「セカンドインパクトは起きます」
それはすでに消えた過去。
「だが起こすことはあるまい?」
しかして今蘇る。
「ゲヒルンは確かに巨大な組織ですが、唯一絶対のものではありません」
「利用するというのか?」
暗闇に老人と男がいる。
「はい、セカンドインパクトによる混乱……事前の準備が物を言います」
「よかろう、六分儀ゲンドウ」
「はい」
「君に任せる」
「はい」
ゲンドウの映像が消えると同時に、キール以外の委員会メンバーが現われる。
「MAGIシステムはどうかね?」
「オリジナルの完成はセカンドインパクト以降となるだろうな」
「コピーは?」
「サードインパクトには間に合わせる」
「スケジュールの調整は?」
「六分儀の仕事だ」
「任せ過ぎではないのかね?」
「碇ユイ、彼女の推薦だ」
「サードインパクト以降の世界」
「保険は必要だよ」
「オリジナルには?」
「開発設計を赤木ナオコに任せる」
「コピーは?」
「一号機はわたしが思考パターンを提供しよう」
議長が自ら名乗りを上げた。
そして時が果てしなく流れる。
地球総本部地下一千メートル。
総本部の要と言われているセントラルドグマ。
そこにはMAGI−2と書かれた、MAGIのコピーが稼働していた。
Evangelion Genesis Next
Evangelion another dimension future:5
「ファーストチルドレン」
「あのぉ〜〜〜」
恐る恐る手を挙げたのはマナだった。
「あたしがなってもいいかなぁ……なぁんて」
「マナ!」
霧島大佐が怒鳴り声を上げた。
「だって親しい方が安全だって言うんなら、あたしが一番、そうでしょ?」
「リツコ博士もなんとか」
しかし肯定するように頷かれてしまう。
「シンジ君との新密度にも寄りますが」
「シンジ君!」
「はい!?」
「君とマナはそう言う関係なのかね?」
ぐびびっと迫られてシンジは焦って否定した。
「違いますよ!」
「シンちゃんひどぉい!」
「酷いって……、昨日会ったばかりじゃないか!」
「あたしのシャワー覗いたくせにっ」
「そっちが勝手に見せたんだろう!?」
無様ね……。
思わずこめかみを押さえてしまうリツコであった。
霧島大佐がキレる寸前に取り押さえられた事を除けば、おおむね順調に話は進んだ。
「一歩進む度に言い合いをするとはね?」
初号機コアブロック、ファイター部分を見上げてリツコは呟いた。
コアブロックは急ぎで整備倉庫に移動されていた。武装強化の必要があったからだ。
「マナちゃんはネクスト起動後の操作を担当。それまではシンジ君に任せて。いいわね?」
「え〜〜〜?」
「攻撃の震動や過重はあなたが感じた瞬間よりも、実際には遅れてやって来るわ? 訓練した人間ならともかく、その混乱にあなたが耐えられるのは集中力が持続する数十秒間でしかないのよ」
「じゃあシンちゃんは?」
「普通じゃないから……」
そう言うリツコの声は憂えていた。
宇宙艇に足を付けると言うアイディアは自然発生的に生まれた物だった。
宇宙開発時代、当然ステーション開発に必要とされたのは巨大なマンパワーだった。
重さを気にせずとも移動をさせれば加速がつく、そのままでは資材はぶつかるだろう。これを静止させるためには逆噴射できる装備が必要となる。
マニュピレーターの付いた小型艇に始まり、新型の作業艇が次々と考案されていった。
しかし作業艇の機動力はそう向上が見られなかった。
姿勢制御用のバーニアで相対静止することは可能でも、接舷作業をくり返すのはただの時間の無駄である。
またバーニアによる姿勢制御を行いながらの資材運搬と工事作業は、熟練のパイロットを必要とした。
どれも足が地に着いていれば容易な事ばかりでありながら。
そこでマニュピレーターを「足」として用いる者が現れた。
バカにする者も居たが、この有用性はすぐに実証され幾つかの新型機には足という概念が取り入れられることとなった。
そしてマグネットによる『接地』は、圧倒的に安定した作業環境を提供したのである。
「その頃わたしは宇宙艇の給油係をしていましてねぇ」
とうとうと、何処を見ているのかよくわからない感じで老人は語り続けていた。
取り敢えずいつから生きているのかが読み取れない顔をしている。
「なあ? なんでこんな話聞いてなくちゃならないんだ?」
クラス別に艦内を案内され、それぞれの場所でこういった話を聞かされていた。
「これも修学旅行の一環や、しゃあないやろ?」
「ふわあああああああ……」
「アスカ、やめなさいって」
肘でつついて注意する。
「だって暇なんだもん、みんなも聞いてないじゃない?」
一同を見渡す。
ブリーフィングルームに集められた三十数名、そのほとんどが眠っていた。
レイが街に潜入して行ったことは、まずは戦いの場としたシンジの倉庫を尋ねる事だった。
シンジの家はマナの追っかけが集まっていた事もあり大騒ぎになっていた。
中に入り込もうとする者を軍の
警邏
(
けいら
)
隊が追い払っている。
そこらかしこに黒煙が立ち上っていた。
それは墜落したヘリによる炎上だった。
「金星軍が全滅とはなぁ……」
「それだけ凄いって事だろ? あの青いロボット」
そんな会話には耳を貸さず、レイは軍のヘリへと潜り込んだ。
「あ、こら乗っちゃだめ……」
当然パイロットは気がついたのだが、彼は顔の前に手のひらをかざされると、目をうつろにして正気を無くしてしまったのだった。
「現場に出向いたヘリだって?」
「ロンドだよ。あいつ何やってんだ?」
勝手な帰還が騒ぎになっている。
それに無線にも出ない。
初号機をかくまっている事もあってか、着地するヘリを取り囲むように、ジープや装甲車が急行した。
「おいっ、おいっ!」
パイロットは間違いなくロンドであった。
しかし彼は目をうつろにして、明らかに正常な状態を失っていた。
二人がかりでも引きはがせないほど、操縦桿を握りしめ、固まったように動かなかった。
夜になり、ロンドの精神鑑定が行われた。
結果引き出せたのは、「赤い瞳」の一言だけであった。
立ち会っていたシンジがその一言に凍り付く。
何を思い付いたのか? 彼は医務室を飛び出して行った。
MAGIと名付けられたコンピューターが存在した。
その中には「チルドレン」と呼ばれる子供に関する情報が記録されていた。
その遺伝子の70%がゲンドウと一致し、ゲンドウは身体を提供する代わりに一つの契約を取り付けた。
それが『システム・ネクスト』の開発であった。
「悪魔のような男だよ」
霧島大佐は頭痛を堪えて吐き捨てた。
「医務局の体質改善をお受けになれば?」
「体をいじるのは好かんのでね」
「金星の大気はお体に合わないというのにですか?」
「わたしは地球人でありたいからな。だから名字も捨てる気は無い」
話し相手はリツコだった。ただし執務室には彼一人である。
リツコは相変わらずマナの座るコクピットを見上げていた。
コクピットには外部から計測とコントロールを行う機械がケーブルによって接続されている。
「ゲンドウを元にして生み出されたリアルチルドレン……だが偶然にもそれは彼の提唱するネクストと同じ力を持ちえていたのか」
「ネクスト完成のために多くの被験者が揃えられました」
耳につけたマイクに向かって声を小さくする。
「MAGIのデータからA10神経と言う言葉を見付け出し、男、女、親子、兄弟、恋人、あらゆる組み合わせが取りそろえられ……」
「その全てが発狂か……」
「人は心に闇を隠しています。それを見せられた上でなお愛し、守ろうなどと考えられますでしょうか」
「だからシンジ君なのか?」
「愛も友情も知らなければ、心に闇は生まれません。だからこそシンジ君は一人であり続けようとしていました」
いつか来るこの日のために。
しかし大佐の脳裏には疑問が浮かんだ。
ならなぜ今になってマナなのだ……と。
「母はゲンドウの仕事に対して疑問を持ち、だからこそコアシステムの情報をシンジ君の頭に隠しました」
「待て!?」
「シンジ君は自分には理解できない情報だからと、わたしに与えてくれました」
「復讐か?」
「いいえ、科学者としての性です」
「ん?」
「理解せずとも完成体はある。コアシステムとネクストを積んだリアルチルドレンの乗る究極のマシンが、一体どれほどの力を見せるのか」
「それは誰の考えだ?」
「ゲンドウです。だからこそシンジ君はそのマシンと共にわたしの元へ来ました」
「来たのか?」
「……命じられて、です。命令は母から……深層意識にすり込まれて」
お互い会話を中断して熱を冷ます。
「話を正そう……敵の機体についての考えを聞きたい」
「……シンジ君より多少上と言う能力値から見て、おそらくは単独によるコントロールでしょう」
「パイロットは?」
「適格者を見付け出したのか、作ったのか……」
「データに残っている被験者……いや、犠牲者の数は?」
「……二千人を越えています。その半数以上は当時シンジ君と同じ歳でした」
やるせない想いが込み上げてくる。
「それが最後ではありません」
「わかった、マナを頼む」
「はい」
目元を揉んで軽くほぐす。
だがこの話には続きがあった。
通信を切ってからリツコの漏らした一言が。
知らない方が良い事もあるのよ……と。
[
BACK
][
TOP
][
NEXT
]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。