ばかシンジぃ!
懐かしい声。
ぼけぼけっとしてるからよ!
今ならわかる。お互いどれほど砕けていたか。
側に居るから。
約束したんだ。
だからもう泣かないで……。
側に居るから。
ずっといるから。
……の笑顔が大好きだから。
赤い髪が光に透けて、金色に輝いてゆらめいて。
その笑みを曇らせないで。
そのために僕は……。
僕は?
僕は、誰?
君は……。
ブォン!
金星に広がっているのは荒廃した大地である。
所々に酸素を生み出すジャングルが点在してはいたが、その総面積はあまりに少なく、まだまだ惑星改造の途上であることを知らしめていた。
まただ……。
昼間は太陽が大きいために、車外に出れば三十分と経たずにひぶくれて倒れることになる。
目の前には二分前に仕掛けて来た車のテールが見えていた。
山岳部で、片側は崖だ。
スピード計は二百キロを差していた。
路面はアスファルトで固められているのだが、ガードレールは無い。
通常の車にはオートナビがあるため、落ちる心配など無いからだ。
タイヤは特殊なゴムで、太めである。
小さな小石を踏んだ震動で、彼はトリップ状態から抜け出した。
「あ、そうだっけ……」
ふいにバトル中だったのを思い出し、彼はペダルを踏みこんだ。
Evangelion Genesis Next
Evangelion another dimension future:3
「初号機、使います」
コーナーを抜ける瞬間、外側に相手の車体が窺えた。
「嘘!?」
栗色の髪の少女は驚愕に目を見張った。
中央に戦闘機のコクピットのような物があって、その左右に四角いロケットエンジン状の物体が組み付けられている。
まるで戦闘艇のようなフォルムだったが、車体の下に見えるタイヤが、それが車であることを主張していた。
「こっちだってフルチューンしてるのに!?」
金星のように荒野が続く場所では、給油の目処などたちはしない。太陽電池による発電装置を積んでいるのが一般的だった。
車体を覆うボディー全体が太陽光吸収板になっているのだが、当然蓄電容量はそのエンジンによって異なってくる。
もう五分も走ってるのよ!?
隣の車をちらりと見る。完全密閉型らしく相手の姿は拝めなかった。
この!
アクセルを踏み込むが伸びが無い.
電力を規定限界数値以上に注ぎ込むことで爆発的な加速度を得る。
当然バッテリーの寿命は縮むし、それ以前にいつショートしてもおかしくは無い。
それに耐えられるようにするのがチューンなのだが……。
「どんなバッテリーを積んでるのよ!?」
彼女の操る車はすでに電池が切れかけていた。
スピードが落ちはしても伸びてくれない。
谷を抜けて直線に入った途端に、相手の車に置き去りにされてしまった。見る見る間に遠ざかっていくのが恨めしい。
時速二百キロを越える速度を数分間維持するだけでも、バッテリーは尋常でない消耗の仕方をしていくのだ。なのにあの車はまったく疲労が見られなかった。
あの車体本体が全部バッテリーだったの? 左右のパーツがそのままエンジンで……、あの形状、空冷のためのエアインテーク!?
彼女の車は改造しているとはいえ、元はあくまで一般乗用車である。
勝てるわけがなかった、っか……。
ついにはエンジンが止まってしまった。
限界以上の速度で走れるように、リミッターを解除していたのだが裏目に出た。
「電池切れ、っか……」
予備バッテリーも当然使い切っている。
あ〜あ……。
太陽はまだ高い。しかしエアコンも止まってしまった。
再充電……用の電池? 電装系もいっちゃったか……。
車は完全に死んでしまった。
「死んじゃうのかなぁ、あたしぃ……」
諦めてシートにもたれる……、と、遠くから陽炎のように揺らめいて、あの奇妙な車が戻って来た。
「ねえ……、ほんとにいいの?」
彼の車は二人乗りで、本物のコクピットよろしく前後にシートが並んでいた。
「完全に壊れちゃったし、それにシャワー早く浴びたいの」
牽引して戻る事もできたのだが、彼女はそれを断っていた。
「ねぇ……」
「なに?」
「名前……、聞いてもいい? なんていうの?」
ルームミラーが無いので顔が見えない。
前を覗くと、やや左寄りに取り付けられたジョイスティックを操る手が見えた。
……操縦桿、マジで?
後方はカメラで捉えているようだ、左手に小さく表示させている。
上部を覆っていたガラスに見えた物は特殊装甲板で、内側は全面がディスプレイになっていた。
外の様子をガラスを通して見たのと変わらない様に表示している。しかし時折ワイヤーフレームが路面の状態を表示して、それがただカメラからの映像を映しているだけではないことを示していた。
「どうして……」
「え?」
「どうして……そんなことが知りたいの?」
おかしな奴とも思ったが、別に教えてもいいという風にも受け取れて、少女はさらに詰め寄ることにした。
「だって興味があるじゃない?」
「なにが?」
「この車……普通じゃないし、それに乗ってる君、なに?」
話を手で遮られた。
「えっと……僕が聞きたかったのは、「聞いてもいい?」って言わなくても、別に教えてあげるけどって事で……」
彼女は緊張していた自分に気がついた。
「あああー! 笑うこと無いでしょう!?」
「ご、ごめん……」
「もう! あたしはマナ! で?」
「……シンジ、碇シンジ」
「へ? イカリ?」
頷いたのが後頭部の揺れで分かった。
「どっちが名前?」
「ファーストネームとセカンドネームだよ」
「……珍しいね? ファミリーネーム持ってるなんて」
「そうだね……」
なんで暗くなるの?
理由などわかるはずもなく、彼女は仕方なしに話題を変えた。
「ね? シンジ君の家ってどこなの?」
「……ドームナイン」
「あれ? 一緒なんだ……、でもうちの学校にシンジくんって居たっけ?」
シンジはまたも苦笑した。
「隣のクラスだよ」
「うそ!?」
と言うことはマナを知っていたという事になる。
「く、悔しい……」
からかわれた。
そう言う想いで一杯になった彼女であった。
ブォン……。
車をとめてキャノピーを開く。
「……ここがシンジ君の家?」
「そうだけど……」
巨大なドームは内部が常に冷却されて、そこそこに過ごしやすい環境が維持されてる。それが彼らの暮らす世界、ドーム9であった。
シンジの家はドームの外れにある資材置き場にあった。錆びたバラック、トタンの屋根の小屋。それに大きな倉庫があった。
「ん〜〜〜、ちょっと予想外かな」
「なにが?」
「だってそんな車に乗ってるんだから、きっとおぼっちゃんなんだって思ったんだもん」
笑いながら、シンジは巨大な倉庫の扉を開いた。
鉄骨にトタンを張り付けているだけなので、防犯と言う観点からはまるで程遠い状態である。
「珍しい物しか無いと思うよ?」
「なにそれ?」
ガコン……。
扉を開くと、シンジはもう一度車に乗り込んだ。
キャノピーを開けたままで中に進める。
マナはその左サイドに腰を下ろして、運んでもらった。
「え!?」
中は半地下になっていた。
実際には巨大な窪地だ、ただし作業用の機械で埋められている。そして作業用の機械に埋もれるようにして、上部半分だけを見せていたのは……。
「宇宙艇!?」
それは二十メートルクラスの船だった。
マナは車から跳ぶように下りて駆け寄った。
「ちょっと危ないから下がって」
そう言ってスピンするようにターンさせる。
バックしながらシンジは船の先端に車をぶつけた。
ガコン!
X字型に開いていたロックが締まる。
「それほんとにコクピットだったの!?」
驚くマナにシンジは笑った。
「軍の実験艇を改造したんだ」
「それってヤバいんじゃ……」
「ううん。母さんが置いてった奴だからね……軍の人達も旧式だからって見逃してくれてる」
「お母さん?」
「死んじゃったんだ。事故でさ……」
ちょっとだけしんみりとしてしまった。
「あたしと同じか」
「え?」
「あたしも大気調整器の事故でお父さんとお母さん、両方とも死んだの」
「そうなんだ……」
「でも……」
船を見上げる。
「こんな良いものは残してくれなかったけど……」
「へ?」
瞳をキラキラと輝かせている。
マズイ、危険だ。
シンジは直感で悟った。
「ねえ? 『シンちゃん』」
「な、なにかなぁ?」
にまっとマナはいやらしく笑った。
「……今日からよろしくね?」
「へ?」
「あたし引っ越すから」
「へっ、あ、ええええー!?」
驚き身を乗り出したシンジは、そのままコクピットから落っこちた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。