Episode:12A





「博士、カスミです」
 事務的な声を作ってインターホンに語りかける。
 少々明るめの茶色、ショートの髪をムースで固めて、ボブ風にセットしていた。
 ミディアムヴァイオレットのスーツ、タイトスカートからのびる足はけっして太くは無い。
 整った顔立ち、だがまだ大人にはなりきれていない瞳、小さめのだて眼鏡はそれを埋めるためのものだろうか?
「でもサヨコよりも胸が引き締まってて、おしりは大きいんだよね」
 ゴンッとツバサは殴られた。
「いったー、何すんだよカスミぃ…」
「うるさいの!、どうしてついてきたのよ」
「だって甲斐さんが行けって言うんだもん」
 くっとカスミは苦い顔をした。
 スチールのドアへと向き直る、ツバサはその背へ、ペロっと舌を出した。
「博士、いらっしゃいますか?」
「ちょうしもりろんと私と言う命題で四文字の熟語を作りなさい」
 一瞬白くなるカスミ。
「焼肉定食!」
「よーっし、はいれ!」
 ツバサの返事を待って、プシュッと電子ロックの扉は開いた。
「あれ?、博士?」
 何かの機械だったものらしい、ジャンクパーツで溢れた室内。
「失礼します、成原博士?」
「うおおおおおおん!、おじょうちゃぁん!」
 ふいをついて真横から飛び付く白衣の男。
「きゃああああああああああ!」
「じょうちゃん、じょうちゃん、おじょうちゃあああああん!」
 胸元に抱きついて顔をぐりんぐりんやってる。
「わしの、わしのメグミちゃんを知らんかぁ!?」
「知りませんから離れてください!」
 がっしゃあんっと、とうとう機械の山の中へ押し倒される。
「うっわー…」
 ドキドキ顔のツバサ。
「ちょっと博士ぇ!」
「ないっ、ないっ、ないんじゃー!、先週特許申請したばっかりのメグミちゃんが〜!」
 ゲシッと、とうとう蹴り飛ばされた。
「はぁはぁはぁ…、あ、あの…、博士?」
 足だけが機械の山から逆さに覗いていた、ぴくりとも動かない。
「あーあ、死んでたら甲斐さんに怒られるね、きっと」
 サーっと青くなるカスミ。
「ちょ、ちょっと博士?」
 つんっとつつく、ぐらっと傾いて、倒れていった。
「あ、折れた」
「きゃあーーーーーーーーーーー!」
「ふははははははははははは!」
 ガシャガシャガシャガシャガシャーン!
 カスミの背後でジャンクパーツが吹きあがった、その中から成原博士が現れる。
「ひーかかった、引っかかった!、おんやどうしたのかね?」
 腰を抜かしているカスミ。
「慣れなきゃ」
 無理だろう。
「それはともかくとして、拳で語り合った者同士しか知らんはずの合言葉を知っている、お前は誰だ!」
「いや、答えたのはあたしじゃなくて…」
「いやみなまで言うな!」
 んーーーっと、額を人差し指でおさえる。
「んーーーー」
 んーーーっと、そのまま動かない。
「…カスミです」
「おおっ、わかっとるわかっとる、冗談じゃよじょーだん!、確か天道さん家の…」
「違います!」
「でわ、むかし唐沢なおきの不条理忍者マンガに出ておった」
「そっちの方が近いような気がするね…、ひてててて!」
 つねられた。
「甲斐さんの使いで来たカスミです!」
「ええいそんなことはどうでもええわい!」
 ちっともよくない。
「めぐーみちゃーん!」
 おんおんと泣きはじめる。
「まったく…、で、メグミちゃんって、なんのことなんですか?」
「ひょっとして、甲斐さんの言ってた黒い箱型コンピューターのことじゃないの?」
「なにぃーーーーーーー!」
 ツバサの襟元を引っつかむ。
「わしの、わしの、わしのメグーミちゃーんの行方をしっとるのかぁ!」
 がくがくとゆする。
「やっぱり…、先日第三新東京市で起こったハッキング騒ぎ、博士の作品が関ってたんですね」
「なに!?」
 振り返る、ぐったりとしているツバサを放り出して。
「ハッキングぅ!?、そんな下らん事に使ったのか!」
「先日から助手だった方を見かけませんけど?」
 少々癖のある髪をした中年女性だったはずだ。
「おおっ、なんでも里帰りするからと言って…、ああっ!、そう言えば何かお土産に一つ持って帰ってもいいかと聞くもんじゃから…」
 はぁ…っとカスミはため息をついた。
「くぅっ、成原ナリユキ一生の不覚!、だぁがワシにはまだこのキヨミちゃんが!」
「その鍋つかみが、何ですか?」
 ん?っと首を傾げる。
「知らんのか?、これはあっつーい鍋を触っても、だーじょぉぶーな…」
「じゃなくって!」
「あうーーーん!、キヨーミちゃーん!、いったい、一体どこへ?」
 振り出しに戻った。
「…帰るわよ?」
 ツバサからの返事は無い。
 息を吹き返していないようなので、カスミは首根っこをつかんで引きずっていくことにした。
「おおっ、カスミ君!」
「なんですか?」
「このフッ素加工を凌ぐ、いくら火にかけても熱くならないミラーコーティング鍋はいらんかね?」
 ぐぐぐぐぐっと、拳を震わせる。
「どうしてこんな人が甲斐さんとお友達なのかしら?」
「何だかわかるような気もするけどね」
 今度はカスミに張り倒された。




第拾弐話「しあわせのかたち」前編

「氷点下への旅立ち」





「ふわあ〜あ、よく寝たぁ」
「じゃありませんよぉ、シンジ様ぁ」
 三時間目の授業が終わったところだ、シンジは一時間目から爆睡していた。
「まあ受験に関係無い範囲だし、先生たちも怒らないけど…」
 私立の受験は終わっている、今は自由登校に入っていた、クラスの半分の人間が来ていない。
「シンジ?、そんなに夜遅いの?」
 ん〜っと机の上でごろごろしている、まだ眠いようだ。
「でも今日は、私たちよりも先に起きてませんでしたかぁ?」
 おかげでアスカは不満足。
「ん〜、起きてたんじゃなくて、徹夜だったから…」
「目の下にクマができてますしぃ、だめですぅ、ちゃんと眠っててくださらないと、「おはようのキス」ができませんしぃ」
 させてたまるかっつーのっと、アスカは睨んだ。
「じゃあ、シンちゃんあれから寝てないんだ?」
 寄ってくるなり、シンジを覗きこむレイ。
「うん、寝ちゃうともう起きられなくなりそうだったから…」
 二人だけの会話。
「だめよー、もう、あれだけ頑張ったのに…、腰が痛いって言ってたじゃない」
「レイだって悪いんだろう?、もう寝させてって言ってるのに、もうちょっと、もうちょっとって、ずっと寝かせてくれなかったし…」
 ざわっ…
 クラスがざわめいた。
「ちょ、ちょっとあんたたち…」
「いったい何なさってたんですか…」
 青くなってる二人。
「何って…」
「英語の勉強だけど?」
 お約束。
「シンジぃ、お前いまさらそれですむわけないだろぉ?」
 ケンスケが肩を叩いた。
「いまさらって、何が?」
 くいっと親指で後ろを指す。
 覗き見ると、「一体中学生の平均って!」っと、クラス中が苦悩していた。
「で、お前はどうなんだよ?」
 うりうりっとつつく。
「なにって…、何が?」
「ナニに決まってるじゃないか」
「なに馬鹿な事いってんのよ!」
 ケンスケを張り倒す。
「そうですぅ、シンジ様は相田さんのように不潔なことはなさいませぇん!」
 二人とも顔が真っ赤だ。
「それよりシンジ!、あんた忘れてないでしょうね?」
「忘れる…、って?」
 何故か怒りが頂点に達するアスカ。
「あんた…」
「ちょっとええかぁ?」
 トウジが割りこんだ。
「シンジぃ、悪いんやけどなぁ、ちょっと顔貸してくれや」
 顎でついてこいと示す。
「え?、ど、どこ行くのさ?」
「ちょっと鈴原…、あんたシンジをどうるつもりよ?」
 トウジはアスカに負けないような眼光で睨みかえした。
「悪いな惣流、男同士の話しやさかい、邪魔せんといてんか?」
 有無を言わせぬ迫力、なにやら怒っているようだ。
「い、行くよ、アスカも、大丈夫だからさ…」
 じゃねっと二人で教室を出ていく。
「シンジ…」
「シンちゃん、大丈夫かなぁ?」
「いつもなら洞木さんが止めてくださいますのにねぇ?」
 そういえば…、とヒカリを見る。
 なにやらぼーっと本のページをめくっていた、料理雑誌だろうか?、しかし読んでいるのかどうかは妖しい。
「ヒカリぃ」
 アスカは心配になって声をかけた。


 屋上、次の授業まであと7分だ、さすがに人影は無い。
 トウジは柵に手をつくと、遠くの山に目を向けた。
「それでなに?、話って…」
 トウジ、何だか怒ってるみたいだ…
 肩がふるえている、柵についている手にも、血管が浮き出ていた。
「シンジ…」
「あ、あ、あ、そう言えばトウジ、洞木さんと毎日勉強してるんだって?、アスカが図書室で見かけたって言ってたよ…」
「そんなんどうでもええ!」
 振り向く、その勢いにシンジは殴られる!、っとかたくなった。
 だがパンチはこなかった。
「頼む!、女の子のプレゼントって、何こうたらええんか教えてくれやぁ〜」
 半泣きですがりつかれた。
「は……なんだ…」
 肩から力が抜ける。
「プレゼントって?」
「ぼけんのかいなぁ、もうちょっとでホワイトデーやろが…」
「なんか似合わないね」
「なんやとぉ!?」
「あ、いや別に…」
 つい口にしてしまった。
「まあええわい、わしかてわかっとるけどな、ちょっと前にヒカリの機嫌損ねてしもてなぁ…」


「ええーっ!、ヒカリの誕生日になにもしてくれなかったの?、あいつぅ!」
 2月18日は洞木ヒカリの誕生日であった。
「今年は鈴原君と二人っきりにしてあげようって、アスカ言ってたのにね」
「そうだったの?」
「ち、ちがうわよ!、あれはホントに用事が!」
 顔が赤くなってる。
「うん、ありがと…、でもあたしも悪いの、鈴原に誕生日って教えてなかったし…」
「そんなの調べててあったりまえじゃない!」
「誕生日だって、言えばよかったのに」
 とレイ。
「だって、そんなの何か期待してるみたいで…」
「え?、だって期待してたんでしょ?」
「そうだけど…」
 レイとは感覚が違うらしい。
「でも、いまは知ってらっしゃるんですかぁ?」
「ああ、俺が教えといたよ」
 ケンスケも寄ってくる。
「へぇ?、気が利くじゃない」
「あいつが鈍すぎるんだよ…、過ぎてから「どうだったんだ?」って聞いたら「なにが?」だもんな、まったくあきれちゃうよ」
 肩をすくめる。
「じゃあ、さっきシンちゃんを連れてったのは関係あるのかなぁ?」
「え?、碇君を?」
 見てなかったらしい。
「ははぁん…、それはきっとあれだな」
「なによあれって?」
 うさん臭げに見る。
「もう少しでホワイトデーだろ?、きっとわびも兼ねて何かプレゼントする気なんだよ」
「ほんとにぃ?」
 疑わしげな目をするアスカ。
「だてに長い間親友やってないって、あいつの行動パターンぐらいお見通しさ」
「よかったじゃない、ヒカリ!」
 両手をとって、ぶんぶんと上下にふる。
「う、うん、ありがと…」
「じゃあ、さっき怒ってたのって…」
「きっと照れ隠しだったんじゃありませんかぁ?」
 図星だった。
「でもまあ、これなら安心できるかなぁ?」
「安心って?」
「だって、ホワイトデーの相談でしょ?、だったらシンちゃんだって、何か用意しようって考えてくれるんじゃないの?」
「そうだと良いんだけどねぇ…」
 アスカは腕を組んで首を傾げた。
「去年、結局何もくれなかったもん、それまでだってお返しなんてしてくれた事無かったし、まあ今年はちゃんと催促しといたんだけど…、さっき忘れてたみたいだったの、あの様子じゃあねぇ…」
「「それまで」だって…、去年は「義理で既製品を上げたぐらいよ」なんて言ってたくせに」
 ニヤニヤとレイ。
「う、うっさいわねぇ!、いいでしょ別に!、今年はちゃんとあげたんだから…」
「シンジ様、お返ししてくださるといいですねぇ…」
 三人は「うーん」っと、それぞれどんなお返しが欲しいのか妄想モードに突入した…







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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