──あたしは、なにを思ってたんだろう?
 アスカの中に答えはない。
 だからアスカは過去に求めた。
 ──最初に見たのは、いつだったかな?
 少年と自分が歩く夢。
 まるで眠る前のひとときに、あこがれの人との出来事を思い描いて楽しんだような……、心をくすぐる、悲しいお話。
 いつからそれを、現実と思って受け入れていたのか?
 どうして自分は、それを現実にあったことだとして認めてしまったのか?
(シンジ!)
 心を徐々に、初期化していく。
 彼女はどこかに立ち返ろうとしていた。


 ──夜。
 暗い暗い夜。
 彼と彼女は二人きりで、暗い夜を過ごしていた。
 ──無言。
 瓦礫の廃墟。
 崩れたビルの壁が四方を囲む。そんな場所。
 人も、動物も、虫もいない。
 ──無音。
 月明かりは雲の向こうに。星は見えず。
 火の点け方すらも知らない二人は、微妙な距離を取ってしゃがみ込んでしまっていた。
「ねぇ……」
 少女が願う。
「なにかしゃべりなさいよ」
 だが少年は無言を通す。
「ねぇ!」
 いらだつ少女。
「なんで黙ってるのよ!」
 手を伸ばす。
 だが明かりのない夜は暗闇に閉ざされていて距離感もつかめず……。
 伸ばしたはずの手はなにもつかまずに空ぶってしまった。
(あ……)
 ──増す不安。
 本当に彼はそこにいるのだろうか?
 本当は自分を置いて消えてしまったのではないのだろうか?
 ──いや。
 涙が溢れる。
「いや……」
 声に漏れる。
 ──あたしを一人にしないで!
 しないよと、抱きしめてくれた彼を、泣きながら叩いた。


 ──エヴァンゲリオン初号機、コクピット。
「LCL満水……A10神経接続開始」
 カヲルが静かに口にする。
 だが。
「──うっ!」
 彼は吐き気に口を押さえた。
 体を前に折って顔をしかめる。
 徐々に、徐々に、体を起こし、彼はだめなのかいと問いかけた。
「それでも、あの子が、いいのかい?」
 脳神経にかかる負荷が、カヲルの体調を害していく。


「くのぉおお!」
 爆発に揺さぶられながらも、マナの右手は忙しくキーを叩いていた。
「見つけた!」
 そしてガーゴイルを発見する。
「シンジ!」
「うん! バルカン!」
 不用意に接近していた量産型機を胸部バルカンで破壊する。
 発生した火球を避けるようにして移動し、さらにガーゴイルに押し迫る。
「なんだ、あれ?」
 そして彼は気がついた。
「気持ち悪い……ロボットなの? 人形……」
 ガーゴイルの上に立つ青いロボットに、白いロボットがまとわりついている。
 しかし機械的な構造の見えないロボットで、どれも生き物のようにくねくねと動作していた。
「敵なの!?」
「どっちでもいい!」
「マナ!?」
「シンジはゲンドウを討ち取ればいいの!」
「うん! わかったよ!!」
 確かにその通りなのだ。
 地球がどうなるかはわからない……だが、シンジにとって重要なのは、創造主との決着なのだから。
「一気に行くよ!?」
「はい!」
「フィールド展開」
 コントロール桿を握るマナ。
 表情が一変する。それはネクストが起動した証である。
「敵船に突撃」
 金色の繭に包まれる。
 そして加速──。
 しかしマナたちは読めなかった。
 そこにいるのがATフィールドを無力化する能力を持った、怪物たちであったことを。




 星くずの中に漂う感触。
 むき出しの神経が直接太陽の風を感じている。
 ──不思議。
 彼女は思う。
(本当のわたしは、パイロットスーツを着ているのに)
 そして無骨な機体の中にいる。
 彼女──レイは、耳障りな音を聞きつけていた。


 ──くすくす、くすくす、くす。
 笑っている。
 どこかで誰かが笑っている。
 それは女の子の声だった。
「誰?」
 レイは薄目を開いて声の主を捜した。
「惣流・アスカ・ラングレー」
 正面に赤い髪の女の子が、うつむき加減に立っていた。
 レイの秀麗な眉が奇妙に歪む。
「……エンジェルキーパー」
「ご明察」
 口元に手を当てて、それでもくすくすと笑っている。
「さすがね……。死を覚悟していながらも、本能は生き残る術を探ってしまう、NEXTの性」
「…………」
「ジェネシスネクスト。その計画の根幹たる次世代遺伝子を組み込まれし者。そのファーストロット」
「あなたは」
「セカンドタイプ。すべての基礎として設計されたあなたのジーンマップを元に、より好戦的に作成されたあなたの妹。開発は惣流博士によって行われたわ」
「わたしを消しに来たの?」
「まさか……お姉ちゃんを殺したりはしないわ」
「なら何を求めているの? わたしに」
「……求めているのは、わたしじゃない」
 見て……と、空の一角を指さした。
 不思議なことに、二人は生身で宇宙にいる。
「あそこに、あなたを必要としている人がいるわ」
 宇宙(そら)が歪んで、飛翔する初号機の姿が映る。
「ジェネシス初号機……」
「そう……。そして操っているのはサードエディション。赤木博士が制作したあなたの弟」
「弟……」
「ええ」
 皮肉を口元に貼り付けて言う。
「あなたが求める、絆の子」





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。