「くそ!」
角付きJAのパイロットが毒づいた。
「このままじゃやられるだけだぞ!」
両手に持っているのはショットガンタイプのライフルだった。もちろん見た目だけのビームライフルであるが、拡散性がかなり高くなっている。
左右に撃ちつつ、さらにAJの背に増設していたスーパーパックからマイクロミサイルを放出する。
たかるように集まって来ていた四機の量産機をひるませて、彼は爆発の煙から外に出た。
「指令機! 解析はまだなのか!?」
彼らが戦闘を行っている様子を、一機のJAが観察していた。
その背にはAJとはまた違ったタイプの機体を接続している。円盤形のドームが乗っている機体だった。
レーダードームなのだろう。
さらには通常のJAとは違って、複座式になっている。
「本当に自動兵器なのか? こいつは」
「情報じゃああれだけの数のパイロットを揃えられるはずがないんだが。熱サーチでもコクピットらしきものはないし」
「にしたってこりゃあ……」
運動パターンを解析しているのだろう。
光点の移動をラインでつないで確かめている。
「自動兵器だってんならかなりのものだぞ」
「ああ……まるでパターンがつかめないな。まるで特定できない」
自動兵器というものは、あらかじめ登録されている行動パターンを組み合わせて対処運動をするものなのだ。
ならばその動きにはある一定の基準のようなものが見えてくるものであるし、動きそのものにも特徴が出てくる。
「自動兵器じゃないのか?」
「じゃあなんだっていうんだよ!?」
その答えは出てこない。
だが知っている者たちはいた。
「素晴らしいの一言に尽きるが……」
「なるほどまったく。あの男が暴挙に走り出したのもわかるな」
「この戦闘力は一国の軍事力に値するよ」
──コネクト。
ゲンドウは肘掛けのウィンドウ隅に出た表示ににやりと笑った。
それはレッドノアとの通信回線である。
「聞こえるか」
ザザッとノイズ混じりに声が聞こえた。
「博士」
「状況は把握している」
「時間的な問題から……その」
「言い訳はいい」
「ひあ!」
相手はその物言いに恐怖したようだった。
「もっ、申し訳ありません! ですがなんとか一撃放てるだけのエネルギーは保持しております」
「再充填には?」
「約三十時間……無理であるかと」
「ならばいい」
ゲンドウは許した。
「目標は月だ。月都市を叩く」
「はいっ!」
「射程距離に入り次第すみやかに実行しろ」
「了解いたしました!」
通信を切ってから、ゲンドウはふんっと鼻息を吹いた。
「物を考えられん上に、人の言うことも満足にやれん。まあ、だからこそ使い捨ての人間としては最適なのだがな」
ゲンドウは本格的な減速をスタートさせようとして、追走してくる船があることに気が付いた。
「む?」
一隻や二隻ではない。中型の戦闘艇クラスだが、核爆発を利用してあるていどは速度を落としているとはいえ、通常の航行速度ではないのだ。
「なんだ?」
──高速で接近する編隊。
太陽風をその独特の舳先で切り裂いてくる船は……。
「ヘヴンズキーパーか!?」
ふふふふふと女は笑った。
黒の皮服はやたらと露出度の高い物だった。股間を隠した皮がそのまま胸で交差し、首の裏を回っているような代物である。
赤い口紅は不必要なほどに毒々しく、黒く長い髪はいやらしいほどに濡れていた。
赤いブーツを履いた足をくみ交わし、メインモニターに映っているガーゴイルに舌なめずりをする。
「見つけたよ……よくも人の名前を使ってくれたもんだ」
金星でのことを言っているのだろう。
「その上、いいように利用してくれて……落とし前は付けさせてもらうよ?」
数十機のガーフィッシュ隊の背後に、巨大な戦艦が追随していた。
それを見つけ、ゲンドウも唸る。
「エクセリオン級か」
「砲撃用意!」
ノーズの長い……情報から眺めると二等辺三角形を描いている船だった。船体は青い。その装甲表面がいくつもめくれ上がって、球状レンズの姿を見せた。
「撃てい!」
撃ち出されたレーザーが、急激に角度を変えてガーゴイルを追う。
「ホーミングレーザーを実用化したのか!? だがフィールドシステムは」
──激震が船体を襲った。
「なに!?」
「ふふふ……」
女はぺろりと唇をなめた。
「ホーミングレーザーに見えただろうけどね……これは違うものなんだよ?」
まるでゲンドウの焦りがわかっているかのように口にしていく。
「こいつはね……。追尾式の発火装置を撃ち出して、レーザー発振器を使ってエネルギー供給をしてるだけなんだ。フィールドシステムがあろうがなかろうが、物理的に接触を果たした発火装置の爆発には耐えられんだろう?」
射出された攻撃兵器は攻撃対象物に接触すると、発振器からのレーザーを吸引して爆発を起こすのである。
ホーミングレーザーに見えるだけの、ただの零距離炸薬であった。
「ふ……ふふ」
ゲンドウは腹の底からこみ上げてくる笑いを、押さえきれなくなっていた。
「ふははははは! やってくれる」
ゲンドウは滑り落ちたのか椅子にしがみついて振り飛ばされないようにしていた。
「装甲の損傷率が高いな……このまま高速航行は続けられんか」
傷ついた部分にはなめらかさが欠けている。そのために摩擦係数が高まって、異常な発熱を起こしていた。
「強制離脱!」
ゲンドウが声を大きくして命じたと同時に、船は強引に転進して再加速を行った。逆進することで減速行動としたのだ。
──相対速度差があるために、あっという間にヘヴンズキーパーは追い抜いてしまう。
「ちっ」
反転して追撃をかけようとする。だがゲンドウは焦らなかった。
むしろおもしろがっていた。
「シンジが来るまで残しておこうと思っていたのだがな」
彼は中央部になにかのコントロールユニットを呼び出した。
そこに入り込んで、蓋を閉める。すると頭を隠すようなヘルメットがかぶせられた。
「……脳波コントロール。ネクスト無しでも相応の威力は誇る。貴様らの相手をするには十分だろう」
再度転進した赤い艦から、四っつの筒状物体が射出された。
「ミサイル!?」
警戒し、散らばったヘヴンズキーパーを追いかけるように、その筒状物体からさらに小型の物体が発射された。
「行け、リリム」
自動兵器群。
それもマイクロミサイルサイズの兵器だった。武器も何もなく、ただぶつかって壊れるだけの原始的な物だが、爆発力は十分だった。
「ふは……ふははは、ふはははは!」
狂ったように笑い声を上げる。
事実彼は狂いかけていた。脳波コントロールにはそれなりの負荷がかかる。リリムは百機を一群にしているのだ。計四発で四百機のリリムを彼はコントロールしていることになる。
人間の脳は立体的な動きを捉えることには不向きにできている。それを一片数十万キロという広さで設定される戦闘空域のすべての情報を捉えつつ、敵機を把握して破壊指令を出しているのだ。
彼の脳は過剰な分泌物によっておぼれそうになっていた。
「む?」
そんな彼であったが、遠くに大きな反応を見つけてしらふに戻った。
「なんだ?」
巨大な反応を示している。これは……。
「ATフィールド!? ジェネシス初号機か!」
そこはレッドノアが進撃している宙域であった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。