通信を切られてか? 男はわなわなとふるえていた。
 いらだち紛れに、だんっと拳を机に落とす。
「だから言ったのだ! あの男は危険だと!」
「いまさらだな」
 同じテーブルに着いている、四人の男たちは醒めていた。
「半ばこうなることは予見していた」
「だからこそ回収を急いだのではなかったのか?」
「エヴァは?」
 テーブルの上に、航宙図が映し出された。
「間にあわんか……」
「いや、間に合ってもらおう」
 最も高い位にあるものが口にした。
「そのための鈴でもある」


「超空間通信を使っての望遠撮影だから……誤差はかなりあるんだけど」
「それでも……速すぎる」
 この機動性は、普通の人間には出せるものではないとシンジは断定した。
「まだなにかあるのか……僕の知らない、僕が逃げ出してから開発されたものが」
「シンジ……」
「大丈夫。今は……こっちだ」
 シンジたちが向かっているのは要塞艦である。
 そちらを拡大投影すると、菱形の物体の正面から、光の帯が伸びていた。
「あれ、なに?」
「砲撃だね」
「じゃああのでっかいやつの?」
「いや……地球軍の戦艦からのだよ」
 かなりの長距離攻撃なのであろう。この距離ではどちらが放っているものなのかわかりづらかった。
「太いね……」
「そうだね。何十隻集まってるんだろう?」
 下手な機体ではその光に近づいただけで電磁波を食らい、機体に生じさせられることになるだろう。
 そうでなくとも各艦から放たれる光は、それぞれが融合現象を起こしているのだ。飛散する余剰エネルギーは、小型機などあっという間に穴だらけにしてくれる。
「まるでコロニーレーザーみたい……」
「コロニーレーザーか……」
 コロニーレーザーとは、直径三キロの筒型コロニーを改造して作られた巨大レーザー砲のことである。
「コロニーレーザー……そうだ!」
「なに!?」
「地球軍に相談してみる……うまくいけばあれを止められるかもしれない」
 シンジは慌てて回線を探した。


「なんだと?」
 地球防衛軍の総司令官は、自分の耳を疑っていた。
 金星からやって来た支援隊というのが、中型の戦闘機一機だというのなら、そのパイロットというのが、少年少女の組み合わせだというのだ。
 そしてゲンドウの船が二隻とも無傷のままで到来しようとしている。この忙しいときになんの冗談だと怒鳴りつけてやろうと思ったのだが、それもできないようになってしまっていた。
「ソーラーパネルを使っての、熱照射攻撃だと!?」
「はい」
 メインモニタに大写しになっているシンジが、実にまじめな表情をして頷いた。
「地球圏は確か移民用として、耐用年数の半分を過ぎたコロニーを、各惑星に向けて移動させていましたよね?」
「ああ……」
「それで減ってしまった分のコロニーを新しく建設するために、大量の建設資材を衛星軌道上にため込んでいたはずです」
「よく知っているな……」
「ニュースで見ました……こっちでは四日遅れのニュースでしたけど、そちらのスケジュールでもまだ二週間はそのままのはずです」
「わかってはいるが……」
「太陽電池用のソーラーパネルを広げれば、あれくらいの船は焼き尽くせるはずです。
「しかし核すらも通じなかった相手だぞ?」
「フィールドシステムにも欠点はあります」
 男はシンジが送ってくるデータを片手間に目を通しながら返答した。
「なるほど……境界面に流動的な空間異常を発生させて、受け流しているだけなのか」
「そうです。核の爆発は凄いけど、発生する熱量は知れています。持続時間も」
「確認はできたか!」
「はい。確かに焦げ付いています」
 オペレーターの一人は、偵察機からの要塞艦の表面装甲の様子を分析していた。
「核を上回る熱量で、それも、とぎれることなく、か」
「はい。限界を超えれば、あれだけの大きさです」
「オーバーロードで自爆するか……よし!」
「お願いします」
「すまないが君たちはゲンドウを押さえて欲しい……合流地点はほぼ同じなるはずだ。時間もだが」
「わかっています」
「阻止限界点などについては計算が成り立った時点で報告する」
「はい。一時通信を切ります」
「作戦コードは『ソーラーレイ』だ。コード発動と同時に退避しろ。以上だ」


 シンジはふぅっと息を吐いた。
「おつかれさま」
「ありがと……疲れるね。あんなに偉い人と話すとさ」
 マナはくすくすと笑っていた。
「なんだよ?」
「ううん……べっつにぃ?」
「変なの」
 さてとと気を取り直す。
「ゲンドウはどうしてる?」
「うん……月と地球と……太陽もかな? 三つが直線に並んだ延長上で要塞艦に合流するつもりみたい」
「ってことは、地球からは月が邪魔になるのか」
「読まれてるんじゃない? 『ソーラーレイ』」
 どうかな? と首をひねる。
「気になるのは、要塞艦が攻撃してないことだよ。あれは……なんなんだろう?」
「え? 要塞なんじゃないの?」
「だけど……」
「ほら、攻撃する必要がないって思ってるとか」
「どうしてさ?」
「ん〜〜〜、だってあれって、大きさからするとかなりの攻撃力がありそうだけどさ。武器っていつかは弾切れになるじゃない?」
「そっか……ゲンドウは補給が利かないんだ」
「うん。だったらあれって、温存とかしてるのかなって」
 シンジは渋い顔をした。
「こっちには、無敵のATフィールドがあるんだけど……でも言い換えれば、それだけってことなんだよな」
 ゲンドウに対して思ったことだったが、それは自分たちにも当てはまるのだ。
 武器弾薬の数など知れている。
 あれだけの要塞艦から、一体どれだけの機体が出てくるのだろう? それは想像したくもない話であった。



続く





[BACK][TOP][NEXT]



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。