だよ」
「戻らないの?」
「僕が戻らなくても、困る人はいないだろうけど、僕と同じように戻れなくなって、どうするか悩んでる人は居ると思うからね、僕はその人たちと合流するつもりだよ」
「ふうん……」
アスカは、リックとシンジの親密さに目を細めた。
(いつの間に……)
思えば、カヲルの時もそうだった。
気がつけば惹き付けている感がある、と。
「危ない!」
突然そのシンジが声を上げた。
「きゃ!」
レイに抱きつき、地面を転がる。
その後を追って、地面にいくつもの穴が穿たれた。
「これは!」
リックは焦って頭上を見上げた。
──そこには、黒い影が飛翔していた。
「レイノルズ!?」
それは死んだはずのレイノルズが変貌した、異形の姿をした怪人であった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。