そもそも騎士団の発祥は、綾波レイを教官とした諜報部の育成計画にまで遡ることになる。
 覗き屋の集団……それが彼らに与えられた蔑称だった。しかしなんらかの抑止力としての恐怖が必要であると考えられていたのも、またそれは致し方のない発想によったことではあった。
 ATフィールドの広域展開による存在感知。
 それはアース建国以前に、シンジが確立した探知技能であった。


「つまりね? 三人からのチームを組んで、ATフィールドを共振発生させて、薄く、広く、展開してるの。地区ごとにね? もしこのフィールド内で、害意や悪意を抱いた人が居たとすると、それが張ってる人たちには、火花が散ったように感じられるんだって」
 シンジが軽く付け加える。
「詳しいことは騎士団の秘密だから教えてはもらえないんだけどね。でも僕の場合は花火って言うよりも……なにかこう……ざわざわとした感じを受けるんだよな」
「ざわざわ……」
「そうさ。だからこうしてまっすぐ歩かないで、あっちこっちにふらついてるんだよ」
 マユミは足がむくんできているのを感じていたが、そう説明されては逆らえなかった。
「からまれるとか、そういうことはないと思うけどね。でも面倒なことにはなるかもしれないから、避けた方が無難でしょ?」
「臆病なんだから……」
「苦手なんだよ、そういうのって」
「恐い人が?」
「僕はお金を脅し取られるタイプだからね」
 よく言うわっと、マナはシンジの肩を叩いてやった。
「この街の誰がシンジを脅せるっていうの」
「そっかな……」
「っていうか、この街でシンジの顔を知らないモグリっていないと思うけど」
「なんでさ?」
「そういうものだから」
「…………」
 なにか非常に不名誉なことのような気がする……そんな気持ちに囚われる。
「で、まずはっと」
 マナは落ち込むシンジを捨て置き、マユミに自分の携帯電話を覗かせた。
「ここ!」
 液晶画面に、街の地図が写されている。さすがにマユミのポータブルほど精密な地図ではないが。
「ここって……」
 それでもマユミには、そこがどこだかすぐにわかった。
「市庁舎ですか?」
「知ってるの?」
「届けを出しに行きましたから」
「そっか。まあ良いから良いから」
 にたぁっとマユミに見られないようにシンジに笑う。
「……よくないことを考えてるでしょ?」
「あ、やっぱりわかっちゃう?」
「わかるよ……」
 シンジは疲れた調子で、おほほほほと笑うマナに肩を落とした。


「やあ」
 第一印象は、さわやかな青年だった。
「君が山岸マユミさんだね?」
「はっ、はい!」
「よろしく。僕はカヲル。渚カヲル。カヲルで良いよ、山岸さん」
「はい! よろしくお願いします……その、か……」
「か?」
「んなさい……、渚さん」
 ふふっとカヲルは、悲しげに微笑んだ。
「良いんだよ、山岸さん」
「で、でも……」
「君がたとえ、僕のことを名前で呼んでくれないとしても、君がたとえ、僕に君の名前をくちにさせてくれないとしても、僕たちはもう出会ったんだから」
「…………」
「どうしたの?」
「あっ、いえっ、その……」
「ふふ……。君の心は、とても恥ずかしがり屋さんなんだねぇ」
「……ごめんなさい」
「いいさ。気にしてないよ。僕としては友達の一人になって欲しかったんだけどね」
 なにしろとこの広い部屋に腕を広げる。
「妙な役職を押し付けられてしまったせいで、僕には気安く話しかけてくれる人の一人だっていないのさ!」
 するとソファーで優雅に茶をたしなんでいたアネッサが、カップを口元に浮かせたままでジロリと睨んだ。
「よくお言いになりますこと」
「なんだい? アニー。なにか不満でもあるのかい?」
「不満だらけですわ」
 そうか……と落ち込む。
「でも、今の僕には君の不満を解消してあげられるだけの自由さえないんだよ、わかっておくれ……」
「はい、お兄様」
「アニー! よかった」
「はい。今のお兄様には誠意の欠片もないことくらいは、承知しておりますわ」
 そこまで言うことないじゃないかとぶつぶつと拗ねる。
 マユミは思った。
(テレビって嘘吐きだ)
 実際、マユミの中にあるカヲル像とは、テレビとドイツのリュンの姿によって構築されたものである。
 こんなお笑いキャラでは決してないのだ。
「しかし……どうして君たちは国王の執政室をお茶会の場にするんだい?」
 あっとマナが口にする。
「そんなこというと、もう遊びに来てやんないから」
「……わかったよ、悪かったよ、この」
 机の下から、箱を取り出す。
「幻の銘菓、かみなりおこしを上げるから機嫌を直してくれないかな?」
「うん」
「……安いねぇ君は」
 ふふんとマナ。
「どうせ置いといたって、レイあたりがパクつくだけでしょ? だったら先に食べてやる」
 きらーんと目を輝かせる。
「ほらマユミ、食べよ? アネッサとシンジも」
「いただきますわ」
「そうだね」
「……僕の分は残しておいてくれないのかな?」
 結局、妙な取り合わせでのお茶会となった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。