「ゲンドウもよくやる」
陰湿にくぐもり響きわたる老人の声。
暗闇の中に、存在感だけが感じられた。
「真実を知るが故の暴走か……」
揶揄する調子だが、あざけりもまた含まれていた。
「狂っているのだろう、奴は」
くつくつと笑った。
「やはり奴にMAGIへのアクセス権を与えたことは間違いであったのだ」
「今更それを言ってもな……」
「さよう。一番おもしろがっていたのは、君ではなかったのかね?」
彼らは一様に思い出していた。
MAGIに隠されていた一人の女についての記録。
エヴァンゲリオンという兵器を開発していた女の情報。そして彼女が提唱したという人類補完計画。
その結末。
「妬心とは恐ろしいものだな……」
「なまじ同じ顔をしているからだろう。彼女が夫へと向けていたものを求めているのだろうな」
「愚かなことだ……」
「病んでいる者とは、そんなものだよ。だからこそ狂気にも走る」
一人の老人が注目を集めた。
「奴はこの虚構の世界より逃げ出したいのだろう。夜の世界。幻の闇。だが真実の世界はそこにあるのだ」
「そのために核であるこの星を滅ぼそうというのか……」
「扉だからな。そして光満ちたる希望の未来へと跳ぶつもりだろう。望んでいるのだ、この絶望からの逃避を」
「我らのように?」
「我らのように……」
くだらぬことだと嘆息する。
「……奴は知らんのだ。その時はすぐそこに来ていることを。そして予定調和として用意されていることも」
「エヴァンゲリオン初号機か……」
「左様。我らの願い叶う時はすぐそこにある。奴の自殺につき合うことはできんな」
「ならばどうする?」
──そして彼らは、『表』の彼らに許可を与えた。
それは世界に混乱に陥れるほどの指令であった。
Evangelion Genesis Next
Evangelion another dimension future:10
「核だと!?」
「データリンク良好。軌道計算良し」
「『ガギエル』、重力操作開始。ATフィールドの発生を確認。重力場に変動を感知、数値、上がっていきます」
オペレーターからの報告に、コウゾウは場違いな心配をカヲルへと漏らしていた。
「いいのかね?」
「なんです?」
「あの船が行っていること。そのデータだけでも学者連中や軍人は、かなり興味を示すと思うが?」
それとも沈めるつもりだから漏らしているのか? そう問う目に、カヲルは曖昧な笑みを持って答えた。
「情報をいくら解析しても、あの船は再現できませんよ。そういうものですから」
「オーバーテクノロジーかね? 外宇宙からの」
「まあそんなところです」
ガギエルの遥か前方で空間が歪んでいた。
ガギエルとこの船との距離は数百万キロに達している。そしてガギエルの発生させている重力場は、十光秒にも達していた。
火星圏に向かって航行中である。それだけ先に発生させていても、あっという間に距離はゼロとなってしまう。
ガギエルは腹に抱えていたコンテナを放棄して離脱した。コンテナ後部のブースターが発火する。
燃えかすが凍り付いて白い航跡を空間に残した。そのまま重力変動場に飛び込んで消える。
「観測範囲外に出ました、以降はシミュレーションによる追尾となります」
「記録だけは続けてくれ」
「はい」
コウゾウはリョウジへと話しかけた。
「彼女の出迎えを頼む」
「俺がですかぁ?」
「……いかなければ拗ねられるぞ?」
「そうですね」
とほーっと肩を落とす。迎えに行けば喜びじゃれつかれることになる。だがいかなければ拗ねて絡まれることになる。
どちらにしても相手をしなければならないのだから、と、コウゾウは言っているのだ。リョウジも十分に承知していた。
今は機嫌を損ねてはならないのだと。そうして気が進まないまでもブリッジを出て行こうとしたリョウジだったのだが、そこで「どいてよ!」っと警備の者を押しのけてきた女性とぶつかってしまった。
「おっと」
「あの! うちの生徒がここに……」
リョウジは目を丸くしてしまった。
少しばかり髪が伸びて、化粧も濃くなっていたが、見間違えようがなかったからだ。
「ミサトか!?」
「リョウジ!? なんでここに……」
そして彼女は気づいてしまった。
なんだろうと驚いているクルーたち。その向こうのメインモニター。
見たことのない機体と、巨人が映し出されていて、そこではなにか途方もないことが進行している。
彼女はそのことに気が付いてしまった。
●
基地より出たのはなにも小型兵器ばかりではない。
岩塊の固まりからは、七百メートルクラスの戦艦までも離岸していた。
もちろん空母も隊列を組んでいる。そして先頭にはJAが展開していた。
──JAはあくまでも拠点防衛用の兵器である。
敵に目標とされている対象物が確定されているからこそ、防衛という行為が成り立つのだ。
だが今回の敵は、ここを通過点としか見ていない。
高速機動している兵器に対しては有用なJAも、超長距離からのビームやレーザー、ミサイル群に対してはかなりもろい。ほぼ的と口にされても仕方がない。
そこでJAには、三機のサポート兵器が付けられていた。それが無人の戦闘機である『AJドローン』であった。
これは黒い
三角翼
(
デルタ
)
型の戦闘機で、大きさは一機が十メートル弱と小型である。
機動性は高く、翼の上下に左右合わせて六発の大型ミサイル、そして胴体部上下にマイクロミサイルポッドを搭載していた。
この一編隊が三つで一小隊を形成している。そしてさらに三つよりあつまって中隊を、大隊を……と部隊を作り上げていた。
「観測衛星より警告が入りました」
「速いな」
「ですが展開は間に合いました」
「金星の連中とは違うと言うところを見せろ!」
「は!」
気合いの入った返事をして、JA部隊は銃を構えた。
蛇腹状の腕に持たせているのはロングライフルである。しかし上部を切り離せばミニガンになる仕様だ。
ロングバレルはエネルギーの加速器をかねている。これを捨てたときにはビームガンとしての威力は落ちるが、速射性は増す。
ベースとリンクしている回線を通じて、射撃開始の合図が送られてきた。
一斉に射撃が始まった。まずは戦艦が艦砲射撃を開始した。地上に突き刺されば百万都市をも一瞬で蒸発させることのできる砲撃である。
これが束となって闇を貫いたのだ。
続いてJAとAJドローンがミサイルを放った。JAは背中に増設していたスーパーパッケージから、AJドローンは両翼の長距離ミサイルを全弾である。
これだけのものを食らえば、どれだけの艦船であろうとも粒子に返る……それほどの攻撃であった、しかし。
──コォン!
空間に湾曲する波紋が現れ、そこを赤黒い船が突き抜けてきた。奇妙な音は空間が突き破られた音だった。
ガーゴイルである。
「なんだ!?」
それは奇妙な現象だった。
ビームやレーザーが、荒れ狂う蛇のようにのたうって、ガーゴイルの船体を滑り後方へと流れたのだ。
いや、流されてしまっていた。
「報告にあったフィールドシステムか!?」
司令長官は肘掛けに手を突いて半ば腰を浮かせてしまっていた。
「このままでは突破されます!」
「弾幕を張れ! 実体弾だ、近接爆発で連続発射!」
「了解! 砲撃の中止を命じます、防空システム作動。発射!」
砲撃を中止させたのには訳がある。
ビームは空間を突き抜けながらも、わずかばかりに拡散している。さらには電磁波などの放射もある。
この状態では、ミサイルが巻き込まれて誤爆しかねない、だからだった。
しかし一方でJAとAJドローンの放ったミサイルはうまく機能していた。最初からガーゴイルに艦砲射撃に対する回避行動をさせぬよう放っていたものだからである。
「敵艦に高出力反応!」
そのミサイルは、群れを為して襲いかかっていった。
無数の火球が一つとなって、巨大な火の玉を作り上げる。
だがそれも着弾してのものではなかった。
「迎撃されました!」
跳躍航法後、減速もせずに使える武器はレーザーのみである。初速の遅い武器では下手をすると追いつき、追い越しかねない。使えないのだ。
「あれだけのミサイルを……一瞬で?」
「来ます!」
メインモニターが光に焼き付いた。
「どうなった!」
まぶしさに目がくらんで細く開けることしかできない。
それでも彼は、自軍の船が沈んでいくのを見て取ってしまった。
「なんたることだ……」
高出力のレーザーを放つためには、恐ろしく巨大なエネルギーをひねり出せるジェネレーターが必要になる。
「あの船は……あの大きさで、この基地に匹敵するエネルギーを作れるのか」
それはまさに恐怖であった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。