Episode:10C





「まったくあのバカ、どこ行ってんのかしら?」
 そのころミサトは立腹していた。
 マヤが沈んでいた、どうも原因がリツコにあると聞きつけて問いただしに来たのだが、理科準備室はもぬけの殻だったのだ。
 ぶぅん、何かの起動音が聞こえた。
「なに?」
 モニターの電源を入れてみる。
「MAGIが起動してる…」
 猫たちが険悪なムードで画面中央のネズミをつつきまわしていた。
「これって…」
 よくわからないミサトだった。






「挑戦状か?」
 いつものカッコにグレーのコート。
 加持は真っ昼間っからプールバーにいた。
 ブランドショップの地下にあるバーだ、カウンターで飲んでいる。
「また古臭いことを考える…」
 手の内で高密度光ディスクをもて遊んでいた。
「わざと捕まるにしても、逃げ出すまでずいぶん時間をかけたもんだな?」
「なにしろ収容所の位置を探るのが先だったからな」
 加持の隣では、加持より一回り大きい男が同じくグラスを傾けていた。
 禿頭、火傷の痕、グラスを置く、そこには空になったカレー皿があった。
「それで、わざわざ何をしに戻ってきたんだ?」
「お前だ、他に理由がいるのか?」
 タバコをくわえる、火はつけない。
「律義なことだな」
「この世界にナンバーワンは二人もいらん、俺達は決着をつける運命にあるんだ」
 バーテンが真っ赤になっていた、吹き出すのを堪えているらしい。
 すっとテーブルの上に写真を滑らせてよこす。
 幾つかの丸い穴が開いていた。
「5メートル3秒、今度はお前が倒れる番だ」
「あいかわらず古い写真を持ち歩いてるみたいだな」
 それは迷彩服に身を包んだ、ある部隊で撮った記念写真だった。
 チームの全員が整列して、明るい表情でカッコをつけている、穴が開いているのは加持の立っていた場所だった。
「こいつは俺のすべてだからな、たった一枚の写真におさまっちまう人生さ」
「恥ずかしい奴だな…」
「うるさい!」
 禿た頭を真っ赤にしている。
 加持も同じ写真を取り出した。
 それを受け取る松沢。
「2メートル0.5秒、やめとくんだな、先に倒れるのはお前だ」
 こちらにはナイフの刺さった跡があった。
「どうする、ここではじめるのか?」
 いつの間にかバーテンはいなくなっていた。
「気が進まないんだがな」
 ぐいっと二人同時にグラスを空にした。
 タンっとグラスを置く、松沢は銃を抜いて真横にいた加持に向けた、0.7秒間隔で3発撃ちこむ。
「!?」
 当てたと思った、手応えはあった、だがそこには気配しか無かった。
 下!
 加持が伸び上がるようにナイフを繰り出した、考えるよりも早く自らよろけて下がる。
 ナイフは切っ先がかすっただけだった、松沢の顎が縦に裂ける、だがかまわずに加持の膝めがけて弾丸を打ち放った。
 弾丸は加持のナイフに弾けた、折れるナイフ、松沢は転がるように後方へ回転して距離を取った。
 残り全弾ぶちまける。
「邪魔をするな!」
 店の業務用エレベーターから降りてきた人間が三人、血まみれになって倒れた、懐の銃に手をかけたままで。
「くっ!、Steersman!、勝負がまだ…」
 加持は無視して階段をかけあがった。
 その背に銃口を向ける、だが松沢は撃たなかった。
「ちっ!」
 銃をしまって死体を蹴り飛ばす。
「邪魔しやがって」
 血溜まりのできたエレベーターにのって、松沢も姿を消した。






「じゃあシンジ君、行こうか?」
「え?、行くって、どこに?」
「朝約束したろう?」
「え、今日これから?」
「ダメなのかい?」
 なんてカヲルがしょぼーんとするものだから、シンジはいつもの通り「別にかまわないよ!」っと言いかけた。
 言えなかったのはレイが邪魔したからだ。
「ちょとあんた何ズルい手つかってシンちゃん誘惑してんのよ!」
 その叫びが誤解を生んでいるのだとレイはわかっていない。
「そういえばこれはレイの専売特許だったね」
「な、なに言ってんの、やぁねぇ…」
 ぱたぱたと手を振ってごまかす。
「誘惑する時はもっと正々堂々とやるよ、ねぇシンジ君?」
 頬を朱に染めて流し目をくれる。
 クラスの女生徒の大半が、嫉妬と羨望のまなざしでシンジとカヲルを見ていた。
「レイも来るかい?」
 意外な言葉にレイは疑いのまなざしを向けた。
「あんた、何か企んでない?」
「やだなぁ、まるで僕がいつも悪企みをしているみたいじゃないか」
 その通りじゃない、とレイは冷たかった。
「アスカたちは?」
「今日はヒカリと買い物だって」
「レイは行かないの?」
「興味ないもん」
 何が?、と聞きたかったが、聞いたところで女の子の趣味なんてわかんないから良いやっと、シンジはカヲルに向き直った。
「じゃ、行こうか」
「そうだね」
 どうもカヲルの微笑みというのは何か悪いことを企んでいるようにしか見えなかった。


「邪魔しやがって!、あの男は俺が貰うと言ったろうが!」
 どこかのビルの路地裏、松沢は力任せに黒づくめの男を殴り飛ばした。
「まあ良いじゃないか、手柄が欲しいのは何もあんただけじゃない」
 ビルの裏口、その電子キーにコネクタのついたカードを差しこんで、ノートパソコンのキーを叩きながらほざいた。
 やせがたの男だ、サングラスをかけている。
 キーボードをよく見れば、それは盲人用だった。
「ほれ、開いたっと」
 ガシャン、キーが外れた。
「じゃあ行こうか?」
 10数人、みな黒い覆面を被った。
「勝手に行け、俺はここにいる」
 松沢のかってな言い草にも、男は肩をすくめるだけだった。
「好きにしてくれ、どうせ俺もここからバックアップするんだ」
 ゴーサインを出す、それぞれが刃渡り五十センチ程度のセラミックソードを抜いて、ビルに駆けこんだ。
「さあてどんなお宝が手に入ることやら」
 ビル表口、そこには「第三新東京市中央警察署」と書かれた、立派な大理石の記念碑が置かれていた。






「ねー、どこまで行くのぉ?」
 とうとう近くの駅まで来ていた。
「そんなに遠いの?」
 レイがちらちらと売店を見ている。
「レイは食べ物のない場所には興味がわかないんだよ」
 ぶうんっとカヲルの頭を足がかすめた。
「ほらほら、下着が見えるよ?」
「ざーんねんでした、ちゃんとスパッツはいてるわよ」
 と言ってスカートをまくる。
「うわぁっ、やめてよ恥ずかしい!」
 はっとするレイ。
 すでに注目を浴びまくっていた。
「は、はやく電車来ないかなぁ?」
 祈りが通じたのか、ちょうど入ってくるところだった。
「こっからでも父さんのビルって見えるね」
 父さんの働いているビルが…のつもりだったが、別に間違いでも無かった。
「G・Frontの次ぐらいに高いビルだからね」
 電車に乗りこむ、すいているわけではないが、混んでもいなかった、シンジとレイが並んで座り、その前にカヲルが立った。
 なんとなく窓の外を見るシンジ、山の中ほどに第一中学が見えた。
「もうあと一月ちょっとで卒業なんだよねぇ…」
 ぽそっと呟く。
「その前に受験があるっし」
 うーっと頭を抱えるシンジ。
「でもこの間の模試で合格ライン越えてたんでしょ?」
「でも英語が全然ダメだったんだ…」
 かなり暗い。
「そう言えばあたしもアスカもミズホもカヲルも英語使えるもんね」
「アスカちゃんはドイツ語も使えたんじゃないかな?、レイも僕も広東語や北京語だって使えるしね」
 さらに暗くなるシンジ。
「でも英語はせめて読めないとね〜、ネットに潜っててもつまんないし…」
 ピカッと背後で何かが光った。
「どしたの?」
「ううん、何か光ったみたいだったから…」
「どっかのビルの反射じゃない?」
 のんきなシンジ。
 カヲルを見る、付き合いの長いレイだからこそわかった、微笑みが能面のように冷たいものになっている。
 カヲル…
 あとでね
 シンジには聞こえないように、心の声で話す。
 カヲルの瞳が、強く赤みを増していた。






「よぉ、葛城まだいたのか」
 用務員室に戻ってきた加持は、勝手にお茶とせんべいを漁ってこたつに潜り込んでいるミサトに睨みつけられた。
「そうやってると、まるっきりおばさんだな」
 うっさいわねぇっとせんべいを投げつけられる。
「そう悲観することもないさ、欲に溺れてる方が人間としてリアルだ」
 確かに、どてらまで羽織ってお茶をすすってる姿は、はっきり欲望の権化に見えた。
「どこ行ってたのか教えてくんない?」
 だがギャグは通じなかったようだ。
「なんだよやぶからぼうに…」
 コートを放り出してこたつに入る、ミサトはそのコートを取って「くん」っと匂いを嗅いだ。
「おいおい…」
 苦笑する。
「ごまかさないで!、リツコも姿を消してるわ、それにこの硝煙の香りはなに?」
「なんだ?、余裕がないんだな」
「あの子たちに関係があるんじゃないでしょうね?」
 加持は答えない。
「不安なのよ…」
 急に勢いをおさえる。
「あの子たち、この中学を出たらもうあたし達の目が届かなくなるわ」
「そうじゃないだろう?」
 加持は真剣なまなざしを向けた。
「…ええ、そう、これまで何度も危険を退けてきたわ、勝ったという気になれないのよ、いつまでたっても終わらない戦いをしているみたいで…」
「事実そうだな、あの子たちがいる限り終わらないさ」
 ミサトは言葉をなくす。
「だからってまた逃げるのか、葛城?」
「いいえ、忘れられるわけも無いし…、第一ほら」
 袖をまくって腕を見せる、鳥肌が立っていた。
「感じるのよ、なにかを」
 こたつを出る加持。
「葛城、ちょっと付き合え」
「どこに?」
「来たくなければいいさ」
 さっさと出て行く、ミサトは諦めたように後をついて出た。







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