「いい? マナ」
シンジはブースターモードに変形させて、ほぼ特攻とも言える突入をかけた。
「システムの起動と同時にATフィールドを展開して受け止める。うまくいけばオーバーロードで一時的にフィールドシステムを無力化できるはずだから、そこを狙ってもらえば」
「シンジ……」
「なに?」
「間に合わないかもしれない」
「え!? なんでさ」
「変に内圧が高まってる……これって転換炉の動きなんじゃない? 戦艦が主砲を撃つときに似てるよ」
「そんな!?」
シンジはますます絶望的だと感じたが、どうせやるしかないのだと諦めた。
「要塞艦の前頭部が開いてく。やっぱりよっ、シンジ!」
「システム起動!」
まるでシンジたちが繋がることになれていくように、変形もまたスムーズに行われるようになってきていた。
ほんのコンマ何秒かで巨人への形態移行を成功させる。そしてそれは正解だった。
変形にはデリケートな計算が要求される。ネクストとしての性能が上がれば上がるほど、当然この補正にかかるタイムラグも減っていくのだ。
巨人機は要塞艦の前方に立った。
JAに比べれば姿の大きな第二形態時の初号機も、やはり要塞艦の前には蟻以下の存在である。
押し迫ってくる。爆発による煙を幾筋も引いて。しかしシンジたちは引き下がりはしなかった。
初号機が両腕を広げる。
胸を張って、大きく体を反らした。
『ATフィールド、全開!』
二人の声が宇宙を駆ける。
次の瞬間、金色の光が地球からでさえも観測された。
──キィイイイイイン!
澄んだ音が宇宙に鳴って、誰もがその音に振り返った。
「誰?」
「くあああああ!」
「うわぁあああ!」
二人が絶叫を上げる。黄金色の八角形の障壁もまた悲鳴を上げる。
接触部分から波のように干渉光が走っている。信じがたいことにこの瞬間、要塞艦の進撃速度は落ちていた。
「なんて……」
呆然と見ているのはJAのパイロットだった。
「こりゃまるで魔法だ!」
無防備の初号機を背後から襲おうとしている量産機が見え、思わず彼は叫んでいた。
「あれの背後を固めろ! 敵機に邪魔をさせるな!」
本能的に他に頼れるものがないことを悟っているのか? この命令に従った機体は一度に十機を超えていた。
初号機の背後に位置して量産機への牽制に入る。
そしてその分だけ、シンジとマナは、意識を同調させることに成功していた。
『止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!』
──止まれぇ!
メシ! 嫌な音がした……それは要塞艦の船首からのものだった。
主砲を撃つために開こうとしていたハッチが壊れ、潰れていく。
慣性が働いているために、高速で壁にぶつかった車のように、前方部からひしゃげようとしていた。
──だが。
コォンコォンコォン……と、船首の奥に見える発振器には光が十分に宿ろうとしていた。
(やられる!?)
二人は同時に消滅する自分達を見てしまっていた。だから大声で叫んでいた。
「避けてください!」
気づいたのか、背後のJAが散開する。それを待っていたがために、シンジたちは遅れてしまった。
「うわっ」
「きゃあ!」
ぎりぎりで回避に成功したが、それもATフィールドがあってのことだった。
繭状に固定したATフィールドに包まれたままで、光にはじき飛ばされてくるくると回る。
「くっ、そぉ!」
やけに似合わない口汚い言葉を発してシンジは姿勢制御を行った。
「光が……」
マナは目を丸く見開いていた。
「光が……突き刺さる!」
「マナ!?」
「だめっ、逃げて!」
「マナ!」
「星が……砕かれる!」
「くっ」
「あう!」
強制的に接続を解除する。神経系統に負荷がかかりすぎたのか? マナは小さな悲鳴を上げて気を失った。
「くそっ……くそぉ!」
レイを殺したと思ったときもそうだった。彼女は生身の死人を見ると暴走する。
それでも人殺しができるのは、システムを通じて罪悪感をシンジが引き受けているからだ。
マナを見る。その苦悶に歪んだ顔に絶望する。
(このままじゃ……マナはいつか壊れちゃうよ)
システムは残酷な未来も想像させる。
──放出された光は誰にも止めることができなかった。
「え?」
地球。
空を見上げた者たちは、夜空に輝くものを見つけてしまった。
「なんだろう?」
月の向こう側が明るいのだ。
そして──月の一部がかすむほど、巨大な発光現象が観測された。
直撃したレーザーが大地をえぐりながら都市を襲った。
月面にも都市はある。定住人口二百万の都市であったが、他の惑星への渡航者などが滞在している。実際の人口は六百万を超えていた。
──その都市が、消えた。
光の中に蒸発し、蒸発しきらなかったものは衝撃波によって宇宙へと投げ出された。
月から噴出した瓦礫が隕石群となって地球と月の間に位置していた艦艇を強襲した。
──うわぁああああ!
激突しようとする巨石を対空レーザーで撃ち落とす。あるいは主砲で蒸発させるが、あまりにも数が多すぎた。
衝突されてへし折れた戦艦が爆発四散する。空母が大穴を開けられて沈没した。逃げ出した小型機が衝突する。残骸は隕石に巻き込まれて地球へと流されていく。
地球の衛星軌道上に展開していた艦艇も恐慌に陥っていた。
このままではソーラーレイ作戦にも影響が出てしまうと。
「ソーラーパネルの損傷率は七割を超える計算です」
そして彼は制帽を目深に被った。
「やむをえん……な」
「司令?」
「ソーラーレイの試射を行う!」
「し、司令!?」
彼は仰天してしまった。
「あそこにはまだ味方が……生存している味方もいるんですよ!?
「だが本作戦を失敗すれば彼らを救出する者はいなくなる」
同じことだと言い切った。
「司令……」
「時間はない! MAGIに試射要請を出せ、早く!」
彼は口に出してつぶやいた。
「ソーラーレイには照射にかかる充填時間は存在しない……間に合うはずだ」
それは非常な言葉にも思えたが、誰が聞いても、沈痛さを押し隠した台詞であった。
「撃つ!」
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。