──ジジ……、ジジ。
ガーゴイルの船首部分が、奇妙な放電現象を起こしていた。
雷をまとっているといった感じがある。実際その通りで、ガーゴイルは雷をまとい、それを前方に展開しているゴミに向かって放ったのだった。
「さすがに出力が落ちるな」
ゲンドウはレイを身近に呼び寄せた。
「初号機の反応がある。お前はここでシンジを押さえろ」
「はい」
「俺はこのまま地球へ向かう」
「わかりました……」
レイはくっとあごを引くと、後方にある扉へと飛んだ。
足止めをしろ、しかし回収はしない。その命令は理不尽なものであるはずなのだが、レイに不満はないようだった。
その理由は彼女の口元に浮かんでいた。
──彼女はうすく笑っていた。
●
「来ます!」
「くそっ、止められんのか!?」
「変です! 質量が増大しています!? 量子反応に異常検知!」
「……これもフィールドシステムだというのか」
自艦をくるんでいるバリア的なものになんらかの負荷をかけているのだろうと推察する。
「これは……まずい! 全艦退避!」
「間に合いません!」
「くそったれ!」
その時、通信士の一人がわめいた。
「後方より急速接近する機体を確認! とんでもない質量です!」
「なんだと!? 新手か!?」
「違います……これは、照会終了、初号機です!?」
宇宙空間も完全な闇ではない。太陽があればそれを反射する衛星もある。
淡い紫というのが近いかもしれない。初号機は光に成らんとする勢いで飛翔していた。機体を七色の光で包んで。
「初号機、フィールドシステムを展開中。すごい……敵船に匹敵する質量をまとっています」
「なにをするつもりだ!?」
「マナ!」
シンジは背後のマナに叫んでいたが、それは無意味なことだった。
「わかってるから、シンジはフィールドの生成に集中して!」
今はヘルメットを被っている。この内部には全天方式で外の様子がモニターされている。
操縦に後部座席であるというハンデはない。
これが使えなかったのは、マナがコクピットになれていなかったからだ。しかし今は違っていた。
シンジと繋がったことによって、今ではどこになんのスイッチがあるのか? 目で確認せずとも手に取るようにわかっていた。
もはや見る必要などどこにもなかった。
何百機もの機体が浮かんでいて、その横には防衛基地である衛星が見える。それを横目に防衛ラインの先頭に出る。
「なんだ?」
兵士たちはそろってカメラが捉えている映像に目をこすった。初号機の周囲に紫色の陽炎が立っていたからだ。
「いっけぇ!」
通信機からマナの威勢のよい声が聞こえた。初号機がさらなる加速をかけて離脱する。しかし陽炎はそれに従わずに分離した。
──ガーゴイルへ向かって直進した。
「くぁあ!」
ゲンドウは肘掛けに爪を立てて踏ん張った。
艦全体を激震が襲った。きしみも聞こえる。相当のダメージを負った証だった。
「シンジか!?」
「なにをやったんだ!?」
防衛長官の声にオペレーターが答える。
「特殊な形態形成場を設定して質量体を生み、それをぶつけたようです……凄い」
「敵船は!?」
「フィールドの消失を確認!」
「後五秒で防衛ラインを突破されます!」
「逃がすな! 今なら当たる!」
言われずとも、防衛隊は必死の雷撃を再開していた。
大型艦はもちろん、小型機までもゼロ距離までに弾を撃ち尽くそうという勢いである。
一方でマナは機体を大回りさせていた。
「シンジ、大丈夫?」
「ちょっと辛いかな……さすがに」
フィールドシステムは思うほど便利なものではなかった。防御膜と言った雑な使い方しかできないものである。
これをシンジは、NEXTとしての能力を使って微妙な補正をかけたのだ。そうして武器として使用した。
「ゲンドウは!」
「突破するに決まってる……シンジ、もう一度いけるの?」
「…………」
「シンジ!」
「わかってる……無茶は」
「違う! 零号機が来る!」
シンジは集中力の衰えを感じないわけにはいかなかった。
自分が感覚で気づくよりも先に、マナにレーダーで確認されてしまったのだから。
「くっ」
シンジはマナがサポートしてくれるのに任せた。
ヘルメット内部の画面の一角に、四角い区切りができて拡大投影される。
それは逆三角形の翼を背負った人型兵器……零号機に間違いなかった。
●
「シンジ!」
マナの悲鳴につき合っている余裕もない。
機体をローリングさせつつ変形させる。逃げた跡をことごとくビームが突き抜けていくのだから、それはわざとだとしか思えなかった。
「遊ばれてる!」
「違う、待ってるんだ!」
変形終了と同時に右手を突き出させる。そこに零号機の砲撃が着弾した。
「くぅ!?」
「読まれてる!」
ビームが来ると思ってフィールドを展開させたのだが、甘かったらしい。
零号機は両脇に抱えるような形で二本の筒を持っていた。バズーカだった。
「宇宙戦であんなもの……」
「初めから格闘戦闘兵器同士の戦いに限定してれば、ああいう武器って選択だって!」
「ああもうめんどくさい、繋がっちゃおう!」
「でも……」
「ここでもたもたしてたら、ゲンドウを取り逃がしちゃうよ!」
「わかったよ!」
シンジは言い返しながら、妙な感じを受けていた。
まるでマナが自分のような物言いをしている。もう一人自分が居るようだ……。だが、そんな思索もすぐに消えた。
システムが起動して、意識が一つになったからである。
「くそ! 生きている部隊を旗艦に集めろ」
「追撃するには相手が速すぎます!」
「それでも追うんだよ! 初号機はなにをしている!」
「報告にあった零号機と交戦中です!」
「くっ……」
どうする? 長官は迷いを見せたが、すぐさま割り切ったようだった。
「再結集した部隊で零号機とやらに足止めをかけろ」
「え? ですが……」
「やるんだ! 初号機にはあの船を追撃させろっ、月や地球の連中に、あれが止められるとは思えん!」
「わかりました」
ぼんやりとした世界だった。
極彩色がゆらゆらと揺れる。それはぶちまけられたペンキが混ざり合った様子に似ている。
サイケデリックな光景だが、その一つ一つには意味がある。
一つ一つの物体について、時間が前後して見えているのだ。だから色が揺らめいて見える。
その変化を見極めて泳ぎ切ることが、NEXT同士の戦闘であった。
「この!」
シンジがコンピューター化すると同時に、マナはシンジそのものとなって機体を駆っていた。
第二形状への変形を終了し、上半身と下半身それぞれに搭載されている二機のエンジンをフル稼働させる。
二つのエンジンが相乗効果を起こして半ば暴走気味の出力をひねり出すと、初号機の正面には湾曲した空間が現れる。
──それに向かって機体鎖骨位置にあるガトリングガンを発射する。
ここにある基地で増設させてもらったものだが、十分だった。今初号機が発生させている空間湾曲場は、ゲンドウがガーゴイルを跳躍させるために使っているものと同じシステムなのである。
これを通過した弾丸は、質量を増大させて襲いかかる。零号機は身をひねるようにして軌道を変えたが、それでも巨大な質量の通過にきしみを上げたようだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。