Episode:11C





「でもまぁ、シンジはシンジなりに、あたし達一人一人のことを考えて、約束とかしてくれてるってわけよね」
「そんなまとめ方しますかぁ?」
 ギロリとミズホを睨む。
「ほらほらアスカぁ、そんなだからお店追い出されちゃうんでしょ?」
 ヒカリは困りきった表情を浮かべっぱなしだ。
「まったくですぅ、これからってところでしたのにぃ」
 ここぞとばかりに難くせつけて追い出されたのだ。
 もうちょっとで、店のケーキを食いつくすところだった。
「あはははは、まあ、それはもう良いってことにしてさぁ」
「ちっとも良くないですぅ」
 と言う声をさらに無視して。
「これからどうしよっか?、時間、中途半端に余っちゃったしね」
「ん〜…、あ、そうだ」
 パンっと手を打つヒカリ。
「学校行かない?」
「学校?、なんでまた…」
「ん〜、加持さんいるかなぁと思って…」
 ぎんっと眼光鋭くなるアスカ。
「ヒカリ、あんたまさか…!」
「や、やだ誤解よアスカ!」
 慌てて否定する。
「あのね?、加持さんの自家栽培した野菜、分けてもらう約束してたの、でもなんだか最近見かけなかったし…」
「そうですねぇ、加持さんの作られたお野菜、ほんとに味がまろやかで…」
 アスカはちょっと暗くなる。
「そうなのよねぇ、加持さん全然用務員室にいないし、忙しいのかなぁって思ってたんだけど、学校に来てないみたいなのよね」
「そうなんですかぁ?」
「そうなのよ」
「じゃあ誰がお花畑とかの手入れをなさっておられるんでしょうかぁ?」
「そういえばそうね…」
 ヒカリは畑の様子を思い起こした、草花に野菜、スイカ、色々なものが育てられている体育館裏。
「雑草とかちゃんと刈られてたし、誰かは世話に行ってるってことよね?」
「う〜ん、誰なんだろ?」
 腕組みして考える。
「まあ、考えていたってしょうがありませんしぃ、学校に行ってみましょう!、加持さんか、代わりに面倒を見ていらっしゃる方がおられるかもしれません」
 アスカとヒカリもうなずいた。
「そうね、こんなとこぶらついてても時間もったいないだけだし」
「日曜だけど、クラブの子たちも居るはずだから大丈夫よね?、あ、制服じゃないのはまずいかなぁ?」
 お互いに自分達のカジュアルっぽい格好を見ていく。
「…大丈夫なんじゃないの?」
「私たちの学校、それほど細かくおっしゃられる先生はおられませんしぃ」
「そうね、校則には書いてないし、いっか」
 レッツゴー!っと、三人は山の方へと足を向けた。






 その頃シンジは…
「ふぅ!」
 っとシンジの耳に息を吹きかける。
「はい終わり、さ、今度は反対の耳ね?」
「う、うん…」
 リビング、ぽかぽかと穏やかな陽気が心地良い。
 レイの膝の上で反対を向く、目前にレイのお腹、ちょっとだけ見上げればレイの胸を下から見上げる形になる。
「…なに?」
「べ、別に…」
「変なの?」
 視線が合ったが、恥ずかしいのでごまかした。
 膝枕での耳掃除、レイは耳かきが見つからなかったので、綿棒で掃除していた。
「どぉ?、あなた…、気持ち良い?」
「う、うん、気持ち良いよ、レイ…」
 半分は上の空だった。
 生足が…、生足が頬にあたってぇ!
 もう壊れるところまで壊れちゃってるシンジであった。






「しっつれーしまぁっす!」
「あのー、加持さんいますかぁ?」
 ヒカリの声にひょっこりと顔を出したのは…
「やあ、君達か」
「あれ?、日向先生どうしたんですか?」
「どうもこうも…」
 なにやらトホホな感じ。
「葛城先生に呼び出されてさぁ、畑の手入れを手伝えって言うんだよなぁ…」
「あ、じゃあ面倒見てたのって、ミサト先生なんだ」
 アスカたちは顔を見あわせた。
「もうずっとらしいんだけどさ、驚いたよ、加持さんが辞めちゃってただなんて」
「え?」
 意味がわからないアスカ。
「辞めちゃったんだってさ、加持さん、ほら、私物とか無くなってるだろ?」
「ほんとだ…」
 加持愛用の湯呑みも何もかも無くなっている。
「あの、どうしてお辞めになられたんですか?」
「きっと結婚なさるんですぅ」
 がーんっと、アスカの頭に巨石が落ちた。
「結婚って…、普通辞めるのは女の子なんじゃ…」
 ヒカリの言葉も、救いにならない。
「でもでも、でしたらミサト先生はお辞めにならないんでしょうかぁ?」
「理由は知らないけど…」
 マコトが口を挟む。
「葛城先生は関係ないみたいだよ?」
 えっ、と三人は驚いた。
「私物が無くなってたから、校長に連絡して聞いてみたんだけど…」


 校舎内の公衆電話に取り付いているミサト。
 怒っているような、慌てているような複雑な顔をしてプッシュをおしている。
「あ、すみません葛城です!、今日加持の荷物が無くなってて…、ええ、アパートも引き払われてるみたいで…、ええっ!?、それってどういうことですかっ、あ、ちょっと待って!」
 切れたらしい。
 がしゃん!
 受話器を叩きつけた。
 アパートには管理会社へ確認をとっていた、一昨日、契約が切られてしまったらしい。
 壁に両手をついて唇を噛み締めている。
 まっすぐに壁を見つめて、ミサトは怒りを押さえていた。


「あの様子じゃあなぁ…」
 思い出し、日向も苦々しげに表情を歪めた。
「日向先生…、どうなされたんですかぁ?」
「えっ、あ…」
 あわてた。
「すごく恐い顔してましたけど…」
「何でもないんだよ、洞木さん」
「そうですか?、でも困ったなぁ…」
「どうしたの?」
 事情を話した。
「そっか、野菜をねぇ…」
 加持が居ないのなら好きにしてもいいのかもしれないが…
「やっぱ葛城さんに聞くのが一番良いかなぁ?」
「先生ですか?」
「うん、いま畑の方にいるから行ってみれば?」
 はーいっと、ミズホとヒカリは振り向いた。
 静かだと思っていたら、アスカは凍り付いたままになっていた
「あ、アスカ?」
 返事がない、よっぽどショックだったようだ。
「まったくもぉ、しょうがありませんねぇ」
 と引きずる。
「あ、まってよミズホ、じゃあ先生…」
「ああ…」
 軽く手を振って送り出す。
「ちえっ、葛城さん、やっぱり加持さんと付き合ってたのか…、でも…」
 葛城さんに黙って出て行ったってことは…
「でも葛城さん、辞めちゃった理由に心当たりあるらしいのに」
 何も話してくれないんだもんなぁ…
 相手にされてないのかなぁと一人ごちる。
「まあいいや、どっちにしろあんな葛城さん見てられないしな、飲みにでも誘ってみるかぁ!」
 サイフの中身を確認する日向。
 一方アスカたちは、ぼうっと水をまいているミサトに、どう声をかけたらいいのか迷っていた。
「あの…、葛城先生」
 反応がない。
「先生!」
 わっ!っと、手にしていたホースを三人に向けてしまった。
「きゃあ!」
 まだ固まっていたアスカにかかる。
「つっめたーい、なにすんのよもう!」
「あ、ご、ごめぇん」
 相手が先生で、生徒だということをお互い忘れていた。
「ごめんねぇ、ちょっち考え事してたのよ…」
 首からかけていたタオルを渡す。
「もぉ、ああんっ、なによこれ、泥だらけじゃない!」
 あ…、とバツの悪い顔をするミサト。
「これは相当重傷ですねぇ」
 畑を見る。
「水浸し…」
 ヒカリも、これはもう野菜はダメになっていると判断した。
「先生…、これもうどうにもならないんじゃ…」
 うっと汗を浮かべる。
「いやその、あはははは…、あたしじゃ面倒見るの無理かなぁって思って日向君呼んどいたんだけど、逃げられちゃってさ」
 用務員室にいた、と告げると「あんにゃろう」と、こっそり吐き捨てた。
「で、あんた達は?」
 野菜の話をしたかったが、見るも無惨な状況に、ヒカリは切り出せなくなってしまっていた。
「加持さん、加持さんのこと聞きたいの!」
 代わりにアスカが焦る。
「加持さん、どうして急に辞めちゃったのか知らない?」
「急じゃないわ…」
 ミサトの表情に影が落ちる。
「ずっと前から辞表は出されていたらしいの、昨日受理されたって…」
「そ、そんなぁ…、加持さんそんな話してくれなかったのにぃ」
 ちょっとだけ寂しくなる。
 生徒と用務員とはいえ、温泉だのなんだのと、一緒に旅行するほど仲は良かったのだ。
 なのに、何も言わないで行っちゃうなんて…
 そこまで考えてから、もうひとつの可能性に気がついた。
「あの…、あたしたち…のことには関係無いんですよね?」
 一部濁す、ヒカリがいるのだ、はっきりと口にできない。
 ミサトもどう言えばいいのか困ったような表情を浮かべた。
「わかんないのよ、ホントに、どこで何やってるんだか何もね、あのバァカ…」
 死んでるとはおもわないけどね…
 過去、幾度も死線をくぐりぬけてきた、それを思い起こす。
 あの程度の戦いで死ぬわけないわ。
 自分に言い聞かせる。
「まあ、その気があるんなら向こうから連絡とって来るんじゃないの?」
 その慰めも自分に向けたものだった。
「それよりさぁ、ちょっち頼みたいことがあるんだけど…」
「なんですかぁ?」
 ぱんっと手を打って頭を下げる。
「これ!、この状況ほっとくとヤバいしさ、手伝ってくんない?」
 ミサトは労働力を手に入れた。






「強引だな、碇のやり方は…」
 用務員室にあった直通回線は、加持が行方不明になった翌日に取り除かれていた。
 私物を運び出したのはニセの契約書によって動いたゼーレ引っ越しセンターだ、契約書を作ったのはもちろんゲンドウ。
「かなり怒っていたようだし」
 ミサトは校長にかけたと嘘をついていた、電話は冬月の携帯にかけていたのだ、もう少し分別を無くしていたのなら、きっとゲンドウにかけていたことだろう。
「彼女にはすまないことをしていると思うよ」
 いつものファイティングポーズでゲンドウは言ったものだ。
「本当にすまないと思っているのなら、誠意は見せるべきだな」
 誰もいない会議室で、冬月は一人言葉をつむいでいた。







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