──カッ、ア!
シンジは胸に激痛を感じて狼狽えた。
その動きは露骨に体に現れる。
「なに?」
マサラは急に足元が怪しくなった『敵』の動きに困惑した。
(でも!)
チャンスだと思い、肩のラックからナイフを抜く。
「まずい!」
それを見て焦ったのはミサトだった。
「シンジ君の様子はどうなの!?」
「酷く不安定ね」
MAGIや各種のセンサーは、まるで以前の初号機が顕在であるかのようにデータを送って来る。
(MAGIとリンクしてるの?、今のシンジ君は)
その不条理さを感じないではないのだが、後回しにして、利用できる情報を全て引き出す。
「まるで外部のなにかに反応してるみたい」
「司令!」
ミサトは背後の塔を振り仰いだ。
「攻撃許可を!」
「好きにしろ」
「おい碇、良いのか?」
ゲンドウは無言を押し通した。
「カッ!?」
背中に走った痛みにマサラは喘いだ。
「なに!?」
傍のビルが左右に開いていた、そこには幾つもの穴が並べられていた。
「ビル、に、ミサイル!?」
軽い音を立てて立て続けにミサイルが放出される、その直撃を受けてマサラは悲鳴を上げた。
「どうしてあたしを虐めるの!」
良いのとリツコは問いかけた。
「こんなことをして」
「……エヴァの装甲ってのは、この程度の攻撃でどうにかなるものなの?」
「そういうことを言ってるんじゃないわ、敵意を与えては後で取り繕えるものも取り繕えなくなるってことを言ってるのよ」
「そんなことを言ってる間にシンジ君は殺されるわ」
「でもシンジ君こそが敵かもしれないのに?、あの子の行動と思い込みは正しいものかもしれないのに?」
「それならそれでかまわない」
「ミサト……」
「あたしだって……、正直、人間としてはシンジ君をどうにかしたいわ?、けどね、ここに至るまでのプロセスってものがあるじゃない、シンジ君は彼女が無茶をするからエヴァになったのよ、つまりやむをえずってことでしょう?」
ギュウと拳を握り締めている。
自分に言い聞かせているのがはっきりとわかった。
「……諌めるべきはシンジ君ではないと言うのね?」
「頭に血が登ってるだけでしょう?、冷静に……、冷静になってくれれば、どうにでもなるわ」
「しかし思い切ったことをするね」
カヲルはそう口にした。
「まさか兵装ビルの存在を公にするなんてね」
「これで第三新東京市が要塞都市であることが露見したな」
「それ以上に、シンジ君の姿に、上は一体どんな興味を持っているのか、知りたいね」
「これが碇の計画か」
「なるほど、我らの上を行くものだと認めよう」
「存在の確認は成った、しかし、まだだ」
「あ……」
レイは目を丸くした。
(誰?)
人の形をしたものが、自分の代わりに槍を受け止めてくれていた。
胸から背中へと貫通している、顔を確かめる間もくれずに四散した。
「ちっ」
鋭い舌打ちをして槍を引き戻そうとする、その動きに合わせてレイは槍を突きだし飛びかかった。
「やあっ!」
僅かに身を捻るゴリアテ、肩口の肉をロンギヌスの槍に持っていかれた。
よろめくように下がる、右肩をやられたというのに槍を取り落とさなかったのは驚きだった。
「ふ、む」
力を込める、『エヴァ』を発動させる。
化けるための能力を整形に用いて肩を癒す。
(なんだ、さっきのは)
アスカと同様に、『彼』も一度知覚した存在は見失わなかった。
レイの背後で、先程自分が砕いた何かが、またその姿を取り戻そうとしている。
エヴァが凝縮して行く。
(エヴァが?)
彼は自分の発想に驚いた。
(馬鹿な、エヴァは人の魂が放つ力だ、魂から搾り出される力だ、それが凝縮だと?)
誰かが放っているものでないなら、一体どこから集まって来ると言うのか?
(エヴァは我々が考えているような代物ではない!?)
「やぁ!」
レイの気合いに我を取り戻す。
「ふっ!」
短く気を吐いて槍を払う。
ズンと震動を受けて足を滑らし、転んでしまった、首を盗られたと一瞬信じたゴリアテだったが、レイは彼の存在を無視して叫んだ。
「シンジ君!」
先の震動は、シンジが倒れたために起こった地震であったのだ。
(くっ……)
シンジは中から溢れて来る力に戸惑っていた。
(これじゃあ殺しちゃうじゃないか)
最少の力でさえも大きな被害をもたらすことは確実だった。
しかし彼のメンタリティは、恐ろしい方向に向かい始めていた。
(レイを巻き込んじゃうよ!)
他にも逃げ遅れている人たちが居るかもしれないと考える、そう。
シンジは、もう、武器を向けて来るマサラのことを、知り合いとしては認識してはいなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。