Episode:12D





 ホワイトデー当日。
「さーってと、今日はどうやって起こそうっかなぁ?」
「あらアスカちゃん、なにしてるの?」
 スリッパを物色しているアスカ。
「あ、あらおば様」
 ほほほほほっと、背後に一番尖ったスリッパを隠す。
「あらまた電気あんま?」
 だがユイはお見通しだ。
「でも残念ねぇ?、シンジ、もう出ちゃったわよ?」
「えーーーっ!?」
 せっかくミズホを出し抜いてきたのにっと残念がる。
「でも、…まだ六時半なのに」
「なんだかアスカちゃんが起こしに来る前に行きたかったみたいね」
「えーーーーーーっ!、どうしてぇ!?」
「もしかして、今日のことに関係があるんじゃないの?」
「え?」
「ほーっら、今日はホワイトデーじゃない?、家だとレイちゃんとかみんないるから、一人一人に渡せないでしょ?」
 あ、そっか!っと手を叩く。
「シンジったらもう!、恥ずかしがりやなんだから」
 何故かもじもじとする。
「じゃあ、代わりにレイちゃんを起こしてくれない?、まだちょっと早いけどね」
「はーい」
 ぱたぱたとスリッパの音を鳴らせて、アスカはレイの部屋へと向かった。
「良いわねぇ、若いって」
 キッチンに戻ろうとする、だがすぐにまたドアが開いた。
「おはようございますぅ〜」
「あらおはよう」
 ミズホの髪にはまだ寝癖がついていた。
「あらあら…」
「あの、アスカさんは…」
 いないことに気がついたらしい。
「ほんとに、今日は朝から大変ね」
 ユイは微笑ましげに苦笑した。






「あ、葛城さん!」
「日向君、昨日ごめんねぇ〜」
 いつものとおり遅刻寸前で出勤してきたミサト。
「いい加減慣れましたよ」
「それでさぁ、おわびと言っちゃなんだけど、これ、いらない?」
 何かのチケットをちらつかせる。
「なんですか?、これ」
「ほら、九州から北海道まで突っ走るレプリカ列車、知ってるでしょ?」
「ああ、あのぶちぬき鉄道ですか?」
 ジャイアントシェイクでずたずたになった交通機関、それを復旧するにあたってさるコンツェルンが多大な協力を申し出ていた。
 そのコンツェルンが主事業である鉄道をメインにすえて、新たに遷都された第三新東京市のために一大イベントを打ち出したのだ。
「確か大昔の蒸気機関車のレプリカを作って、それで日本全土を横断しようって企画だったかな?」
「そうそう、近所のおばさんに貰っちゃってさぁ、2枚、でも他に行く相手もいないし、あげるわ」
「えっ、それって?」
 デート?
「誰かと行ってくれば?」
 ルルーっと涙を流すマコト。
「なに?、最近仲が良いのね」
 席につこうとしたミサトに、リツコが声をかけた。
「ん〜、まあちょっちね」
 適当にごまかす。
「昔っから変わってないのね、はしゃげない気分を切り替えようとして、無理に自分を元気づけてる」
 ミサトは苦笑して返した。
「あんたも変わんないわねぇ、そうやってすぐ人を分析したがるところ」
「そう?」
 頬杖をついて、日向を見た。
 天井を見上げたまま、まだ泣いている。
「なんだよ、最近うまくやってるじゃないか」
 青葉が肘でつっつく。
「そう見えるだけだよ…」
 今度は机に突っ伏した。
「あ〜あ…、こんなもの貰ったってなぁ」
「じゃあ、俺が貰ってやろうか?」
 んでもってマヤちゃんを誘うっと…
 かすめとろうとしたが、そうはさせなかった。
「うんにゃ、葛城さんを誘ってみるよ!」
 席を立って、ミサトへと向かう。
「なんだろうな、あいつ…、ねぇ?」
「別におかしくは無いですよ」
 マヤはニコっと笑って見せた。
「でも…」
「でも?」
「春なんですね〜」
 マヤは校庭を眺めた、桜が咲くにはまだ早かったが、陽射しは間違いなく春の兆しを見せていた。






「あのバカ、ほんとにホントに何かくれるのかなぁ?」
「ですねぇ…」
 登校後、二人ともいの一番に机の中を確認していた。
「ない…」
 がっくりと肩を落とす。
「何やってんのよあのバカは」
 見るとシンジは眠りこけていた。
「ちょっとシ…」
 くいっと袖を引っ張るレイ。
「寝かせといてあげようよ…」
「でもねぇ…」
「昨夜も遅かったの、だから、ね?」
「なによ訳知り顔で…、ね?って言われても納得できないわよ」
「…うん」
「でもほんと、レイさんが羨ましいですぅ」
「どうして?」
「だってレイさんは頑張ってらっしゃるシンジ様を見守っていらっしゃいますけどぉ、私たちはああして疲れてらっしゃるシンジ様しか見ていませんもの…」
 心配げにシンジに近寄り、そしてそっと背中に抱きつく。
「だからせめて今だけは眠らせてあげたいですぅ、私の手の中で」
 ごんっ!
「いったーいですぅ!」
「何が私の手の中で!、よ、ミズホのくせに!」
「ピースケのお玉ちゃんみたい」
「なんですかそれはぁ?」
「ええいっ、そんな事はどうでもいいのよっ、鈴原はいないの!?」
「鈴原君なら、ヒカリちゃんと屋上へ行ったよ?」
「う〜〜〜、あいつならどうなってるのか知ってると思ったのにぃ…」
 さすがに親友の邪魔はしたくないらしい。
「あっちはうまくやってんでしょうねぇ…」
 いいなぁ…っと、三人は同時にため息をついた。


「す、鈴原…、用事ってなに?」
 予想がついているだけによそよそしい。
「ん、ああ、大した用やないんやけど…」
 背中に隠しているつもりでも、大きな紙袋がはみ出して見えていた。
「こ、これや…」
 突きつけるように押しつける。
「え?、鈴原…、これ」
「ば、バレンタインのお返しや!、そんな深い意味ないでっ、いつも弁当作ってもろとるし…、誕生日祝ってやれへんかったんもあるけど…」
「ううん、いいから…」
 とさっと、トウジへ体を投げかける。
「うれしい…」
「す、すまん、そない大したもんやあらへんのやけど」
「いいの…」
 顔をふせたまんまで、ヒカリは礼を言った。
「ありがとう鈴原…」
 こんなんやったら、もっとちゃんと自分で選ぶんやった!
 ヒカリを抱きしめながら、トウジはちょっとばかり後悔した。
 そんな二人の熱いツーショットが校内ネットに流れたのは、わずか数分後のことだった。






「どこやぁ!、ケンスケー!!」
 怒りを振りまいているトウジ。
「ねえねえ、それで何貰ったの?」
「なによ恥ずかしがらなくっても良いじゃない」
「そうそう、結構現場見てた人だっているんだしぃ」
 ヒカリはクラス中の女子から質問攻めにされていた。
「惣流!、ケンスケ見んかったか!?」
「知らないわよ、んなやつ」
 ぶすっくれている。
「なんや、あいつ…」
 そっとレイに尋ねる。
「シンちゃんがいなくなっちゃったから…、ね」
 昼休み、シンジはパンを買いに行ったまま帰ってこなかった。
「なんや、あいつサボリか?」
「まあね…」
 ヒカリを見るレイ。
「シンジ、まだ渡しとらんのか?」
「え?」
 振り返る、しまったと、トウジは口を押さえていた。
「ちゃー、黙っとけ言われとったんやけど…」
「あ、じゃあ、聞かなかったことにしとこうか?」
「まあ、ええんとちゃうか?、どうせ今日中にはわかることやし」
「うん…、あれ?、ミズホどうしたの?」
「あ、はい…」
 なにかキョロキョロと誰かを探している。
「誰か…、いつもならもうひとかたいらっしゃって、なにかこう…」
 物足りないらしい。
「そだっけ?」
 あたし、アスカ、ミズホ、ヒカリちゃん、シンちゃんに鈴原君に相田君…
「みんないるじゃない」
「そうですよねぇ?」
 ヤッパリ誰か足りないような気がしていた。


「シンジぃ、見つかったかぁ?」
「ダメ…、ケンスケが言うようなの買えないよぉ…」
 その頃シンジとケンスケは街外れを歩いていた。
「んー、こっちの方なら掘り出し物があると思ったんだけどなぁ」
 ケンスケは逃げるついでにシンジを連れ出してきていたのだ。
「まったく、当日になって探してる奴なんて他にいないんじゃないのか?」
「しょうがないだろう?、ホントに時間取れなかったんだもん…」
 そういいながらも、ウィンドウを覗く事はやめない。
「シンジも大変だよなぁ、受験金曜なのにさ、こんな事してる場合じゃないんだろ?」
「ケンスケこそ良いの?」
「俺はね、落ちても専門学校だってあるし、何とでもなるさ」
 気楽な調子で答える。
「シンジこそ、そんなに余裕無かったっけ?」
 ちょっと言いにくそうにする。
「…ほら、みんなあの調子だからさ、家じゃ勉強どころじゃなくなっちゃうし」
「そっか…、あ〜あ、デキる奴には俺達の苦労なんてわかんないんだよなぁ」
「そうだね」
 くすっと笑いながら答える。
「でもまあ、ホント色男の悩みだよな、羨ましいよ」
「そっかな、色男って言われるとちょっと抵抗あるけど…」
「そうだな、シンジはそんなタイプじゃないもんな」
「じゃあどんなタイプなんだよ?」
「おもちゃにされやすいとか」
 図星。
「さ、続きだ続き」
「やっぱり三人違うものにした方が良いのかなぁ?」
「そりゃ当然だよ」
「何がいいと思う?」
「俺に聞くなよなぁ〜、人の意見で買ったものなんて、喜ばれるもんじゃないぜ?」
「そうなの?」
 ああっと、自信ありげにうなずく。
「悩めば悩んだ分だけ気持ちがこもるってもんだよ、お手軽に済ませようなんて甘いって」
 でもそんなにお金ないしなぁ…
 シンジはかなり現実的な問題に頭を悩ませていた。







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