──鈴原ハルナ。
 七歳差の女の子である。彼女は第三小学校に在籍していた。
 一度は鈴原トウジとともに、関西へと引っ越したのだが、その先でエヴァに目覚め、再びこの街へと舞い戻る羽目になったのである。
「本当ならトウジか誰か、保護者が一緒に来ても良いんだけど……」
「じゃあなんでハルナちゃんが一人だけで?」
 アスカにとっては、顔も覚えていない女の子である。それでもトウジとともにいるところを、三度ほど目にして記憶には残していた。
「ここってさ、外国扱いじゃないか。引っ越しと移住じゃずいぶんと違うからね」
「それが理由になんの?」
「トウジの親族って人たちって、あんまりネルフに良い感情を持ってないらしいよ。トウジがしばらく落ち込んでたのを見てさ、怖いところなんじゃないかって思ってるんだって」
「ふうん……」
「だから、本当はハルナちゃんも戻したくないらしいんだけど……」
 それでも、発現したものは放置できない。
 不用意に爆発することでもあれば、どのような被害が周りだけでなく、自分にまで降りかかるのか、わからないからだ。
「事故……か」
 アスカはそのような事件の報告書にも目を通していた。
 物質透過能力を身につけた少年がいた。
 彼は物体の中を自由に泳ぎ回り、忍び込み、いたずらしていたが、多分に『やんちゃ』であったため、自分のしていることを、今ひとつ理解できないで居たのだった。
 そのため、事件となった。
 彼は、女子更衣室に現れた。驚かせるつもりだったのだろうが、相手は恐ろしさのあまり泣き出した。
 ちょっとしたいたずらじゃないか──責められた彼は、そのように言い返したのだが、これを説き伏せた側は、相手が子供であると言うことを考慮せず、きつく弾劾したのであった。
 ──精神的なキズは一生ものである。
 彼女はこの記憶を永久に残すだろう。それは男性不信を生み、人嫌いへと発展するかも知れない。
 その原因は、すべてお前にあるのだと責められ、少年は愕然とした。
 ──そして暴走が引き起こされた。
 物質をすり抜ける能力を制御できなくなり、地殻を抜けてしまったのである。
 正常に能力を働かせていたのなら、地核の熱すらも『すり抜ける』ことができたのだろうが、彼は失敗した。
『もし彼が生き延びていたら、そのときは僕の出番だったろうね』
 それが当時の事件を振り返った、渚カヲルの意見であった。
『死にたくなるような目には、会わせることになっただろうけど……』
 それはまだ、カヲルが執行役を請け負っていた時期の話なのである。
「で、あんたはそれを引き受けるわけ?」
「わからない……」
 ノゾミからの依頼とは、彼女と話をしてみてもらいたい……というものであった。
「トウジの側にいたわけだからね……多少はエヴァってものや、ネルフとか、そういうことはわかってるみたいだよ。ただ……」
「ただ?」
 シンジは、想像らしいけどと前置きをして話した。
「ハルナちゃん自身は、トウジの側にいたいって感じらしいんだ。親戚の人たちもその方が良いって言ってるみたいだよ」
「じゃあそれで良いんじゃないの?」
 シンジはかぶりを振った。
「反対してる人たちが居るんだ」
「誰よ?」
「トウジのお父さんと、おじいさんだよ」
 アスカはわずかに息をのんで、次に、ああと納得した。
 二人はネルフが、まだゲヒルンと呼ばれていた頃から、そこで働いていた人間である。
 その二人は、孫、あるいは子供にとって、どこが一番安全であるのか、わかってしまっているのだろう。
「そうね……元々鈴原がここから出てったのって、あいつのケジメみたいなもんだったんだからね……ここに嫌な思い出があるとか、そういうもんじゃないだろうし」
 大好きな兄が毛嫌いしていて、住みたくもなくなった場所……というわけでもないのである。
 しかし、本当に嫌な思い出がないのかどうか……シンジはそれを思ったが、口に出しはしなかった。
「とにかく……そういうわけだからさ、一応は会ってみようと思うんだ」
「それはいいけど……」
 アスカは疑問を差し挟んだ。
「どうして、あたしに断っとくわけ?」
 そう言う話がある、と、話題として上らせるだけならまだしも、探るように了承を取る様が怪しいと感じるのだ。
 シンジは、ん、まあ……と、非常に言いづらそうにし、告白した。
「場合によっては、僕が保護者ってことになるかもしれないから」
「またなのぉ?」
 あきれて目を丸くする。
「マユミはどうすんのよ?」
「だからさ」
 シンジは表情を引き締めた。
「いい加減……それまでに、はっきりさせたいんだ」
 ──マユミのことを。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。