「父さ────ん!」
手を伸ばす。だが、届かない。
モニタは非情にも3号機がエントリープラグを掴む様を拡大表示してくれた。
メインカメラは死んでいる。なのにメインカメラ以上にサブカメラはその様子を克明に捉えて見せてくれた。
そんな皮肉な状況の中で、シンジは「ああ」と絶望した……なにに、かはよくわからない。
──ザン!
だが3号機──ゲンドウの思惑通りとはならなかった。
「なに!?」
斬り飛ばされた黒い腕が、回転しながら虚空に消える。
白いエヴァがエントリープラグと3号機との間に割り込んでいた。
どこでやられた物か頭部が無くなっている。
「どういうことだ?」
右腕を失い、ひるんだゲンドウに斬りかかる。
大剣を振りかざす量産機。大上段からの一撃をATフィールドで受けるゲンドウ。
「フィールドを破るのか!?」
大剣はATフィールドを破り散らし、振り切った勢いのまま回転して、駒のように二撃目を脇目指して斬りつけた。
Evangelion Genesis Next
Evangelion another dimension future:18
「これが本物の、ロンギヌスの槍よ!」
「なにがどうなって……」
勝手に機体が動き出す。
「マナ!?」
マナがコントロールを奪っていた。
「どうなってるのか知らないけど、助けなきゃ!」
「そ、そうだね」
エントリープラグへと接近する。
「ハッチ開くよ」
「了解」
シンジはシートベルトを外すと、背中にバーニアを取り付けてハッチを開いた。
流れ出す空気に連れられ、エントリープラグのハッチらしき部位に取り付く。
「これか……」
戦闘の華が咲く宇宙を背景に、やけに静寂を感じさせられる。
シンジは腰のアタッチメントから銃に似た物を外すと、ハッチに押し当てて引き金を弾いた。
──半透明のゲル状物質が吹き出し、圧搾空気によって風船状にふくらんでいく。
シンジはまだ余裕がある内にその内部に取り込まれるよう潜り込んだ。その際に開けられた穴は粘着力によって再び閉じられる。
「ハンドルで締めてあるだけなのか……」
酷く原始的だなと思いながらもハンドルを展開して手を添える。
「固い!」
プラグ外壁に足を付いて力を入れる。不自然な体勢だけにうまく力を入れられない。
「こ、の!」
それでもなんとか回り始め……そして。
「うわぁ!」
バンと圧力によって内部から弾けた。
風船の中があっという間に液体によって満たされてしまう。
「水じゃない! なんだこれ!?」
気密服であるとはいえ、潜水服ではない。
パイロットスーツに異常が発生する前にと中を覗く。
そしてシンジは顔をしかめた。
「酷い……」
プラグと言うよりも機体のためのユニットだった。
ごちゃごちゃとした機械とパイプ、そしてコードが内部を所狭しと満たしている。
そして、ゆったりとしたシートに少女が居た。
裸体の少女が機械に埋もれている。不格好なヘルメットに、両腕は筒状のブロックに、股間部と両足はマウント用の拘束具によって縛られている。
腹部と胸を覆っているのは、生命維持装置に見えた。
外せば死んでしまうかもしれないと危惧を抱く。
(早く、早く、早く)
やきもきとしながら、マナはレーダーとエントリープラグとを交互に見ていた。
戦闘宙域なのである。いつゲンドウが戻ってくるかわからないのだ。
「シンジ!」
シンジが戻ってきた、だが一人だった。
「空だったの?」
「……居たよ」
シンジはシートに着くと、ハッチを閉じた。
「シンジ?」
なにか雰囲気が固いなと首を傾げる。
「どうしたの?」
「……くそっ!」
シンジは腿の横の壁を叩いた。
「あいつ! やってることが変わってない!」
「え……」
シンジはふぅっとわざとらしい呼吸をした。
「あの中、女の子が居たよ……実験体がされるみたいに、機械で繋がれてた」
「そんな……」
「外せるのかどうかもわからなかった……あのまま運ぶしかないよ」
「でも……」
マナは爆光に目をやった。
「それじゃあ戦闘は……」
シンジは苦い顔をする。
「わかってる! でも……」
「なにを悩んでるの?」
「だって! だって……」
ここで選んだら。シンジはそう告白した。
「ここでゲンドウを選んだら、僕はゲンドウと同じになる」
「シンジ……」
「わかってるんだ! この子を助ける方が先だって……でも」
感情が納得してくれそうにない。マナはシンジの葛藤を正確に理解した。
システムを通じてだが、シンジが味わってきた物を追体験しているのだ。そうそう簡単に割り切れるようなものではないとわかる。
それでも。
「下がろうよ、シンジ」
「マナ……」
「大勢っていうんだっけ? それはもう決まってるよ……初号機のS
2
機関とATフィールドがどんなに凄くても、もうひっくり返せない」
「うん……」
「迷いながらじゃ、今のゲンドウには勝てないよ」
「そうだね……わかった」
機首を巡らせる。シンジはマナには聞こえないようにありがとうと口にした。彼女の気遣いがわかったからだ。
パートナーとして、選択を引き受けることで、後々に悔いることになったとしても、それは自分のせいであったと逃げ道を用意してあげる。そんな優しい気遣いが。
──だが。
「逃がすものか!」
「ゲンドウ!」
シンジとマナの前に──プラグを抱きかかえるジェネシス初号機の目前に、黒いエヴァンゲリオンが舞い戻った。
「今になってわかるとはな! ジェネシスの機関部とATフィールドの意味が!」
「なんの話だよ!」
「エヴァンゲリオンが持つ槍! ゼーレの老人共が言う研究の指し示す物! ATフィールドは決して科学で解明できない物ではない。それを擬似的に発生できる機関部と発振器を製造……いや、模造できるかどうかをナオコに試させ、企んだ!」
(奴らはシンジとジェネシスを量産配備するつもりだっただろうな。エヴァンゲリオンは強力ではあるが量産が利かない。あまりにも高価に過ぎる上、パイロットを選ぶ)
だがそのもくろみは崩れている。
(ふん……シンジを捨てたことが結果的に俺の計画の実行に有利に働いていたとはな、皮肉なものだ)
しかし、そのシンジがこうも邪魔をしてくれている。
「見逃しはせん!」
エヴァの右腕を突きだして、ゲンドウはそこに崩壊を導く力を集約させた。
原理や動作理由などわかりもしない。だが機能として現実にエヴァは反応を示す。
思考とイメージ。それに沿った現象を起こす。
「死ね!」
黒いエネルギー体が撃ち出される。
「ATフィールド!」
シンジは初号機を第二形態へ移行させぬままに発動させた。
「なんだと!?」
金色の障壁に弾かれる黒球。
干渉光が宇宙に瞬く。
驚くゲンドウに言い放つ。
「忘れたの!? 金星でも使ってみせたじゃないか!」
「そうだったな! ならば中和するのみだ!」
「やらせるもんか!」
反転して変形する。下半身だけをロケット状態にして加速。
エントリープラグは両腕で抱いた。
「逃げられると思うのか! ……む、なんだ?」
ゲンドウは羽ばたかせようとした翼の動きを途中で止めた。
地球から上がってくるものが見えたからだ。
(重力圏を離脱できる機体ではない。なんだ?)
青い地球にまるで染みのように四つの黒が視認できる。
重力に引かれてレッドノアだった物が四つ、五つに分解しながら落ちていく。機体はそれを正面に捉えようとしているように見えた。
「今更核やN
2
でもあるまい……なんだ?」
先頭の機体が腹に抱えていたミサイルを切り離し、撃ち出した。
成層圏からの攻撃である。きらきらと光りながらミサイルは最も早くに大気圏に突入しようとしていたブロックに衝突し……。
「なんだと!?」
巨大な火球が発生した。
いや……その寸前に、ミサイルの内部より黒い球体がふくれあがり、それがブロックを飲み込んだように見えた。
爆発とほぼ同時のようであったのだが……。
「直径一キロの物体を消滅させただと!? なにをやった!」
爆発の火はまだ消えない。煌々と燃え上がってデブリとなっている残骸たちを確認させる。
衝撃波が荒れ狂う中を、二発目、三発目が発射された。
「ATフィールド! ええい、退避だ!」
逃げ下がりながらも検索する。
「システムにデータがあるだと? MAGIからコピーした物か。不完全でよくわからん!」
だがディラックの海、虚数空間という単語は引き出せた。
「虚数空間を発生させて物質を取り込ませたのか!? その上エネルギーへの転換現象を爆発として利用している?」
一方、シンジたちはゲンドウほどの余裕もなく、焦っていた。
「シンジ!」
「わかってるけど!」
初号機に搭載されている機関部はそれほど便利にはできていない。
ATフィールドを展開すれば、その分だけ出力は落ちる。
隕石群を突破したときとは違って、今はかなりの非常時だった。
爆発が迫ってくる。ATフィールドを展開したところで、この熱量の中で耐えきれるのか?
あるいは全速力を選んだところで、逃げ切れるのか?
「どうにもならない、けど!」
一つだけわかることがあった。
「このために、地球の人たちはあの巨人を出してきてたんだ!」
シンジは地球の成層圏の付近に金色の障壁が瞬いているのを横目に見た。
この特殊なミサイルの巨大な爆発は核には匹敵せぬものの、それに準じるものであろう。この衝撃波から地球を守るために、地球の誰かがATフィールドを展開できる機体を複数投入したのだと考えられた。
そう信じられるほどに、複数の機体が共振現象によって発生させているフィールドは、強力だった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。