風が重く、冷たい。
同じくらいに、不快な空気が、ねっとりとした澱みを持って漂っていた。
シンジが前に出て身構え、レイはその後ろ左側から、体半分だけを覗かせている。
これはシンジがレイを守ろうとしているわけではなく、使徒討伐戦時から続けている、二人の基本スタイルであった。
長く戦闘に出ていなかったが、染みついた行動癖はこのようなときに出てしまうものであった。
──人間には、利き腕と逆の手がある。
それが自然と武器を持つ手と防具を持つ手を決めつける。
シンジは左側に盾を作る癖を持っていた。レイは無意識の内にその陰に隠れることを選択していた。
そうしておいて、ロングレンジからの攻撃を……つまりは遠距離射撃によるサポート役を務めるのである。
今、レイに武器はない。
だが第三眼は開こうとしていた。
(開けない……なんで?)
レイは様々な憶測を試みた。
(赤木さんが言ってたっけ……あたしたちの力って、魔法のように見えるけど、結局は化学変化の範疇に限定されていて、あたしのように未来を見ることはできても、人の思考を読むことはできないんだって)
だからとリツコは教えていた。
『あなたの力が量子レベルで働くものだったとわかったとき、ならば原子や分子運動を制御できる者が現れたとしたら、力がかち合うんじゃないかと思うんだけど……』
それなのかなと考える。
(あたしの力と干渉し合う力?)
「シンジクン……」
不安げなレイ。
しかしシンジは、すでに相手を見つけていた。
おびえるレイは足が遅い。
そんなレイを置き去りにするように、シンジは前へと進んでいく。
──ドン!
急激に圧力が増して、シンジの張る球状結界が大きくたわんだ。
内側に、いびつな形で歪み、窪む。
レイは押しつぶされるのではないかというおそれを抱いて、シンジの服の背中をつまんだ。
──こないで。
声が聞こえる。
「来ちゃ……嫌」
非常にか細い声だった。
しかしそれでもシンジは近づき……レイは、そこにうずくまっている少女を見て、悲鳴を上げそうになってしまった。
少女は無惨に膨らんでいた。
元は愛らしかったであろう顔、細かったはずの腕、健康的だっただろう足にまで、水泡と異母が生まれ、少女の体を二倍にも三倍にも膨らませていた。
レイは、それがなんの前兆であるのかすぐに気が付いた。
以前、一人の少年が、正体をなくして人間の姿を失ってしまっている。
水泡が弾けると、黒い霧が吹きこぼされた。
問題は、割れた水泡にあり、その内側は闇だった。
真っ黒で、体の内蔵が見えないのだ。
まるで別の宇宙へと通じてしまっているようだった。
「シンジクン……」
シンジは息をのんで、説明した。
「自己崩壊を起こしてるんだ……」
「崩壊?」
こくりと頷く。
「自分を壊して、消えようとしてるんだ……どうして、なにがきっかけで力が目覚めたんだろう? 何もしていないときに、なにもないときにいきなり目覚めるようなものでもないのに」
それを確かめないままにここに来てしまったことを、シンジとレイは後悔した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。