「やったのか!?」
 残骸に激突する姿を見ていたパイロットたちは、さらに子供たちが内部へと入っていくのを確認していた。
「チームリーダーより各機へ、零号機を破壊しろ! 子供たちが中にいる、注意はするんだ!」
 つまりは人型であることを活用して、器用にも二機を引きはがし、壊してしまおうというのである。
 貴重なサンプルではあるが、彼らは撃墜以外の命令は受けてはいなかった。
 怖いのはこの機体である。それさえ叩いてしまえば、パイロットなどどうとでもできると判断もしていた。
 内の一機が、戦艦側面に激突した形になっている二機を引きはがそうとした。外側に初号機が来ているから、まずはこれをと思ったのだろう。
 ──ギン!
 その時だった。
 パイロットが降りたはずの機体に光が灯った。
 零号機の腕がのばされ、JAの腕をつかみ取る。
「なんだ!?」
 あわてふためくパイロットをよそに、零号機は初号機を押しのけて残骸から抜け出した。
 そしてJAを引き寄せて、腹部のバルカンをたたき込む。
 JAの胴体が二つにちぎれた。
「ジョニー!」
 仲間のパイロットが悲痛な声を放って迎撃に入ったが、これはまるで予測していたかのように避けられてしまった。否、彼女は予測していたのだった。
 ──レイ、と言う名のネクストは。


 爆光を三つ作って、その間を抜けるように零号機は移動した。
 JAのライフルを途中で拾って武器とし、向かってきた機体を迎撃する。
 避けようとしたJAも、未来を予測するネクストの射撃には逆らえない。手首を使ってJAの先へ先へとビームをばらまく撃ち方に、JAはついにぶつかって回転した。
 ──そこへ第二撃、三撃が当たる。
 爆発が生まれる。それを確認して、防衛長官は苦渋の表情で口にした。
「行かせろ」
「ですが、長官!」
「行かせろ! これは命令だ」
「しかし……」
 長官が腰掛けているシートには、とあるメッセージが届けられていた。
 彼はそのことを皆に伝えた。
「地球が核を使用した」
 みなはぎょっとした。
「核を!?」
「衝撃波が来る。JAを収容しろ。敵機に投降勧告を出せ、奴も拾ってくれる船がないんだ、死にたくはないだろう……」
「従いますか?」
「どちらでもかまわんさ」
「初号機が動き出しました、パイロットは二人とも無事です!」
「ん……二人にも教えてやれ、もっとも、あの機体には関係ないかもしれんがな」


 ガコンと初号機が顔を上げる。
 多少船の残骸からは遠ざかってしまっていたが、泳いで届かない距離ではなかったのが幸いした。
 怖がるマナを抱くようにして泳ぎ切ったシンジは、コクピットに入るなりレーダーを立ち上げて零号機の居場所を確認し、やっぱりかとつぶやいていた。
「信じられない……」
「くやしいけど……ネクストとしての力は向こうの方が上だってことだよ」
「どういうこと?」
 シンジは機体のチェックをしながら説明した。
「いい? 僕が作られた人間だってことはわかってるよね?」
 こくんと頷く。いまさらなことだ。
「当然何体もクローニングはされてるんだよ。そのクローンには魂はないけど」
「けど?」
「体の動きって言うのは結局電流が支配してるものだから、ある程度は脳をコンピューターに見立ててプログラムを施しておくことができるんだよ」
「じゃあさっきのって!」
「彼女の……レイのクローンだよ」
 こんな手に引っかかるなんてとシンジは悔しがった。
「僕よりもずっとうまく使えてるんだ、力を」
「それで、艦の構造を読んで、道を通るようにして……」
「声は通信機越しだったから……行くよ?」
 ブースターモードを発動する。
「どうするの?」
 通信が入る。しきりに核のことを訴えている。
「シンジ!」
「フィールドシステムがあるよ。それにここからなら月を盾にできる」
「盾って……まさか」
 時間を食ったとシンジは吐き捨てた。
「レイのことは無視するよ、熱くなりすぎてた」
「そう……」
「父さんだ……父さんを押さえないとあの子は止まらない」
「止めたいの?」
 シンジは言葉に詰まってしまい、答えられなかった。
 ──そこに本音が見えてしまっていた。


「…………」
 ゲンドウは船の総チェックを終えて吐息をついていた。
「もうすぐだよ……ユイ」
 その顔は狂気に歪んでしまっている。
 思い起こせばいつからだっただろうか?
 彼は記録にある碇ユイという女性にあこがれてしまっていた。
 どこか母性的な、甘い優しさを期待させる要望を持ちながら、決して甘いだけではない厳しさも持ち合わせている女だった。
 叱る、ということができる女はそうはいない。そしてそこに愛情を込めてくれる女性もだ。
 理想……というものを考えたとき、このような人しかいないのではないかと彼は思っていた。
 ──く……くく。
 笑いが浮かぶ。
 彼は体をシートに預けた。
「馬鹿な話だ」
 独白する。
「この感情が、俺のものでないことは承知している……いや、この世界そのものがまやかしであるのだ。シンジ、それがなぜわからん」
 彼は謎の言葉を口にした。
 しかしそれを聞く者はいなかった。


 船はさらなる加速をかける。もう視認できるほどに、青い惑星は近づいていた。



続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。