「初号機……シンジめ、やってくれる」
 ガガンと爆震にみまわれる。
「ええい! リリムは」
 小型ミサイルがガーフィッシュを追いかける。
 直進したまま、上方へと位置をずらすガーフィッシュ。
 さらにブレーキまで利用して、追い抜いていったリリムをレーザーで狙い撃った。
 ──ガン!
 しかし爆発したのはガーフィッシュであった。
 動きの止まったところを別のリリムが特攻したのだ。
 巨大な火球がメインモニターを焼き付かせる。
 ──ドン!
 その火球を貫いて、炎の矢がガーゴイルに突き立った。
「くううう、フィールドシステムですら受け流せないほどの負荷をかける攻撃だと?」
『ふふふ……』
 通信回線から声が聞こえる。
「貴様」
『エクセリオン級は外宇宙の航行を目指して設計された船だよ? 高出力攻撃はお手の物さ……それに、フィールドシステムならこっちもそれなりに研究してるんでね』
「ふん……ツェッペリンディスクだろう。惣流博士が持ち逃げした」
『あはははは! それじゃあ計算が合わないじゃないか。確かに完成版は彼女からもらったけどね? 情報のリークはもっと前からさ』
「売女が」
『それが女を使ってのし上がってきた男の言うことかい!』
 ズズン、ズズンと爆発が重なる。
『沈みな! 沈んであの子たちに詫びて来な!』
「見苦しい!」
 ガーゴイルの表面装甲が展開された。
 装甲三枚分ほど浮き上がる。その下から砲身が伸びる。
 ──電磁レールガンである。
「落ちろ!」
 加速された砲弾がフィールドシステムも無視してガーフィッシュを打ち砕いた。
 真っ正面に食らってしまい、ノーズを陥没させ、そのまま後尾へと貫通されてしまったもの、あるいは旋回中のところを撃たれて背をくの字に曲げて破壊されてしまうもの。
「なんて威力だい!」
 彼女はそう驚愕すると、席から立って(べん)を振るった。
「敵艦正面に位置固定! 主砲連続照射! 撃ち続けてる限り実包弾の直撃を食うことはないよ!」
 了解とクルーが答える。
「ふん……無駄なことを」
 ゲンドウはシートに戻ると、両の肘掛けに肘を落とし、手を組み合わせた。
 体をやや前に倒して、重ねた手の陰に顔半分を隠し、にやりと笑う。
「ビームラム」
 レールガンが収容される。
 そして船首部分が赤く発光した。
 ビーム膜が展開されて、突撃用の衝角が形成されたのだ。
「突貫」
 ビームラムが主砲をはじく。
「なんだって!?」
 そして二隻は激突した。
 ──エクセリオンの船首が砕ける。
「このぉ!」
 彼女はスパークするモニターをにらみつけた。
 ノイズ混じりで今にも消えそうな画面に、遠ざかっていくゲンドウの船の後尾が見える。
「馬鹿にしてぇ!」
 しかし彼女に、追いすがるだけの力はなかった。


「時間がないんだ!」
 シンジは焦っていた。
「シンジ!」
「黙って!」
 もう攻撃し、撃墜しているだけの余裕もない。
 要塞艦に引き離されては終わりなのだ。しかし要塞艦は遠ざかっていく。
 質量と加速。その双方を持っている要塞艦は、回避運動を強いられているジェネシス初号機よりも確実に足が速い。
「シンジ焦らないで!」
「けど!」
「もうすぐ阻止限界点よ!」
 シンジはそれを聞いて機首を巡らせた。
「くそ!」
「一旦戦域を離れて、迂回して月を回りましょう。月の引力を利用すればあれの正面に出られるわ」
「でもそこは」
「かなりの隕石があると思うけど……大丈夫。システムを立ち上げれば」
 シンジ? マナは歯切れの悪さのようなものを感じて、どうしたのと彼に尋ねた。
「そういえば……さっき」
「マナ……」
 シンジは深刻な表情になっていた。
「システムは……だめだ」
「どうして!」
「マナは確かに耐えてくれたよ。精神汚染……僕が入り込むのも、拒絶しないで受け入れてくれた、でも」
「でも?」
「神経にかかる負荷は普通じゃなかったんだ。このまま使い続ければ確実に障害が出るよ。運が悪ければ廃人になる」
「でも勝たなきゃ意味がないじゃない」
「そうだけど!」
「地球が終われば金星も終わるし、あたしたちも……あたしも死ぬしかないのよ? 命の出し惜しみするくらいなら」
「でも……」
 シンジは本当のことが言えずに歯がみした。
(君の心が)
 マナは気が付いていない、まだ。
 自分の心に、すでに傷を負っていることを。
「わかった……」
 これは折れないな。そう感じたのか、マナは自分から引き下がった。
「でも高機動モードでなら大丈夫でしょ? あたしが動かすから、シンジは残骸を撃ち落として。速度は落ちるでしょうけど、それでも間に合うはずよ」
 ──どのみち。
「ここでまかれたらもう間に合わないんだから、やるか、あきらめるか、どっちかしかないのよ?」
「……わかってる」
「じゃあ、行こうよ? ね」
「わかった」
 ブースターモードを立ち上げて、長距離加速に突入する。
(シンジ……)
 マナはシートに体を押しつけられながら、疑念の解決先を求めてしまった。


「目標、来ます!」
「月の陰より出現、距離約四十万キロ」
 直に見る要塞艦の存在感に、おおっとどよめく声が発せられた。
 月を回り込んで地球へと落ちるコースを取っている。その軌道のやや外側にミラーは配置されていた。
 太陽光を反射し、狙うためには、この角度でなければならなかったのだ。
「地球に落ちはじめてからでないと狙えんとは」
「ですがこの案を提示されなければ」
「わかっている!」
「少なくとも、落下コースへ乗るための姿勢制御ブースターは破壊できます。加速がありすぎますからな。そのまま外に放り出されてくれるでしょう」
「地上からの援護は?」
「Nをありったけ打ち上げてくれるそうですよ。少しでも外に持ち上げようと言うのでしょうが」
「そんな計算までMAGIにやらせようというのか?」
「想像を絶する計算機ですよ、MAGIは」





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。