「ああもうだからそういうこといってんじゃないっていってんでしょうがぁ!」
うがぁっとキレかけているのはアスカであった。
「良い!? 夢の世界ってのはなんとなくでも自分のが願望が反映されてるモンでしょう? それはあんたの妄想ってもんで満たされてる空間だからよ! あんたって精神だけで構成されている世界だからっ! これはわかるでしょ?」
うんと素直に頷くシンジである。
「そういう精神物質とでもいうべき粒子みたいなもんで構成される力場帯がATフィールドによって区切られてる自分を中心とした枠の中。これは?」
「なんとなく……」
「普通の人間でも、こんな風になりたいって思ってると、微妙でもそれが体に反映されるのは何故? 人間はどんな人間でもATフィールドを持っているからよ! だからある程度は自分の体に影響を与えられるの」
「僕はそれが強くなってる状態なの?」
アスカの答えは簡潔だった。
「そういう話はまた今度」
「……自分だってわかってないくせに」
「なにかいったぁ!?」
「今度とかいって調べておくつもりでしょ?」
「レイうるさい!」
べっだと舌を出すレイである。
「とにかく!」
シンジに指を突きつける。
「夢の想像範囲が広がればどうなるの? 共感って現象が起きるのよ! クリエイターが想像した作品に影響を受けて夢にまで見るって状態があるでしょう? あるいはそれのコピーや模倣を始めてしまうとか、影響を受けてなんとなくそういう方面に走ってしまうとか」
「それがこの間の……、ええと、僕がみんなの力を引き出したとかって話になるの?」
そうよとアスカは頷いた。
「あんたの妄想っていうかさ、そういうのに影響を受けて、もっとやれるって思ったのが、がんばったって連中なのよ!」
アスカは慎重に言葉を避けていた。別段影響を与えるという意味では、力による共振のような現象でなくてもかまわないからだ。
例えばシンジが『彼女』に送ったような、言葉でもいい。
(その結果が、これだからねぇ……)
だから、連想しはしないかと、冷や冷やしながら解説していた。
「彼女が起こした現象については……一応、見せては貰いましたが」
ゲイツは、非常に訝しげに首を傾げてリツコを見やった。
「あれは一時的な時空連続帯の破壊現象なのでは? わたしにはそのように見えましたが」
もちろん見えたとはデータがの意味である。
「それについては問題ありませんわ。答えはどうであろうと構わないからです」
「はぁ……」
「まったくの未知の現象が起こるかもしれません。あるいはわたしたちにとっては一瞬のことで、彼にとっては何億年もの旅になるかもしれません。いいえ、信号だけのやりとりになるのか? あるいは次元を跳躍することになるのか、まったく、なにもわからないのです。ところが、彼女、セカンドチルドレンは、本能的にでもなにかエヴァという力について、鋭く本質を嗅ぎ取ってしまったようなのです。そのために力を使えなくなってしまった」
「理解できてしまったがために失ってしまったと?」
はいと頷くリツコである。
「人間は……不便なものなのですね。無意識の内にならできることでも、意識しながらでは余計な力が入ってしまってわからなくなる。似たようなことですわ。彼女はわかっているからこそできなくなってしまっている。ところが人間の意識や言語能力では、それを言葉にして言い表すことができない。そのためにわけがわからない……となってしまっている」
はぁっとゲイツは嘆息した。
「それが苛立ちになってしまって、また余計な空回りを生んでしまうと」
「そういうことです」
「それが彼にも重大な問題となって降り注ぐと?」
まさにしかりですとリツコは頷く。
「余計な先入観を与えてしまったがために、状況に適応して、直感で能力を展開する。そうして死を免れる……。そのようなことができなくなるかもしれません。コンマ何秒かの躊躇が事態を決定的にすることもあるのですから」
「そのためには、説明といいながらも、あまり詳しくは語れないと?」
「……隠すつもりはありません。けれども、うまく伝えなければならないと」
彼女は右手で右肩を揉んで苦笑した。
「疲れる仕事ですわ」
「それを口にしては……」
「はい?」
「彼に嫌われてしまうのでは?」
「ああ……」
苦笑する。
「シンジ君は……こんなことではなにも思いませんよ。逆に苦笑しながら、ごめんなさいとねぎらってくれますわ」
「わかりあっているということですか?」
「四年も五年も付き合いがありますから。お互いそこそこには理解があります。それに……」
「なんです?」
「……ほとんどが、ただのパフォーマンスですから」
「はい?」
不思議そうにする彼に、リツコはからかうような笑みを向けた。
●
ゲイツにはリツコの言葉の真意は読みとれなかった。
パフォーマンスとは誰に対してのものであるのか?
「じゃあ……」
発令所である。
オペレーターの3人は、暇をもてあまして集まっていた。
「赤木博士がやってるのって」
「そう」
クッションをお腹に抱えているマヤが、苦笑混じりに二人に教えた。
「碇さんが、上がうるさいからって。……センパイってシンジ君のこと信じてるから、その辺は適当にクリアしてくれると思ってるみたい」
二人は顔を見合わせた。
「まあ……」
マコトがこぼす。
「なにがどうなってるか、なにがどうなるんだかまったくわかんないってんだから、そういうのもありかもしれないけどさ」
「シンジ君任せか」
シゲルもぼやく。
「それってけっこう、なんだな」
「うん」
でもとマヤ。
「肉体的なものだけじゃなくて、ATフィールドは絶対障壁だから、その障壁に干渉してくる『世界』の波長? みたいなもので、周辺の状況を読みとる超感覚みたいなものが形成されてるのかもしれないんだって」
「なるほどな」
「シゲル?」
「つまりさ、シンジ君は高感度なセンサーを備えてるわけだよ。ところが口で説明できるものではないから、みんなに納得してもらうためには、シンジ君自身に心配することなんてないんだって顔になってもらう必要があるって、そういうことだよ」
そのための説明会かとマコトは納得した。
「大変なんだな……」
「そりゃそうよ!」
興奮して声を上げる。
「世紀の実験って、こういうことをいうんだろうなって実験よ? そう簡単にやらせてもらえるようなものじゃないもん」
「……マウイ島とかの核実験よりも危険視されてるんだよな」
ぼそりと呟いたシゲルに対して、マヤは、どうしてそういうこというの? と、ぷぅっと頬をふくらませた。
[BACK][TOP][NEXT]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。