「敵要塞艦、作戦ポイントまであと三百秒!」
「各ミラー同期良し」
「十六番艦! ミラーの前から移動しろ! 焼き殺されたいのか!?」
緊張感が高まっていく。それも無理のないことだった。
ここが本当に最後の防衛ラインなのだから。
しかしそのことは、ゲンドウもまた承知していた。
──警告音が鳴り響く。
「なんだ!?」
「外宇宙より飛来する高速艦艇発見!」
「敵か!?」
「パターン照合、ゲンドウの船です!」
赤い船が突入してくる。
「そんな……通常艦の三倍の速度が出ています!」
「ミラーに突入するつもりか!?」
「突き破られたら終わりです!」
衝撃波にミラーの角度はばらばらになってしまう。
再度合わせることは不可能だろう。
「くっ、照射だ!」
「しかし! まだ!」
「この角度ならゲンドウの船ごと狙えるはずだ、敵艦の突入前に」
「了解!」
ミラー背後の姿勢制御機構に火が入る。
それぞれが角度を合わせる。黒い要塞艦にきらきらとした光が集まり、その姿を白く染め上げ……そして。
──カッ!
その光が一点に集中したとき、要塞艦は派手な煙を上げ始めた。
──そして同時に。
ゲンドウの船がその光の奔流の中へと飛び込んでいった。
──ガァン!
黒鉛を巻き付かせた船が、ミラーの群れを突き破った。
割れたミラーが舞い、荘厳な雰囲気を艦に与える。しかしその艦は度重なる戦闘によって焦げつき、みすぼらしくもすすけていた。
「やってくれる」
ゲンドウはフィールドシステムが死んだのを確認して、パイロットスーツに袖を通した。
「この船はもうだめか」
モニタには正面半分を融解させた要塞艦が追ってきていた。あれでは内部の人間は死んでしまっているだろう。
「ふっ、むごいことをする」
口ぶりとは逆の表情であざけった。
あの科学者たちがどうなるかなど、気にもとめていないのだろう。
さらに地球からのミサイルが上がってきた。N2弾頭のミサイルだ。
次々と要塞艦の下部に爆発を作り上げて、衝撃波の膜を形成する。
その膜に乗せて、そのまま外宇宙へとはじき飛ばしてしまおうというのだろう。巻き込まれることを恐れた艦艇の動きが滑稽だった。
「甘いのだよ」
艦後部よりリリムボックスを射出する。
さらにリモートコントロールでレッドノアを操作する。
「分離」
縦横に存在していたロックが爆発によってはじけ飛ぶ。
その一つ一つはとても頑健な物だ。
さらに内部の接続も解除された。
要塞艦が八つのブロックに分離していく。
──ゲンドウの艦を!
叫んでいた司令は、その様子に唖然とした。
「なにかあるぞ!?」
要塞艦中央に、無傷の物体が存在していた。
それは黒い球体だった。
「なんだ?」
「リリスズエッグ」
にやりと笑って、ゲンドウは叫んだ。
「アダムよ! スケールは小さくともMAGIに存在していたもののレプリカだ! どうだ!? これでもまだ貴様はわたしを認めぬか!?」
ゲンドウが叫んでいる相手は、地球であった。
「わたしを、真なる地球へと連れて行け!」
彼は狂気に毒されていた。
「ゲンドウめ」
「ここまでやるのか」
モノリスたちが話し合う。
「だがあの中にリリスはない」
「碇の隠匿癖が役に立ったな」
「すべては頭の中か。そしてそのままだ」
「失われた物も大きい……が」
「いまはいい」
皆がその言葉に同意する。
「だが……あれはアダムを怒らせる」
「それは我らの計画を狂わせるぞ」
「エヴァの帰還と、アダムの復活」
「ならば、我らも参戦しよう」
地球より何かが上がってくる。
それはこれまでと同じミサイルに見えた。しかし、大きさがあまりに小さい。
何よりも驚くべきことは、推進器の類が付いていないことであった。
──先端部は細長く、横に赤い筋状のラインマークが入っていた。
胴部は四十メートルほどで、まるで布をまいているかのような形状をしていた。
いや……。
実際に、それは何かを巻き付けていたのだ。
──バン!
軌道上まで上がったそれは、巻き付けていたものを大きく広げた。それは真っ白な翼であった。
「なんだと!?」
ゲンドウはそれを見て愕然とした。
次々と上がってくる翼持つ巨人。手には大振りの剣を携えている。
形状は零号機に酷似していた。それもそのはずで、ゲンドウは『これ』のデータを元にデザインを決定したのだ。
「エヴァンゲリオンだと!?」
その数、九体。
「復活したというのか……」
『違うな』
聞こえた声に、誰だとゲンドウは返してしまってから、通信がオンになっていることに気が付いた。
「強制割り込みだと? ハッキングか」
『久しいな』
周囲を取り巻き現れたモノリスにあわてふためく。
「キール議長……」
『ふん……オリジナルとはほど遠い』
『左様。我らの知る碇という男は、この程度では動じぬよ?』
ちっとゲンドウは舌打ちをした。
「『旧世界』の遺物まで持ち出して来るとは、よほど焦っておられるご様子だ」
『無論だよ。君の行為は死に値する』
『エヴァンゲリオンシリーズ。君の手に負えるものではないよ?』
『それでもと思うなら抵抗してみたまえ』
「く……くく」
『なにがおかしい?』
「わたしにも、切り札はあると言うことですよ!」
『な!?』
卵が胚分割を開始した。
だが実際には何十のパーツへと割れ始めたのだ。
そして隙間の開いた中心部に、彼らにとって見慣れたものが収まっていた。
『エヴァンゲリオン……零号機!?』
「そう!」
ゲンドウは高らかに歌った。
「あらゆる次元、空間をまたにかけて存在する我らが母、リリス! その分け身たるもの。……手に入れるには、少々苦労しましたがね」
『馬鹿な! どうやって……』
「簡単なこと」
くつくつと笑う。
「あなた方がどのようにしてエヴァシリーズを取り戻されたのか? かつてのリリスは死して地に骸となった。ならば組織の回収は容易でしょう」
『発掘したというのか……』
「考古学を学ばれるべきでしたな。特に地質学の分野では説明不可能の細胞サンプルがよく出土していたのですよ。腐りも、乾きもせずに存在し続ける、ただ土中の糞虫の餌となるだけの肉片がね」
さぁ! 彼は一つ一つのモノリスに対して喧嘩を売った。
「互いのエヴァシリーズ、その決戦を」
──そしてエヴァの中で、彼女が目覚める。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。