ネクストと呼ばれる人間であっても、先読みできることには限度がある。
 そのために、あらかじめ『素体』と呼ばれているスペアボディには、用途に応じたプログラムが刻まれていた。たとえばシンジを襲ったもののように、攻撃を主目的としているプログラムがだ。
 これらが細かな対応を行い、大ざっぱな行動指針はネクストが与える。もちろん、ネクストであれば無線による操作までも可能となっている。
 ──突き詰めれば、このシステムは恐ろしくなる。
 人体を操っているのは頭部である。ならば脳さえあればいい。
 そして脳を詰め込むボディについては、なにも生身のものでなくともかまわないのだ。
 レイの機体の、ふくらはぎの部分が外へと開いて、小型の無人兵器を排出した。
 それはわずか一メートル半の筒状兵器であるのだが、はね回るような機動性能は、JAなどに捕捉できるものではなかった。


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Evangelion another dimension future:12
「作戦コードは『ソーラーレイ』だ」



「うわぁああああ!」
 恐怖悲鳴がまた一つ、通信機器を震わせる。
「なにを考えているんだ、奴は!」
 だんっと肘掛けに拳をたたきつける。
 零号機は小型兵器を縦横に移動させて、そこにレーザーをぶつけていた。
 一種の反射兵器であったのだ。レーザーはこの反射鏡をいくつも経由して目標を撃つ。
 狙われたものにとっては、どこから攻撃がやってくるかわからずに、ただうろたえて適当な回避運動をするしかなかった。
 ──衝撃波の到着まであと十分。
「このままでは収容が間に合いません!」
「くっ」
 ゲンドウを押さえるために広く展開しすぎていたのが災いしていた。
 AJとドッキングしたJAが全速力で退避行動を取ったとしてもぎりぎりなのだ。その状態で背後から狙われたのでは落とされるしかない。
 かといって、今のように応戦していたのでは確実に間に合わない。
「初号機から通信です!」
「なんだ!?」
「衝撃波は気にせず、零号機を撃墜することに専念してくれとのことです」
「どうする気だ?」
「衝撃波は受け止める……と」
 できるのか? そんなことが……それが彼が最初に思い浮かべたことだったのだが、頭を振った。
「わかった」
「え?」
「了解したと伝えろ。それと、衝撃波を消失させられる予想範囲も教えろとな。それを戦闘宙域として設定する」
「了解です!」


「シンジ君……計算出たよ」
 マナがよこしたデータを元に、どう移動するかを考える。
「基地の人たちのことを考えると、衝撃波の中心地に向かってやるのがベストなんだけど……」
 それでは地球の方角とはずれてしまう。
「ゲンドウの船と同じシステムか……使えるの?」
「使えるはずなんだけどね……元々、そういう用途のための機体なんだし」
「どういうこと?」
「うん……外宇宙を航行するためには、亜光速で動けることが最低限必要なんだよ。何もない広い世界で、母艦を中心に小型機が周囲の探索に当たる……んだけど、探索って言ったって、その広さの桁はとんでもないでしょ?」
「だからか……」
「初号機は実験機だからね……いろいろと組み込まれてはいるんだよ。ただ」
「なに?」
「未調整なんだ」
「…………」
「リツコさんに手伝ってもらってさ、いじってはいたんだけど……テストなんてするわけにもいかなかったし」
「そっか……」
「軍に保護してもらってたから、あまり大したこともできなかったんだよね。第一ゲンドウって……」
 シンジは通信装置がオフになっているのを確認した。
「ゲンドウにさ……研究資金を出してたのって地球政府でしょ?」
「わかってるけど……」
「じゃあ追っ手としてやって来たとしたら?」
「あ……」
「地球政府の特殊部隊とかさ、そういう感じになるだろうってことになってたんだよね。だから僕は初号機で逃げるって、それで好かったはずだったんだ」
「だけど……零号機なんて持ち出してきたから」
「あとはそのまんまだよ。成り行きでこうなってる」
「でもゲンドウの行動って」
「うん……政府の方でも慌ててるみたいだしね」
 そうしている間にも、機体は爆発の中心地点に向かって加速している。
「このまま変形してATフィールドを展開、それをさっきみたいに放り出すよ」
「後は?」
「衝撃波が収まるのを待って転進……ゲンドウの船は無視して、さっき送られてきたこの要塞艦にジャンプする」
「了解」
 パチパチとスイッチを操作する。
「後は野となれ……か」
「なに? それ」
「パパがよく使ってた言葉。おまじないみたいなものだって」
「ふうん……って、人のこと宗教がどうとか言ってなかったっけ?」
「さあ?」
 くすくすと笑うマナに、意地悪だなぁと言い返す。
「僕は意地悪な子は嫌いだな」
「う……ちょっとはやるようになったじゃない」
「人間成長しないとね」
 軌道計算が終了した。
「行くよ!」
「はい!」
 ブースターモードから人型へ、そのまま第二次形態へと移行して、システムネクストは起動しないままにATフィールドを発動させる。
 戦闘中であれば絶対にできない行為である。それほどまでにATフィールドを発生させるための機関の制御は難しいのだ。
 システムネクストが必要なほどに……。
 しかしただ加速しているだけの状態であるのなら、そうそう無理なことではない。ATフィールドを可能な限り大きく、広く、展開する。
 ATフィールドは物理的な障壁とは違って、一時的に異常な密度の次元空間を発生させるものである。
 過剰なエネルギーが空間に作用して、そのような現象を引き起こしているのだが……これは重力変動場に近い質のものである。
 たとえば船を沈めたときのように、物体を押しのけることにも使えるし。このような時には、衝撃波を『押し返す』ような真似もできる。
 レーダーに表示されている衝撃波のうねりに接近する。シンジはらしくなく、マナのように興奮した声を放っていた。
「いっけぇ!」
 質量を持たせたATフィールドを射出する。
 ATフィールドは拡大しながらも初号機の姿を保っていた。両腕を広げた巨人となって、激しい波を受け止める。
 ドォンと無音の空間に激震が響き渡った。
「くぅ!」
 モードをブースターに切り替えて、軌道をやや右に変更する。
 残像がはじいた衝撃波が、様々な方向にも干渉して、相殺現象を引き起こしていた。
 その内の一方向に、求めていた道を見つけ出す。
「そこぉ!」
 強い衝撃の嵐の中に、比較的穏やかな動きを見つける。
 シンジはフィールドシステムを起動すると、その波に乗って滑るような操縦を披露して見せた。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。