──時が終わるなら。
「父さん……」
 いくら特別製の船だとは言え、大きさで勝るエクセリオンの突撃を食らっては、さしものガーゴイルもひとたまりもなかった。
 背後から追いすがるように衝突されて、無様にひしゃげながら砕け散った。
 双方に小爆発が発生する。
「なんで……」
 泣きそうな声を発してしまう。
 そんなジェネシス初号機の隣には、エヴァンゲリオン零号機が浮かんでいた。
 ──熱波。
 ソーラーレイが、二隻の船を焼き尽くす。シンジは零号機の庇護の元に、双方の船の行く末を見守った。
「シンジ……」
 くっと涙を我慢する。
「まだだ!」
 拘束が解かれていることを確認し、機首を解放状態にあるレッドノアへと向ける。
「あれをなんとかしなくちゃ」
「サードチルドレン」
 横やりのような通信にたたらをふむ。
「誰!?」
「キール……。キール・ローレンツ。サードチルドレンの顔を持つ者に告げる」
「サードチルドレン?」
「ゲンドウは、まだ生きている」
「な!?」
 シンジは慌ててレーダーを確認したが、ソーラーレイと二隻の船の爆発によって、宇宙は荒れに荒れていた。
 ──見つからない。
「マナ! 探して!」
「う……うん、わかった!」
 マナは疑問のすべてを内に隠した。
 今は訊ねているときではないと判断したのだ。
 ゲンドウ? 白い巨人……一体なにがどうなって、なにが起ころうとしているのか?
 そしてなぜ、隣の青い巨人は、自分達をかばってくれたのか?
(何もわからないことが、恐い……)
 ネクスト。あの力があればと欲してしまう。
 だがそれは贅沢というものだった。
「でもやっぱり……。あの爆発だよ? 溶けて蒸発しちゃったんじゃ」
 マナはごく当たり前の予測を立てた。
「こっちではなにも見つからないよ……」
 マナは視界の端になにかが引っかかるのを感じた。
(え?)
 そして気が付く。
「三時の方向!」
「え!?」
 零号機のATフィールドがかばってくれた。
 金色の干渉光。ぶつかってなにかが砕けた、それは……。
「なに!? 今の……」
「わからない……けど、小型のミサイル? 自動兵器?」
「わたしを裏切ったのか……レイ」
「父さん!?」
 爆発が徐々に収まっていく。
 そうすると炎の中に、黒い影があるのが確認できた。
「あれは……!?」
 ──エヴァンゲリオン。
 それも、黒いエヴァンゲリオンだった。
 背中には量産機のような翼がある。
(まるで悪魔じゃないか!)
 シンジは初号機に身構えさせた。
「お前までわたしを裏切るのかっ、レイ!」
 ゲンドウの感情に同調しているのか? 黒いエヴァが雄叫びを上げる。
「なんなんだよ……あれ」
 宇宙なのに、声が聞こえる。
「まるで生き物……ううん、それは白いのにも感じてたけど……あれは」
 もっと……別の、と、恐ろしくなる。
 マナは両腕を抱いてしまっていた。
「あんなもので!」
 まるでシンジの意識に呼応するかのように、零号機が漂っていた量産機の槍を掴み、投じた。
 宇宙を切り裂く光となって、ゲンドウの乗るエヴァへと迫る、だが。
 ──ピタリと槍は、その喉元で静止した。
 エヴァンゲリオン──3号機の手が、柄を掴む。
「所詮はまがい物か」
 ──バサリ。
 羽ばたきを持って、3号機は消えた。
 ──きゃあ!
 悲鳴に横向く。
「ああ!」
 零号機の腹部を槍が貫いていた。
 体を折る零号機の目前に、3号機がぎらつく目をさらしている。
 ──恐怖。
(見えなかった……読めなかった、感じなかった!)
 シンジは愕然としてしまった。
 量産機の時は違っていた。
 ネクストとしての能力は発動していた。それでいて、読むことができなかったのだ。
 なのに、今は違う。
 働く隙すら、得られなかった。
「こんなのって!」
「助けなきゃ!」
 マナの声に、緊急射出されるエントリープラグが目に入った。
「ああ!」
 シンジは焦った。初動が遅れた。
 先に黒い手が追いすがり、掴もうとする。
「だめだ!」
 シンジは叫んだ。
「父さ────ん!」
 だが、叫びだけでは、止められなかった。



続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。