「なんであんたがここにいるのよ!?」
問いつめる言葉に対して、リョウジは曖昧に笑ってごまかそうとした。
「今は仕事中なんだよ。それに、たんなる偶然だって」
「どうだか」
つかみ上げていた胸ぐらを離す。
「それで?」
ミサトは冷たく横目で見た。
リョウジの腕にかじりついている女の子を。
「あんたいつからそういう趣味になったわけ?」
「おいおい……」
「じゃあ……あたしの生徒になにやらせてるわけ?」
「…………」
「リョウジ!」
「悪いな、ミサト」
リョウジは足を上げると、ミサトの腹を蹴るようにして押した。
「リョウジ!」
通路を泳がされてしまう。なんとか天井に手を突いて体勢を立て直したときには、リョウジたちは反動をうまく使い、かなり遠くに行ってしまっていた。
「リョウジ────!」
その叫び声が怨嗟に聞こえて、リョウジは後が怖いなと首をすくめた。
●
「あれがジェネシスか」
「素晴らしいな」
シンジとレイの交戦の模様は、様々な経路を通じて流されていた。
防衛隊の機体、守備隊の艦船、衛星基地、そして中継ステーションや衛星、そして地球へと報じられている。
「だが結局は取り逃がしたということになる」
口にしているのは、地球軍の主力艦隊旗艦である『オーバーザレインボウ』の艦長であった。
「報告では未来予測といってもわずか数秒が限度らしい」
「まああのような状況では役に立ちましょうが」
「そうだ。ならば予測できたとしても回避不可能な状況に追い込んでやれば済む。誰か教えてやれ、三百六十度から弾をたたき込めとな」
だが彼らもフィールドシステムについては誤認していた。
ゲンドウの乗る船のフィールドが、一時的とはいえ無力化されたのだ。だからこそ絶対障壁ではないと誤解してしまっていた。
「まあ、それはいい」
艦長は椅子にかけ直した。
「突破した船が到着するよりも先に叩くべきものがある」
「はい」
二人は空中投影されている状況表を確認した。
そこには火星方面から襲来する巨大物体の予測進路が描かれている。
「もうまもなく、第二艦隊が接触します」
「うむ……仕掛けがあるかもしれん」
「指揮はブレッツ准将に任されております。あの方でしたら」
「堅実にこなすか」
お手並み拝見しようと口にされたブレッツという男は、五十を超えたばかりの若さであった。
宇宙を勤務地にしている割には体はがっしりとしており、筋肉質である。それを無理やり制服に押し込んでいるものだから、いつか張り裂けそうだなと見られていた。
「ゲンドウの研究所か……距離は」
「あと数分で接触します」
「空母は後方で待機。惑星の影響範囲外まで下がらせろ、間違っても機体は出させるなよ? 巻き込まれて壊されるだけだぞ」
「通達します」
「うむ。戦艦は八方に陣形を組んで砲撃だ。完全に砕いて、宇宙の塵に変えてやる」
──映像、モニターできます。
そう報告が入ったのは、詳細な指示を出している最中であった。
『おお……』
皆がどよめいたのも無理はなかった。
改造すれば居住可能になるほどの小惑星である。それが核パルスエンジンによって加速され、押し迫ってくるのだ。
「各艦、配置に付きました」
「発砲を許可する」
「砲撃開始!」
この場に派遣されている戦艦は、雷撃のみに特化されている砲艦だった。
まるで筒そのものである。船首部分がそのまま発射管となっており、胴部がそのまま砲塔のための機関部として機能していた。
太く光る矢が直撃する。
だがブレッツが口にしたような形にはならなかった。あまりの出力で照射されているからか、砕けるよりも速く溶けて蒸発してしまっていく。
「まずいな」
准将は出力を下げさせろと命じた。
「いくら小さくしたとしても、地球に進ませたのでは意味がないぞ」
重要なのは軌道を変えさせることなのだ。
「破壊するんだ。溶かすんじゃなく削れと伝えろ」
「ミサイル攻撃は」
「開始だ」
後方に控えさせていた空母からの雷撃が始まった。
配備されたばかりだという新型魚雷を惜しげもなく射出する。そして爆発による花が咲いた。
「どうだ?」
もくもくとする煙の中から、小惑星は抜け出してきた。
「第二波用意……」
「待ってください! 小惑星が分離します!」
やったのか? 一瞬期待感が蔓延した。
だがそれはすぐに裏切られた形となった。
「変です……惑星は等分割していきます、四つに、割れて!」
その様子はモニターで見ることができた。
煙を噴出しながら、四つの岩塊に割れて離れていく。しかし中央部には巨大な鉄のかたまりがあった。
「戦闘艦だと!?」
小惑星を押していた核パルスエンジンは、この船のメインエンジンだったのである。形は菱形をしていた。まるで要塞のようであった。
「何キロあるんだ、あれは!?」
「わかりません、突破されます!」
「砲撃!」
「効果ありません! フィールドシステムのようです!」
──踏みつぶされる!?
全艦離脱、それが彼に出すことのできた最後の指揮になった。しかし、死ぬことになったわけではない。
「わあああああ!?」
突然敵艦が震動し、弾けるようにコースを変えたのだ。
何人かは確認していた。後方より飛来してきた彗星が、この敵艦に直撃するのを。
それはコウゾウたちが放った一撃であった。コンテナの残骸が散乱する。
運良くその攻撃は、艦の核パルスエンジンの一つを破壊していた。煙を噴きながらずれた軌道を修正しようとしている。
そこに襲いかかったのは、待機していた空母と戦闘機部隊であった。しかしはえのように見えてしまい、無駄だな、と彼は悟りを開いてしまった。
やめさせろ──彼が言うよりも早く、この様子も見ていたのだろう、地球からの通信が届けられた。
「A−17の発動?」
ブレッツはぎょっとした。
「間違いないのか?」
「はい」
「だがA−17は各惑星に対する資産凍結を含む指令なんだぞ」
「ですが、事実です」
「地球本部の連中はなにをしようと……」
通信士が騒いだ。
「敵巨船の進行方向に我が軍の潜行艇を発見。浮上してきます」
「なんだと?」
それは黒い船だった。
ステルスモードを解除して、まるで海の底から上がってきたかのように姿を見せた。
「なんだ? あの船は……」
それは見たこともない船であった。
平らな船……それも双胴船だった。両船をつないでいる部分がブリッジらしいのだが。
「A−17に伴う退避命令を出しています」
「なにをするつもりなんだ!?」
「指定空域からの強制離脱命令です! メインコンピューターをロックされました、自動運行に入ります。解除はできません!」
「問い合わせろ! 司令部でもどこでもいい!」
「ありました!」
「なにがだ!?」
「あの船のデータです! あの船は……」
「なんだというんだ!?」
調べていた男は、ごくりと生唾を飲み下した。
「核……兵器搭載の、潜行魚雷艇、です」
「核だと!?」
正気かと彼は疑った。
だがモニターに映る不気味な船は、双胴体の先端部にある魚雷管を開いていた。
そこからなにが放たれるのか?
それは見ずともわかることであった。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。