「あああああっ、ゲンドォオオオオ!」
加速による震動の中で、荷重圧に負けてしまわないよう声を絞り出す。
弐号機の正面、手前で分裂した零号機は、左右に回り込んで怪物に対し、砲火を浴びせた。
「くっ!」
化け物のATフィールドを中和しつつアスカは退避する。
振り返れば零号機が執拗なまでに火を浴びせかけている。
しかしとぎれぬ爆発の火球の中に見えるその影は、踊るように揺れてはいても消えはしない。
「……効いてないわけじゃないでしょうけど」
乗り出すように体を傾け、目を細める。
火の玉の中で、巨獣はじりじりと身を焼かれていた。だが表皮が炭化しめくれ上がるたびに、新たな皮膚が再生されてしまっている。
「回復速度の方が早いなんて」
アスカは右手にある槍の感触を確かめた。
「こいつを直接打ち込むしかないわね」
ゆっくりと弐号機は槍を振りかぶった。
足を開き、投擲の体勢に入る。
──あんな奴、一発よ!
アスカは強気に自分を鼓舞した。
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Evangelion another dimension future:21
「ずっとこうしたかったんだ」
無重力空間とはいえ、右に左にと不規則に機体を振り回せば無理は来る。
ギシギシと嫌な音が耳に障る。
(まるで骨がきしんでるみたいだ!)
必死に手に力を込める。グリップを握りつぶさんとする強さで体を固定する。
──分身の原理などわかるはずもない。
だが自分はここにいて、背後には彼女が居る。
そして怪物を挟んだ反対側にも、自分と、彼女を感じるのだ。
(確かに押してるけど、でも!)
決定力に欠けている。──と。
──ズガン!
眼球化している胴部本体に、赤い槍が突き立った。
3号機を模して形作られている上部がもだえる。
「貫けなかった!?」
通信機からの声。
「あなたですか!」
「早く! 槍が突き立ってる間はATフィールドは使えないはずよ!」
「わかりました!」
一つに戻り、砲身を頭の上に倒す。
オーバードライブ。爆発覚悟で臨界点を越すエネルギーを発生させる。
「チャージマックス突破」
「いっ、けぇ!」
──白熱。
砲身が溶け、爆発する。それでも閃光はまっすぐに伸びて怪物を捕らえた。
──ギャアアアアア!
悲鳴が聞こえた。
眼球部分が泡立ち、融解し、揮発していく。
黒目が酷く濁っていく。
それでも最後の抵抗とばかりに、幾条もの裂光を放射した。
「きゃあ!」
なぎ払うような動きを見せるレーザーをATフィールドで受けて、アスカははじき飛ばされた。
「この!」
炎の翼をうまく操り、姿勢を正す。
「奴は!」
「上だ!」
同じく光線を浴びたらしい零号機が漂っている。
「ちょっとあんた! 大丈夫なの?」
左腕をもぎ取られていた。
当然、翼と、そこにあった機関部もなくしている。
「多分ね……爆発はしないと思う」
「外から見ると無茶苦茶よ?」
「……空気の漏れる音もしてるよ」
「…………」
「でも、奴を倒さないと結果は同じだ」
「そうね」
キッと見上げる。
「行きましょう」
「うん」
「あんた名前は?」
「シンジ」
(え?)
「僕の名前は、碇シンジ」
零号機は残されたスラスターを総動員して上昇を始めた。
もはや本体に力はないらしい。
作り物であるはずの擬態側が、本体であるはずの眼球を引きずり上げるようにして昇っている。
アスカはレーダーに反応を出すと、先ほど確認した頭部の位置を図面化して計算させた。
「カウントダウン……三分もないじゃない!」
現実の厳しさにほぞを噛む。
「あいつを釣るための餌でもあれば」
「餌?」
通信を繋げたままだったとアスカは思い出した。
「そうよ、あいつが思わず引き返したくなるような餌よ」
「餌か……」
「あいつはどういうやつなの?」
「ゲンドウって言うんだ」
「ゲンドウね……」
「地球の遺産、古代コンピューターMAGIに取り付かれた大馬鹿だよ」
「MAGI?」
「そうさ! あいつは……」
「……碇ユイ」
(まだ誰か乗ってるの?)
「レイ?」
(レイ?)
アスカは驚いた。
(シンジに……レイか)
同じ名前とはと感じ入る。
しかし同一人物ではないのはわかりきっていた。
もし本当のシンジであれば……レイであるのなら、この機体、エヴァンゲリオンがなにも感じないはずがないのだから。
「ゲンドウは、MAGIの中で碇ユイという女性のことを知ったわ。そこには自分にそっくりな男と仲むつまじく過ごす彼女とのフォトファイルも封じられていた」
「まさか……」
「その幻想に、夢想に取り付かれたのがあの人よ……。そして彼は知ってしまった、この世界が作り物であることを」
(そのためのレイってわけか)
アスカはキーボードウィンドウを開いて忙しく指を動かした。
「MAGIへのアクセスを要求。承認される? この距離で繋がるってのはご都合主義のたまものか」
そして餌を探す。
「あった……特S級ファイル。呆れたものね」
過去、まだネルフが存在していた時代、多くの諜報員はこのデータを手に入れるために、どれほどのことをしたのだろうか?
そのデータが……。
「奥さんとの『二人きり』で撮った写真だったなんてね」
シンジが哀れだ……そう感じる。
母親へと繋がるすべてのものを処分され、写真の一枚までも持たせてはもらえなかったあの子のことが。
(でも……たぶんそれはレイのためだったのよね。写真の一つでも残ってたら、きっと誰かがレイとの関連性を疑ったはずだから)
それがレイに対する愛情によったものか? あるいはなんらかの計画を遂行するための行動であったのか? そこまで知れたものではないのだが。
「でもこれでなんとかなる。あんた!」
「なにさ!?」
「あたしが餌になるから、あんたは」
「だめだ!」
「はぁ!?」
「こっちにはもうろくな武器がないんだ。餌になるならこっちがやる」
決意の声に、引き下がることを選択する。
「……わかったわ」
データを送る。
「利用できる?」
「……投影機生きてる。使えるよ」
「じゃあよろしく」
「わかったよ」
シンジはその時になってはじめて、彼女の顔を見てみたかったなと考えた。
この邂逅はここで終わる……そんな予感がしたからだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。