──核兵器。
 それらが使用されるというだけで、この事態がどれほど異常なのかを知ることができる。
 その兵器は、それほどまでのものであるとして認識されていた。
 過去の歴史において、地上世紀に地表で使うことを目的として製造されたものとは、あまりにも規模が違ってしまっているのである。その破壊力は直径数十キロの小惑星ですら消滅せしめるほどに高められてしまっていた。
 問題となるものは、この爆発がもたらす衝撃波である。
 宇宙空間がいかに広大とは言え、人類はその破壊力を追求しすぎた。衝撃波は何億キロも先にまで震動波を及ぼし、電磁波は深刻な通信障害を引き起こす。
 発生した電磁波は帯状の帯域を形成して長くとどまる。これは超空間通信などを妨害して通信手段を船便などの酷く原始的なものへと退行させる。
 だからこそのA−17であった。現有資産の凍結とあらゆる惑星間商業取引の禁止。強権による混乱の平定。民間船の航行すらも規制するというものまである。A−17とは一時的な軍事態勢への移行とほぼ同義の発令でもあるのだ。
 今、そこまでのものを求める兵器が双胴船の先端部より射出された。
 ちょっとした戦闘機ほどもある大きさのミサイルである。発射されたのは合計で六発。
 ブレッツは祈るように両手を組み合わせて体を前に折っていた。
「神よ……」

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Evangelion another dimension future:11
「止めたいの?」



 ──宇宙に太陽が現出した。
 それは遠くコウゾウたちの船からでも観測できる事象であった。
 撃ち出したコンテナがもくろみ通り命中したことについてわき上がっていた管制室も、これには唖然としてみな言葉を失ってしまっていた。
「なんてことするの……」
 結果を知ろうと思ったのか、やって来たミサキであったのだが、彼女も呆然とするのが限界であった。
 コンテナは十分な加速を得て何千倍もの質量である小惑星を、地球への軌道からはじき飛ばしてくれる計算にあった。
 それは達成できたはずだった。しかし相手は偽装を施していた要塞艦であったのだ。
 となれば軌道修正くらいは簡単に行うだろうし、攻撃は必要であろう……だが。
「衝撃波の到達予想時刻を割り出せっ、大至急だ!」
「了解!」
「ミサキ君、頼む! 重力震が来る、なんとか相殺してくれないか!?」
「やってみる……」
 コウゾウは彼女が出て行くのを待って愚痴をこぼした。
「彼女にも無理なのか……」
「火星の重力圏がありますからねぇ……多少はゆるんでくれるでしょうが」
「くそ! 余力があるのなら火星を盾にできる位置に移動するものを」
 航宙図が表示される。地球と火星の間を起点に、同心円が広がっていく。
 それが衛星や小惑星、コロニーや惑星の重力圏によってゆがみを演出する。飲み込まれたコロニーがどうなるのかはわからないが、星の裏側には安全地帯とも言える空間が発生していた。
「今更言ってもしかたありませんよ」
 リョウジは慰めにもならない言葉をかけた。
「艦長にはあれを捨てるって選択肢もあったんですからね。いや、運ばないって選択肢だってあった」
「自業自得か」
「そういうことです」
 じゃあっとリョウジも出て行こうとする。
「どうする気だ?」
「アスカちゃんにはまだ待ってもらっていますからね、もう一働きしてもらいましょう」
「ATフィールドだったか?」
「ガギエルだけじゃ不安でしょう?」
「そうだな……ああ」
「なんです?」
「カヲル……彼はどうなんだ? ミサキ君のように」
「……そうですね、訊ねてみます」
「頼む」
 リョウジは沈痛な表情を見せるコウゾウに、苦労性だなぁと笑顔を見せた。
「あの規模では宇宙は大荒れでしょう? ヘタすると俺たちは宇宙の迷子です。一蓮托生って奴ですよ」
「そうだな」


「く……う……」
 ブレッツは頭を振りながら身を起こした。
 ブリッジに不吉な音が鳴っていた。シューッと空気の抜ける音だ。
 かろうじて生きているモニターがあって、それが光をもたらしてくれていた。慣性重力は死んでいる。気を失っているのか? それとも首の骨でも折って死んでいるのか? 部下が宙をただよっていた。
 ──船は重大な損傷を被っていた。
 外側から見ればそれは明らかなことだった。爆発の熱波によって外装が溶けてしまっている。部分部分ではショートしているのか発光現象が窺えた。
 船は明らかに死んでいた。
 核爆発による障害は長くこの一帯に残るだろう。電磁波障害が救難信号などかき消してしまう。そして衝撃に流される船はどこまでも漂っていくことになる。
 酸素が切れる前に救助の手が届くことはまずありえない。なぜなら核爆発による被害は救助をする側にも非常な事態を呼んでしまっているからである。だが彼らは幸運だった。
「う……あ?」
 もうろうとするブリッツの目に、先の潜行艇の姿が映った。助かる。だが彼はその船がとまどっているように見えて、その原因に唖然とした。
「まさか……」
 唯一生き残っていたモニターには、潜行艇の他に、悠然と進む要塞艦の姿があった。まったく損傷していなかった。


「なにやってんの!」
「このぉ!」
 レイの機体に肉薄するJAがあった。二機がまとわりついてしとめようとする。
 その背中にはAJドローンの姿があった。ドッキングしているのだ。
 AJドローンはこのために用意されている機体であった。
「…………」
 レイは回り込むような動きを見せるJAを、とても冷たい目をして追っていた。ぴくりと手首の筋肉が緊張を見せる。
 零号機の手首から二発のマイクロミサイルが放たれた。それが内一機を撃墜する。もう一機には翼上部から放出した拡散ビームを直撃させた。腕、足と削られるようにして失ったJAは、最後に腹に受けて駒回りを披露して爆発した。
「出てくるなって!」
 マナはシンジの気持ちを代弁した。
「無駄にやられるだけだよ!」
 泣きそうな声で訴えつつも、手足は正確な操作を行っている。
 零号機へと肉薄した初号機は、右手首からの飛び出しナイフを逆手に握って斬りつけた。
 ガシッ!
 零号機に手首の部分を掴まれる。マナは今度は左腕のガトリングガンを零号機の腹部に押し当ててたたき込んだ。
 弾が砕けて爆煙が発生する。しかし零号機の損傷は軽微だった。装甲が基本的に厚いのだ。
「このぉ!」
 初号機の姿が消える。腕を空ぶった零号機が一瞬姿勢制御に手間取った。システムを利用しての瞬間移動で、初号機は零号機の背後に現れた。
「今だ!」
 初号機が零号機の翼をつかんだのを見て、JAが三機高速機動を披露した。三方向から転移して、零号機の正面に位置し、特攻をかける。
 ──あああああ!
 彼らの息が聞こえた。手にしているライフルは速射形態に切り替えていた。何十ものビームが一度に零号機に突き刺さる……いや、その直前で零号機は翼を切り離して下方向へと離脱していた。
「なんで!」
 マナの慟哭は一瞬後にあるはずの惨劇に向かってのものであった。
 切り離されていてもリモートコントロールは受けているのだろう。翼は受けるはずであった何倍もの熱量の攻撃を無造作にはなった。
 あっとパイロットたちの声が聞こえた気がした。真っ赤な閃光に飲み込まれて姿は消えた。爆発が起こって初号機までも飲み込もうとする。
「レイー!」
 爆発の中から金色の繭にくるまれている初号機が飛び出した。その背中を零号機のブースターがビームで打つ。
「邪魔!」
 くるりと仰向けになって腕を突き出す。ひっかくような動作をすると、五つの傷を受けてブースターが爆発した。
「きゃあ!」
 ガンッと衝撃を受けた。零号機だった。
 一瞬の隙を衝いて特攻してきたのだ。先ほどとは逆に抱きつき、ナイフを振り上げていた。違いは正面からであるか、背後からであるかというものだった。
 ──死ぬ?
 だがまだ死ぬわけにはいかなかった。だからマナは結合を解いた。
 システムネクストをキャンセルする。初号機が姿を第一形態へと移行しようとする。その奇妙な駆動が零号機をふりほどいた。
「こんのぉ!」
 ロボットと人との違いだった。背面をまるで正面であるかのようにしてマナは両腕を使いガトリングガンをたたき込んだ。
 そのまま器用に戦い続け、距離を開ける。すると二機の間を光線とミサイルがよぎった。JAからの援護だった。
 ──邪魔よ。
 声が聞こえた気がして、マナは逃げてと絶叫を放っていたが、無駄だった。
 急上昇をかけた零号機はJAの頭上に回り込んでその頭頂部をわしづかみにした。
 ──バババババ!
 レーザーバルカンが穴を穿って内部を叩いた。装甲が内側からもりあがった。そして爆発。
「下がってっ、下がってよ! これ以上死なないでよ!」
 泣きながら、再びシステムネクストを起動しようとする、だが、できなかった。
「シンジ!?」
 彼女は驚愕した。
 シンジがそれを拒否したからだ。
「どうして!」
 シンジは答えずに、マナからコントロールのすべてを奪った。
「レイ!」
 右から左へ移動する零号機をバルカンでもって追いかけるが追いつけない。
「くぅ!」
 シンジはその動きを追うために戦闘機へと変形させた。
 トラックとなる下半身を、機体下部ではなく後部にドッキングさせる。爆撃機形態ではなく、長距離移動用のロケットブースターモードを起動したのだ。
 あまりの加速にマナがぐぇっと悲鳴を上げた。シンジにそれに答える余裕はない。
 シンジにしても、辛かったからだ。
「レ……イ」
 急激な荷重に視界が狭まる。血液がすべて背中の側に集まっているのが実感できた。
 それでもレバーは離さない。
 やや大回りの軌道を取って、零号機の上方を押さえる。ブースターを失った零号機に加速で勝つのはたやすかった。
「いっけぇ!」
 レーザーバルカンを照射する。
 何百という攻撃の内の一発が、ブースターとの接続部分であろう装甲厚の薄いところを直撃した。
 ボンッと軽い爆発が起こる。
「うわぁあああ!」
 シンジは人型へと形態を移行させて零号機に組み付いた。
 二機は絡み合いながら、漂っていた船の残骸へと激突した。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。