「来るわ」
 誰にでもなく……あるいはシンジに対して声をかける。
 しかし意思の疎通は言葉よりも早く完了している。
 シンジはコンピューターよりも早く正確に、敵の移動予測先を指示し、攻撃を訴えていた。
 眼球と胴部の大きさが逆転していた。
 3号機だったモノは巨大な目となり、背後に触手、あるいは触角を泳がせている。
 そして瞳から光線を放ちつつ、さらに上に移動している。
「逃げるつもり?」
 まさかとシンジの意識が言う。
「ならなにがあるというの?」
 レイはビクンと痙攣した。
 シンジとレイ。二人の能力が過剰に働く。
 そこに見えるのは近未来だ。
 ──失った瞳を取り戻し、絶望する巨人。
 ゲンドウという歪んだ意識を通し、伝えられる客観的な世界観。
 巨人はそれを真実と視る。
 そして嘆き、悲鳴を上げる。
「そんなこと!」
 シンジは今は現実の処理が先だと同調を解いた。
 そして今やシンジを深く理解しているレイも同じタイミングで同じことを想い、同じく同調を解いて見せた。
 シンジとマナでは合わなかったタイミングである。互いに勝手な解除をしたというのに、その精神に障害は起きない。
「でもこの機体の武装であれは落とせないわ」
「わかってる」
 それぞれ勝手にスイッチをいじって、機体の確認に勤しんでみせる。
「でもやるしかないんだ」
「猪突猛進では落とされるだけよ」
 だが勝手にやっているはずのそのチェックも、項目を重複させることなく速やかに終えていく。
 二人はもはやシンクロ状態を必要としなくなっていた。


「くそっ」
 アスカはレイの喉の辺りを決戦の場所と定めて位置した。
 弐号機をそこに立たせて、槍を右手に持たせる。
「嫌な感じね」


 そして外では金星に現れた流星型艦が近づいていた。
 地球からは老人たちが確認している。
「エンジェルキーパーか……」
「奴らも乗り遅れたくはないのだろうな」
「この機会を逃せば、か?」


 ふぅっとメテオはパイプを吸って、煙を噴いた。
 カンカンカンと走る音がやってくる、それも二つ。
 ドアが開く。
「メテオ!」
 彼は軽く振り返った。
「ミサキか」
「どうしてここに……あなたの管轄じゃないでしょう?」
「そうだな」
 彼は正面いっぱいに地球周辺の映像を出した。
「リリス……」
「そうだ」
 息を飲む彼女に解説する。
「これからここでなにが起こるか……。儂らの生まれたわけがわかるかもしれんのだから」
「金星は?」
「任せてきたよ」
 ──キャハ、キャハ、キャハハ……。
 無邪気な笑い声が聞こえた気がした。


「来たわね」
 構える。
「どうなるのかなんてわからない。けど……どうせろくなことにはならないんでしょう!?」
 アスカの意志こそが、弐号機の意識である。
 だからこそ、弐号機の手には力がこもった。
「でぃやぁあああああ!」
 そして突撃。
 背部のパーツが吹き飛んで、先ほど以上の炎を噴く。
 光に近い速度を得た弐号機は、槍の力によって抵抗をかけようとする粒子の闇を切り裂いた。
 白の巨人の首がふくらみ、ちぎれ消える。それは彼女に吹き払われてしまったからだ。
 そのおかげか? 激突した爆発と、その後に斬り結ぶ二つのものは、外からでも確認することができるようになっていた。


「ゲンドウ!」
 赤い玉の中心より、3号機の上半身だけが出現していた。
 下半身はヘビの胴となって眼球と繋がっている。いびつな怪物は身をくねらせて押し迫った。
「どうしてあんたらはそうなのよ!」
 その顔面に穂先を突き入れる。あまりの速度に頭部を破壊して通過してしまった。
「司令もっ、シンジも、あんたも!」
 振り返れば血と脳漿が振りまかれている。槍を向ける。穂の間に電気が走って、次にはビームを撃ち出していた。
 ──血と脳漿に拡散される。
「ATフィールド!?」
 血肉の一つ一つが金色の壁を張ってくれていた。
「そんなものをチャフにして!」
 今までは、戦いながらでも上に向かっていたのだろう。なのにこの怪物は、今になって弐号機になんらかの憎しみを抱いたようだった。
 転進し、迫ってくる。
「あああああ!」
 考える暇がない。アスカの体は思考よりも早く、最も慣れた行動に出ていた。
 つまりは、弐号機に突撃を指示していた。
 接触する一瞬、弐号機は槍で怪物を叩き伏せようとした。だがその姿が消えて見失ってしまう。
 ──ガン!
 背後に回り込んだ怪物は、両手でもって弐号機背面の制御パーツに手をかけていた。
 目に光が瞬く。直接エントリープラグを破壊するつもりだ。アスカは離せ離せとレバーを操作したが、離れてくれなかった。
 プラグ内壁、後部にその凶悪な顔が大写しになっている。アスカは肩越しに見て小さく悲鳴を上げてしまった。
 ──死ぬ!
 爆発。だがそれは怪物化した3号機の起こしたものではなくて……。
「追いついた!」
 零号機の放った、ビームによったものであった。



続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。