「きったないんだよ! この!」
 整備場へと移動されたところで、ムサシはエヴァの背中から出るなり大声を放った。
「わざわざ通信繋げてから、後ろなんて言いやがって!」
 同じく00から出てきたレイは、へへーんだと舌を出し、顔の両側で手のひらを広げた。
「つられる方が未熟なんですよぉだ」
 カーッと熱くなる。
「このっ!」
 その後頭部を、コンッとレンチでマナが小突いた。
「ムキになってるんじゃないの」
「ま、マナ……それ、くぉおお……」
 力を込めれば人を殺せる狂気である。
 さすがにレイも、痛そうだなぁと同情した。
「マナちんがいるから嫌ぁ〜〜〜な予感はしてたんだけど」
「マナちんって……」
 それはやめてとマナはコクピットから降りたレイに近寄った。
 もちろんムサシも一緒である。
「でもなんでムサシ君が?」
「マナに頼まれたんだよ……新型コクピットの試験がやりたいからってな」
「あのアスカがテスターやってるやつ?」
「そうだよ」
 驚き、レイは目を丸くした。
「あれってもう使えるの?」
「まさか! もちろん機能制限付きよ。神経に負担がかからないようにね」
「それでかぁ……変によろよろしてるのがいるなって思ってたんだけど」
「シンクロ率三十パーセントでやれっていうんだから無茶なんだよ」
「でもなんとかなってたじゃない」
「したんだよ!」
 くいっと親指でレイを指す。
「綾波ってな? 先読みの都合かもしれないけどさ、とにかく動いた奴……動きそうな奴から攻撃していく癖があるんだよ」
「そうなの?」
「気がつかなかった……」
 ふんふんと話を聞くレイである。
「で?」
「…………」
 ちょっと頭痛がするらしい。
「あのな? お前ってさ、こう動こうってする気配が見えたら、どう動くかを読むだろう? 逆に言えば、動かない相手を後回しにしているってことになるんだよ」
「それってなるべく先に負かされたりしないようにって、じっとして逃げ回ってたってこと?」
「カッコ悪ぅー」
 ぐっと唸る。
「作戦だって! いつも最後は派手なことをやってたろ? そこを狙うつもりだったんだよ!」
 まともに動けないんだから仕方ないじゃないかと言う。
「三十パーセントなんて、水の中で格闘技やらされてるようなもんだぞ?」
「……鍛え方が足りないってことで」
「揚げ足取るなよ!」
 からかいすぎたかとマナに振る。
「実戦にはどうなの?」
「まだ無理よ。だからムサシに頼んだんだもん」
「弐号機に乗ったこともあったんだっけ」
「経験と勘があるわけ。今の実働部隊よりも上よ、きっとね?」
 そ、そうかなぁとテレテレとするムサシに、レイとマナは見られないように背を向けて舌を出した。
 これだから単純な男は扱いやすい。
 そんな風にも、目を見交わし合った。


「実験は段階を踏みつつも着実に進んでいるというわけか」
 コウゾウである。
 ネルフ本部内の、長いエスカレーターの上に、彼はゲンドウと共に居た。
「エヴァンゲリオンの量産化計画……零号機すらも動かせなかった頃とは随分と違うな」
「ああ」
 聞いているのかいないのか、非常にわかりづらい生返事だった。
「低シンクロ率でも、戦闘に耐えうる機動性を引き出せる。それが新型コクピットのコンセプトだそうだが……どうなんだ?」
「所詮はフェイクだ、まがい物に過ぎん」
「ないよりはマシ……という程度か」
「そうだ……そしてそんなものでも連中は満足するだろう」
「支部の連中か?」
「奴らが欲しがっているのは、ATフィールドを展開できるエヴァンゲリオンだ。それも、部隊を作れるほどの数を欲している」
「愚かしい限りだな……」
 そうれはそうとと話題を変えたように見せかける。
「山岸マユミ、彼女の方は芳しくないようだな」
「本人にやる気が見えんからな」
「やはり忌避しているのか? 力を」
「主役になることを恐れているに過ぎんよ」
「主役か……」
 そういうものだろうなと同情する。
「脚光を浴びることで、自身の嫌な側面までも覗かれてしまう……そういうことを恐れているのか」
「そういうことだ」
「おしいな……彼女の協力が得られれば、久方ぶりに学者に戻るつもりだったのだが」
「なにをするつもりだ?」
 コウゾウは形而上学を覚えているかと問いかけた。
「つまり、神はいかにして神の形を得るかだよ。彼女を守ろうとした使徒細胞はウニのように変化したそうだが……」
「人が神経接合できる形は、自身が慣れ親しんでいる自分という形でなくてはならない……それがエヴァの設計思想だ。人形でないエヴァを作るつもりか?」
「外的操作による自動思考兵器。作ってみたくはないか?」
「それは使徒だ」
「そうだろうが……使徒に親玉はいないぞ」
 ゲンドウはどうかなと言った。
「いるのかもしれないし、いないのかもしれない」
「どういうことだ?」
「例え死んでいたとしても、我々外敵を排除する方向で動いているのは何故だ? そうプログラムされているからだ」
「神の声……か」
「ああ」
 後ろに手を組む。
「神とは実在しないものだが、敵として認知されるものでもある。神を討ち滅ぼすべく戦った者たちの相手とは、獣であり、人であり、神を倒したと叫んだ者たちは、ただ神に跪いていた者たちを排除し、神の名を叫ぶ者を消し去ったに過ぎなかった」
「見えない神……使徒を走らせているプログラムこそが本当の敵か」
「これだけ発掘が進んでいるというのに、見つかっているプラントは小型のものが一つだけだ。まだあるはずだ」
「大型のプラントか……」
「使徒がシンジたちのように、電波以外の方法で通信を行っているとすれば」
「また別種の使徒が誕生することもあり得る……それはわかるが」
 考えすぎではないのかと訊ねる。
「どうなるかはわからなんのだから……備えは必要だが」
「現在のシステムでは対処が遅すぎる。先兵としてナンバーズを出し、何かあってからサードやフィフスの投入では間にあわんかもしれん」
「ではどうすると?」
「せめてシンジやカヲルを呼び寄せる時間稼ぎのできる者が必要だ」
 それが彼女にできるとは言わんがと、ゲンドウはどこか言い訳がましく付け加えたのであった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。