──戦場は混乱していた。
黒い物体──形状を展開しているレッドノアの周辺を、白い機体が取り巻いている。
量産型のジェネシスだ。
JAがこれに急接近して銃撃を浴びせる。しかし機動性の違いからか簡単に避けられてしまった。
量産型機もまた応戦した。手にしているライフルを連続して撃つ。
反動で回転しながら下がっていく。五発撃ったところでブースターに点火して、接近戦へと移行する。
何十機単位での戦闘だ。
ここに戦艦が肉薄してくる。味方機がいるのにもかまわずに狂ったような砲撃をくわえている。
レッドノアの装甲が加熱して蒸発している。それでも動きは止められない。
確実に落下コースに乗っている。
そして……である。
青い機体──エヴァンゲリオン零号機。
零号機はゲンドウの乗る先端部分に着艦し、顔を上げた。
その中、コクピットでも、青い髪の少女が顔を上げている……。
しかしヘッドマウントディスプレイを被っているために、見えているのは口元だけだ。
──攻撃。
白いエヴァンゲリオンが口から光線を吐いた。青い粒子ビームが直撃コースでまっすぐに伸びる。
──光。
金色の干渉光。青い光線は障壁に弾かれて散った。ATフィールドである。
「ATフィールドがある限り」
「甘いな」
ゲンドウの言葉はキールの嘲笑によって遮られた。
量産機が剣を持ち替える。
剣だった物はねじれて二股の槍に変わった。
「ロンギヌスの槍か!?」
ゲンドウの驚きをよそに、九体のエヴァが槍を投擲する。
ATフィールドに突き刺さる槍。
その先端部がバチバチと放電を起こしている。
歪むフィールド。破れる障壁。
「ATフィールドが!」
ふんとキールが鼻を鳴らす。
「ATフィールドの解明については、こちらの側が圧倒的に進んでいるのだよ」
──ATフィールドが破られた。
そして九本の黒い槍が、零号機を貫いた。
Evangelion Genesis Next
Evangelion another dimension future:16
「あなたと同じ、仕組まれし子供。ネクストだもの」
「なんなのこれぇ!」
マナは絶叫を上げていた。
隕石群を突破したそこは、乱戦に陥っていて流れ弾がどこから飛んでくるのか予測もつかない状況に陥ってしまっていた。
通常、戦域というものはそれなりに広がる物だが、今は状況が違っていた。
目標は移動物体であり、誰もがその進行を阻止しようとして躍起になってしまっている。
盲目的に対象を追尾し、すがって、攻撃を仕掛けている。
すでに部隊単位での戦闘すらも行えなくなってしまっていた。
「マナ! 全段発射して切り抜けるよ!」
「ええ!?」
「敵味方識別信号は生きてる! ミサイルの方で判断してくれるはずだよ」
適当なことを言って残されていた五発のマイクロミサイルを発射した。
火球が発生する。どれも外れたが、突撃するための隙間を作るには十分だった。
「ATフィールドを魔法の力だとでも思っていたか?」
あざ笑うかのような言葉が投げかけられる。
「ATフィールドは科学で解明できる代物だ。あくまで電磁力の産物に過ぎない。ならばこのように引き裂くことも可能なのだ」
「キール議長……」
「聞いていない……か? すべてを知らせる義理はないからな」
所詮と口にする。
「駒の内の一つに過ぎぬよ、お前はな」
だが、あらゆる者の思惑を越えて、彼女は意識を起動する。
「……碇君?」
●
──グォオオオオ……。
青い空を四機の戦闘機が飛んでいる。
人間は二本の足で立つ生き物である。
そして顎元の筋肉の都合から、うつむいて生きる生き物でもある。だからだろうか?
戦闘中、比較的下に回り込む動きに対しては強くても、上を取ろうとする敵に対しては反応が甘くなる。
これを矯正するために、地上では戦闘機を使っての訓練がくり返されている。
「ブラボーワンよりチーム各機へ。これより作戦を実行する。これは訓練ではない」
でも卒業試験なんでしょー? そんな軽口が帰ってきて、男は笑った。
「ミスれば地球ごとおだぶつだがな!」
訓練生が乗っているのは高度三万メートルまで上昇可能な戦闘機だった。その腹には巨大なミサイルを抱えている。
「発射!」
上昇高度限界点でミサイルを放つ。
ミサイルはブースターに火を入れて、さらにぐんぐんと加速していく。
戦闘機乗りたちは、ここまでと見定めて降下に入った。
「でもあのミサイル……」
ノイズ混じりに通信が入る。
「普通のミサイルじゃ……ないんでしょう?」
レッドノアはあまりにも物体として巨大すぎた。
そのために、地上からでも姿が肉眼で確認できる。
青い空に白く姿が浮かび上がっている。
──東洋の島国。
かつては列島であったというその場所には、今は小島が点々としているだけである。
どの島も丈の短い草によって覆われている。あまり高い木の姿は見られない。
──そんな島の一つだった。
草原の丘。
少女が夢に見た丘。
そこを少年が登っている。
かつては二人で、今は一人で登っている。
彼は彼女と別れたそこに一人で立つと、天を見上げて悲しげにした。
──はっ!?
アスカは急に顔を上げた。
(夢!?)
眠ってしまっていた!? 自分の状態を把握する。
いつの間にか自分の部屋だ。かすかにヒカリに連れ戻された記憶があった。
何分? 何十分? 何百分?
どこまで見たものが夢だったのだろう?
彼女は時計を確認した。
「あ……」
外にある星の世界を映す壁面モニタに青ざめる。
(あんた……)
少年が空を見上げていた。
その背後に……青く輝く海がある。
そしてまばゆいばかりの太陽もあった……いや。
太陽は徐々に光の強さを増していって……ついには。
「いやぁ!」
彼女は髪を振り乱して叫んだ。
少年は光に飲み込まれて消えてしまった。
(いやっ、いやっ、いやぁ!)
好くない予感が駆けめぐる。
怖くて体ががたがたと震える。
そんな彼女の背後に、暗がりから一人の女の子が歩み出してきた。
赤い髪……青い瞳。
それはアスカとうり二つの少女だった。
「ねぇ……」
彼女はアスカに問いかけた。
まるで心の中の彼女だとでも言わんばかりに。
「どうしてここにまだいるの?」
アスカの中に答えはない。
「そんなに、自分が可愛いの?」
違う! 彼女の心はそう叫ぶ。
「あの人が……可愛そう」
彼女は声に
憐憫
(
れんびん
)
を乗せてふるえさせた。
「あの人は……あなたのためにすべてをなげうってくれたのに」
──あなたは、我が身が可愛いだけなのね。
少女は後ろ向きに下がって消えた。そして、またアスカ一人だけになる。
──嫌っ!
そして逃げ出す。部屋を飛び出す。
「あ、アスカ!」
入れ違いになってしまったヒカリが声を発したが、届かなかった。
アスカは息を切らして格納庫へ向かった。
思考はどこかに置き去りにして。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。