──感動は悲劇無くしては演出されないものなのか?
──愛は障害無くしては盛ることのない炎であるのか?
どうかしらねと言った女性がそこにいた。
「そりゃあ? ユイの場合はねぇ」
「なによぉ」
「生まれからして尋常じゃないしぃ? そりゃあ碇君とは燃え上がっちゃったでしょうねぇ」
いやらしい、とユイは言った。
「わたしたちは純粋な恋をしてるんですぅ」
「二十歳過ぎた女に純粋なんてあってたまるもんですか」
「ふーんだ、キョウコみたいに汚れてないだけよ」
「誰が汚れてるってのよ!」
「じゃあ賭ける?」
「賭けるってなにを?」
「シンジとアスカちゃんが恋をするかどうか」
「……嫌よ」
「当然キョウコは障害アリ派なんだから、障害ってのを準備してくれるんでしょう?」
「ないったら! それ言ったら障害があって燃えてるのはあんたなんだからっ、あんたが用意すべきでしょうが!」
「嫌よ! シンジに嫌われたくないもの!」
「わたしだって嫌よ!」
『ふーんだ!』
そんな白衣姿の女性二人を、遠くから首を傾げて見ている男たちが居た。
「なにをやっているんだ……あの二人は?」
「さてな……俺も未だにあいつの考えていることはよくわからん」
「だろうな」
「碇……お前だって似たようなものだろう」
「ユイは育ちのためだ。まだ精神的には幼い……キョウコ君とは違う」
「それはうちのの性格が本当に変だと言っているのか?」
「さてな」
「……」
「……」
「……このロリコンめ」
「誰がだ!」
「お前以外の誰がいる! 相手が世間知らずなのを良いことに手玉にとって」
「言い寄ってきたのはユイだ! ユイが……」
そしてそんな親たちを見ている子供たちが居た。
研究所の託児所。三方を壁に、一方をガラスによって区切られた人工芝のスペースで、大きなブロックを積んで遊んでいる、黒と赤毛の少年と少女……。
それは二人すらも覚えていない、とても幼い頃のことだった。
「シンジ君!」
リツコは大慌てで駆け寄った。
「なにをしたの!」
「心外ですね……」
苦笑して見せる。
「僕じゃありませんよ……今回はね」
「そう……本当なのね?」
「ええ……あなたならわかると思いますが」
「なに?」
「シンジ君の中に棲みついているものと会いましたよ」
リツコははっきりと息を呑んだ。
「そ、そう……」
「あなたではないのか……なら」
カヲルは棟の上を見上げた。
「一体、どんなからくりが潜んでいるのか」
「この!」
レイは自分と同じ顔だからか、そこを避けて攻撃しようとした。
しかしその攻撃を受けたものは、顔面をぱっくりと左右に裂いて突き出された穂先だった。
目の位置が第二の口のように上下に割れている。眼球がこぼれ落ちそうになっているのだが、視神経と筋肉組織がそれを支えて持ち上げた。
「うげ……」
またも生理的嫌悪感から躊躇してしまう。
今や左右に飛び出す形で目は動いていた。高さも瞳孔の方向も揃っていない。
中心から伸びた穂先がねじれを解いて二股になった。
ぱくぱくと口が動く。
『どうした? わたしはまだなにもしていないぞ?』
「その格好だけで十分よ……」
『ならおとなしくここで朽ちることを薦める。後はわたしがお前になりきろう』
「冗談! シンジクンにそんな姿見せられたら……」
『幻滅されるか?』
「その通りよ!」
槍を突き出し、穂の間で量子加速を開始する。
第三眼とは比べものにならない光の球が生まれ、空気を焼き始めた。
「燃やす!」
『どうかな!』
ゴリアテは体ごと首を振ってその槍を受けた。
爆発が通路を前後に吹き抜けた。
「うわ!」
「きゃあ!」
リックとミサトは背後から吹いてきた暴風に背を押されて転がった。
「くっ!」
リックは吹き抜けていった風を引き寄せて、吹いてくる風にぶつけ、相殺することにした。
奇妙な渦巻きがそこに生まれる。
「なんなの!」
「二人……でしょうね」
「まったく! だから能力者同士の喧嘩ってのは」
「喧嘩なんて生やさしいもので済むでしょうか?」
ミサトは変貌したゴリアテの姿を思い出して眉をひそめた。
「心配……ですか?」
「そうね」
「でしょうね、あのゴリアテを綾波さんが」
「そうじゃなくて」
急ぎましょうと背を叩く。
「あたしはゴリアテ君を心配してんのよ。大丈夫、ファーストチルドレンの称号は伊達じゃないわ」
四つ足で踏ん張ったゴリアテは、大気の揺らぎにレイの姿を見失っていた。
『どこに』
突如、背中に激痛が走った。
『カッ!?』
レイが背後に回り込んでいた。ぐっと槍に体重をかけて、背中から腹へと貫き通す。
「!」
レイは槍から手を離して飛びすさった、半瞬遅れでゴリアテの背中の殻が開く。
胸筋の上側、鎖骨との境目に隙間が開いていた。そこから空気を吸い込んで、背中の殻の下から噴き出した。
「槍!」
手を伸ばす、槍はレイの意志を受けて一人手にゴリアテから抜けてその手に戻った。
ゴリアテは天井、床と跳ねるようにぶつかりながら数メートルを飛ぶと、滑りながら着地した。
ガサガサと動いて振り返る。
『第三眼を使い、爆発と炎、風の動きを読んで、衝撃の隙間を縫って動いた?』
その顔は驚愕にゆがんでいた。
『そこまでできるものなのか』
レイは自信満面の顔をして、槍がなかったらできなかったでしょうけどね、とわざわざ教えるような真似はしなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。