「きゃああああ!」
「アネッサ!」
 カヲルの足下で土砂が弾ける。
 一瞬の後、カヲルはアネッサを抱いて湖に飛び込んでいた。
「アレン、ヤン!」
 二人はそのまま水中に没する。
 ヤンは崖下の浜に待機していたが、彼らを救おうとせずに周囲に警戒の目を光らせた。
「どこだ?」
 上方で閃光が爆発する。


「わたしはこういったものは苦手なのですが」
 何者かの攻撃にさらされている。
 どれほどの力であろうとも、現象として襲いかかってくる以上は何かしらの前兆が現れる。
 それを察知できるアレンだからこそ避けられるのだが……。
(運動神経がよくないんだよな)
 自の口調で考える。
 広範囲の攻撃を行われると、避けられないのがアレンだった。
「くっ!」
 発火能力者なのだろう。
 木が燃え上がる。草が弾ける。
 それが、地を舐めるように広がった。
(気づかれた!?)
 そんな彼の様子を、襲撃者は笑いながら観察していた。


「……こんなものか」
 くつくつと笑っている。
 彼らの格好は、先にカヲルに打ちのめされた者たちと同じものだった。
「フェーサー家の子飼いと言っても、な」
 仲間が同調する。
「渚カヲルが突出しすぎているんだろう。だから皆あれを基準にして、その下にいる者たちまで質が高いのだと勝手に思いこんでいたんだよ」
 ぱちんと指を弾くと、逃げまどうアレンの正面に火柱が立った。
「遊ぶなよ」
「遊ばせてもらうさ」
 ヘルメットの下にある唇が笑っている。
「あの程度で、我らのアスカ様を(かどわ)かそうなどと、腹が痛い」
「…………」
「アスカ様にも匹敵しうると謳われた俺の炎を、存分に味わってもらわないとな」
 同行者は嘆息した。それが彼の肥大化した自意識による妄想であると知っていたからだ。
(アスカ様は核爆発級の炎を生み出されたという)
 未だそんな能力を発したナンバーズはいないのだ。
 もちろんこの情報には誤りがある。
 彼女が最大の火炎を生み出したのは、エヴァンゲリオンという媒介があってのことなのだ。
「こちらはあくまで陽動だ。目的は渚カヲルの行動を制限すること。わかっているな?」
「わかってるよ。雑魚にはかまうなってことだろ?」
 ハッハー! そう彼は笑った。
 増長してしまっているのかもしれない。だから彼らは仲間の動向を確認しようとしていなかった。
 彼らの仲間たちは、真っ先にアスカたちを襲おうとして、軽く倒されてしまっていた。


 アスカは02に01を抱きかかえさせると、急いでエヴァから外に出た。
 レイのようにはいかないので、無難にはしごを利用する。装甲に隠されている降下用のものだ。
「レイ!」
 急ぎ走って呼びかける背後で、エヴァが二機とも収容されていく。
「どうなの!?」
「息はしてる……それだけだけど」
「そう……」
 ほっとした様子でしゃがみ込み、アスカもシンジの顔をのぞき込んだ。
「顔色が悪い……」
「それにやつれてるみたい……」
「まさか呼吸してるだけ……ってことはないでしょうね?」
「わかんいないよ……」
「…………」
 言うんじゃなかった。アスカはそんな表情をした。
「ちっ……。頼りたかないけど、あいつくらいなのよね、頼れるのってさ」
 しかしそのカヲルはここにはいない。
 だからシンジの頬をぬらす粘液を、そっと手で拭い去った。


(くっ)
 ごぼごぼと泡が立つ。
 その中で必死にもがくが、どうにもアネッサの体が邪魔である。
 泳いで浮かび上がれない。
(仕方ない、ね……)
 カヲルはアネッサを抱きしめて、全身に強く力を込めた。
 ──ボコ。
 奇妙に肉がふくれあがる。それは肉団子のようにふくらんで……。
 アネッサを飲み込み、さらに大きなものへと変貌した。


「そろそろあっちも……なんだ?」
 護衛を先に片づけよう。
 そういうつもりになったのだろうか、彼らは湖に起こった異変に気が付いた。
「なんだ!?」
 崖の向こうから、白いものがせり上がってくる。
 それは背中だった。巨人の背だ。
「まさか……」
 驚愕に声を震わせる。
「エヴァンゲリオン!?」
 しかし彼の情報に白のエヴァンゲリオンはない。
「まさか!? 本部はさらなるエヴァの発掘に成功していたというのか」


 そして同様の混乱に陥っている者たちがいた。
 戦略自衛隊の面々である。
「……碇司令の切り札か?」
「あるいは……」
「なんだ?」
「これの紹介と、デモンストレーションのために、この場が用意されたのでは」
「……適度な敵と、限定された交戦域。そして記録者か」
 自分達は利用されている?
 男たちは、進展する事態に傍観を決めていた。




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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。