──ゴゥン!
 火花さえ散らない。だが剣と槍とが激突した衝撃は、確かに輪となって広がった。


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Evangelion another dimension future:19
「これが、本当のネクストなんだ」



「わぁああああ!」
「きゃああああ!」
 でたらめな破壊力に、シンジとマナは悲鳴を上げた。
 機体があちらこちらに振り回される。
(Nほどじゃないにしたって!)
 ゲンドウが手にした槍は剣に変化している。
 その刃を赤い機体が槍で受け払った。たったそれだけでなぜこれだけの衝撃が誕生するのか?
(時空震? 次元単位で破壊現象が起こってるの!?)
 ワープ航法のためにと搭載されていたセンサーが、その仮説を証明してくれている。
「なんなんだよ!? あれって!」


 赤いエヴァと黒いエヴァ。
 四つ目と二つ目の違いはあっても、その外装、兜は同じデザインのものである。
 その二機がつばぜり合いを演じている。宇宙であり、足場もないと言うのに、不思議なことに踏ん張っている。
 地球からのミサイルは虚数空間への窓を開くものだった。この窓に吸い込まれたものは向こう側にある海でエネルギーに化け、その余剰波動がこちらの世界に吹きだしてくる。
 この衝撃が窓を破壊し、閉じるためのものにもなる。
 量産機は共鳴現象によるATフィールドの相乗効果をもって防壁を完成し、その衝撃波を地表に落とさぬよう跳ね返していた。
 嵐は月からの宇宙屑も吹き散らしている。
 なのに二機は微動だにしない。
「あんたが、生きてちゃ、迷惑なのよ!」
「勝手なことを!」
「どっちが!」
「俺は、真実を求めるっ、この腐れた宇宙を飛び出してなぁ!」
 剣を力任せに横に振るい、弐号機を一度下がらせる。
「この世界の生誕の経緯など知るものではないっ、だがな! くだらぬ理由でどれだけの苦痛と苦悩にさらされたか! お前などにはわかるまい!」
 アスカはちっと舌打ちをした。
(こいつに説明しても無駄か……頭に血が上りすぎてる)
 確かにシンジは世界を作ったかもしれないが、そこに生きる者たちにまで、生き方を定めたわけではないのだ。
 どう生きるかは、自分で決めればいいこと。なのにこの男は八つ当たりの矛先を『神』に求め、刃を向けた。
(エンジェルキーパーってのも同じだろうけどね!)
 槍を両手で支え、左肩を前に構える。
 ガギエルが周囲を泳いでいる。
 ミサキはゲンドウに共感し、そんなミサキの横顔をリョウジは見つめていた。


「このぉ!」
 脇に構えたまま突進する。
 ゲンドウは左に引いてかわすと、剣の重さを利用して回転し、刃を叩きつけようとした。
 ──その腹を槍の柄が殴りつける。
 上半身をひねった弐号機が、背後の柄の部分を使ったのだ。ぐぅっとゲンドウがフィードバックにうめきを上げる。
「あんたなんかに負けるわけにはいかないのよ! このあたしはぁ!」


 ──地球。
 モノリスたちが円を作り、中心に彼女たちの戦いの様子を映し出し、鑑賞していた。
「哀れなるかな子らよ」
「人の業は超えられぬと言うのか?」
「ネクスト」
「その力は、わかりあえるという革新であろうに」
「そう……補完計画を経て、人類が手に入れた新たなる力」
 ──察しと思いやり。
 かつてそう口にした女が居た。
『彼』がそれを覚えていたのか? それについてはわからない……が、ネクストと呼称されている能力は、たったそれだけのものに過ぎないのだ。
「だが……」
「A10神経」
「人と人を結ぶそれさえも兵器利用した我らに、口にする資格があろうものか?」
「ゲンドウもやはり子であるのだろう」
「親に似てしまった、不遇な子だ」
「それだけに、その始末は親が付けねばならんものだ」
「あるいは子が(そそ)がねばならんものだ」
「今一度、出馬を願うぞ、少年」


「シンジ!」
 メインモニターにマナが操作しているらしいカーソルが移動する。
 そして一ヶ所をマークした。
「なにかこっちに来る!」
「なんだろう? さっきの巨人機だ!」
 白い巨人が寄ってくる。
 ガガ──ノイズ混じりに声が届く。
『少年』
「誰!?」
『その機体はエヴァンゲリオンという』
「エヴァンゲリオン?」
『汎用人型決戦兵器……その量産型であるが、性能は交戦中の二体に劣るものではない』
「どうしろって……」
「シンジ! 背中から筒が」
 エントリープラグが頭を出し、そして。
「あっ!」
 そのままロケット噴射を使って飛び出してしまった。
「パイロットが!」
『あれは無人だ』
「ほんとなの!?」
 シンジの疑念は、今ジェネシス初号機が腕に抱えているプラグから来るものであった。
 人を人と思っていなければ、このプラグでさえも無人だと言うことになる。
『オートパイロットシステム……我々はダミープラグと呼んでいる』
「ダミープラグ……」
『少年。君の確保したプラグをその機体に装填したまえ』
「これを?」
『規格は同じだ。ゲンドウの怨念、憎悪は拡大しよう……、それを止めるためにも、急げよ? 少年』
「ちょっと! くそ! なんなんだよ!?」
「どうするの!?」
 シンジはぴくんと反応して、顔を上げた。
「え? 誰?」
「シンジ?」
「誰かが話しかけてきてる……これを入れろって言うの? 君なの!?」
 ヘルメットのバイザーにプラグが映る。シンジはごくりと喉を鳴らした。
「わかったよ」
「あの中の人、生きてるの?」
「細かいことなんて、わかるもんか!」
 シンジは初号機を人型に変形させると、エヴァの肩に手を突く形で逆立ちとなり、そこにあるプラグ挿入口にエントリープラグを押し当てた。
「どうなの!」
 ロック機構の照明器がちかちかと瞬く。
 認証行為が終了したのか、突然にモーターが作動して、エントリープラグを飲み込み始めた。
「入った……」
「離れるよ!」
 正面に回り込む。
「どうなんだろう?」
「あ、見て、シンジ!」
 身を乗り出してモニタを指さす。
 もちろんマナの姿などヘルメットで見えないのだが、シンジも同じところに注目していた。
「色が変わってく……」
 白かった装甲が、虹色に輝いて、黒かった部分もすべて白一色に変えていく。
「ステルス装甲のようなものなのかな? でも迷彩用にしては白なんて派手だけど」
「頭も変化していくよ?」
 苦しみもがいて、量産機は口を大きく開き、顎を外した。
 そして上あごを背後へと裏返すようにして倒した。
 内部から別の顔が顎を上げる。
「ロボットの素顔?」
 その内側から現れたのは人の顔だった。
 短い髪が空気などない宇宙でなびく。
 切れ長の目が細く鋭く眼光を放つ。
 ──赤い瞳。
「ねぇ、あれって!」
 シンジはごくりと唾を飲んだ。
「……レイ」
 腰にくびれが生まれ、胸がふくらみ、そして素体を覆っていた特殊素材が肌に変わる。
 ──アァ──−────−−……。
 そして背に脳幹の延長である光でできた神経を伸ばし、翼とし……。
 それを広げて、レイとなったものは大きく開いた口腔から、不可思議な唄を歌い始めた。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。