「シンジクン!」
 一番最初に、シンジの行方を突き止めたのはレイだった。
 携帯電話へと連絡が入って、彼女は地下森林の植林場へと転移した。
 突然現れた、レイの異常な形相に、シンジとともに植林に携わっている数名の男女が驚きの顔を向けた。
 しかしレイには気にしている余裕はなかった。
「どこに行ったか、わからないの?」
 シンジは話を聞いて、それはおかしいと感じた。
 レイならば、未来視が使えるのだから、そうそうわからないということはないはずなのである。
「だって、全然知らない子なんだもん」
「でもさ、その子が居た場所から、つながってるところをあたっていけば……」
 連鎖の先を追っていけば、どこかで見つかるはずだというのであるが、レイは「もう!」っと怒った。
「そんなこと言ってる場合じゃないんだってば!」
 なんだよとシンジはすねた。
(何でもかんでもできると思ってるな? たぶん……)
 そうは言いつつも、結局、少女の捜索に手を貸してしまうシンジであった。


「離してっ、死なせてください! いやぁ! お母様ぁ!!」
 取り乱す少女を、三人の女教師が取り押さえようとして、顔に傷を付けられていた。
 このようなとき、上流階級の子女は頼るところを持たなかった。
 親元を離れての移住である。豪華な居住部屋に、召使いを抱えていても、精神的な支えとなる存在は遙か海の彼方であった。
 そんな教室の壁際では、マユミがおろおろと取り乱すところを見せていた。
「山岸さん!」
 そんなマユミに、教頭が手を貸せと大声を出す。
 シンジはこの場にはいない。レイもだ。
 少女を見つけ、捕まえようとして、二人は珍しく怪我を負ってしまっていた。
 今は保健室である。
 マユミは教頭のつり上がった目に、自分がなにを期待されているのか息をのんだ。
 ──あなたはそうなんでしょ!?
 自分たちとは違う生き物、超常能力者なんでしょと差別し、同時に頼り、期待する目だった。
 それはすでに、『そう』であることに慣れているマユミに、事態の収拾を期待するものであったのだが、同時に、マユミは、こうなって初めて自分が、違う生き物だと思われていたのだという、恐怖意識にとらわれてしまったのであった。


 ──役に立たないという陰口に、いたたまれなくなってマユミは逃げた。
 つまり、教職を放棄したのである。
 しかしこれを責めることはできなかった。
「これがあんたの仕掛けだっていうんなら……」
 許さないと言う目つきに、シンジはあわてて抗弁を計った。
「冗談じゃないよ! こういうのは……苦手だ」
 そんな泣き言を言ってうなだれるシンジに、アスカもそうねと、言い過ぎを認めた。
 互いに苦い想い出がこみ上げて来たのもあった。
 一時期以来、ゆったりとした関係を築くようになってからは、互いにこのような痛いことはとても嫌いになっていた。
「あんたはなにやってたのよ?」
 シンジは、まだ消えない頬の傷を、指先でなぞるように引っ掻いた。


 ──マユミは部屋の中に閉じこもってしまっていた。。
 アスカと同室なのだから、一人きりになることはできないと思っていたのだが、アスカが気を利かせてくれている……と、それもわかって、彼女はますます落ち込んでいた。
「ふぅ……」
 教頭の目、それが忘れられなかった。
 そして同時に、少女のすがるような目も忘れられなかったのである。
 自分はおかしい……そうも思い、気が付いたことがひとつあった。
 もし、仮に、このような事態に陥れば、本当ならば取り乱すのが当たり前のことではないのだろうか? それを自分は、なぜだか順応してしまっている。
 それを考えて見るに、彼女は答えを、シンジや、アスカや、そのほかの人たちにあると思い至っていた。
「みんな、当たり前のように受け入れてくれてたから……」
 だから、自分の居場所が無くなってしまったのだと、恐ろしくなることはなかったし、落ち着いて、日常の続きを演じても居られたのだ。
 ──なのに、自分はどうしたか?
 それを考えて、マユミは自分の失敗を悟り、自分を激しく責めていた。
 己がするべきことは、アスカ達がしてくれていたように、あの生徒にも、優しく受け止めてあげることだったのである。なのに、すがるような目をした少女を、自分はそれ以上の恐怖心を持った目で見てしまったのだ。
 ──今でも忘れられなかった。
 すがるような目つきをした女の子が、自分の顔色を見て、瞬時に表情を絶望に染めてしまったのだ。
 それは、とても忘れられるようなものではなかった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。