Episode:12K





「今頃、あの子たち試験会場で四苦八苦してるはずなのよねぇ…」
 ぽつりと漏らすミサト。
「まだ言ってるんですか?、僕達にできるのは試験が始まるまでの手助けだけですよ、あとは気持ちで応援するだけです」
 ミサトのマンション近くの喫茶店。
 二人はそれぞれにトーストをかじっていた。
「そんなになんでもかんでも我慢する事はありませんよ」
「我慢してるわけじゃないのよ、日向君の言う通り、あたしが受験するわけじゃないけど、せめて気持ちだけは一緒にいたいの…、あたしは応援する側だから、応援にも全力を注いであげたいの」
「ミサトさん…」
 感激する日向、だがミサトは心の中で付け足していた。
 特に、最近はあいつのことでボーっとしちゃってたしね。
 ミサトは通りすがる親子連れを、窓ガラス越しに眺めた。
「きっと式典を見に行くのね」
「ああ、かなり盛大にやるらしいですからね」
 どういうつもりで、あのチケットを送り付けてきたのかしら?
 チケットを近所のおばさんに貰ったなんて、それは嘘だった。
 送ってきたのは冬月だ、碇の名ではなかったのは、せめて中身の確認をさせたかったのだろう。
 捨てるのももったいないと思ってあげたんだけど…
 結局こうして誘われたのを口実に乗り込もうとしてる。
 やだ、あたし何か期待してるのかしら、あいつのこと…
 ミサトはため息をついた。
「悪いわね、日向君…」
「え?、ああ、良いですよ」
 日向はレシートを持って立ちあがった、払いを頼む、そう言ったのだと思ったらしい。
「あまりシンジ君のことは言えないわね…」
 だがみんなが思っているほど、シンジは簡単に逃げ出すタイプの子供でも無かった。






「で、シンジ君はいつ帰るの?」
 ミヤはシンジに尋ねてみた。
「うん…っと、たぶんコダマさんと一緒にだから、明日には…」
「そっかー、そうだ、ねえ高校は?」
 え?っとシンジ。
「高校、受験もうすんだんでしょ?」
 ……!
「あーーーー!」
 驚き振り返る人たち。
「ど、どうしたの、急に…」
「わ、忘れてた…」
 唖然とするミヤ。
「忘れてたって…、いつなの?、入試…」
「今日…」
 だめだこりゃ…っと、ミヤは頭痛を覚えた。
「それ…、もう手遅れじゃない」
「う…、うん、どうしよう?」
「どうしようって…」
 時計を見る、4時だ、話していた大きなテレビには、静岡を通り過ぎる蒸気機関車のレプリカが映し出されていた。
「いくら思い出したくなかったからって、そんな事まで忘れてたの?」
「うう…、みんな怒ってるだろうなぁ…」
「そりゃそうだと思うけど…、とりあえず電話してみたら?」
 躊躇する。
「し辛いのはわかるけど、どうせもうすぐ帰らなきゃならないんだし」
「う、うん、そうだね…」
 シンジは意を決して公衆電話へと向かった。






「どう、できた?」
「できたような、できなかったような…」
「私はできましたぁ」
 ニコニコとミズホ。
「さあ、早く帰ってシンジ様を迎えに行きましょう!」
 車の中、一人はしゃいでいる。
「おじさま、列車が出るのって何時なんですか?」
「六時だ、セレモニーや祝賀式で時間を食うからな」
 車はゲンドウが運転していた。
「時間はある、向こうでは渚君が出迎えてくれるはずだ」
「ううう、カヲルぅ…」
 レイが低く唸っている。
「さ、ついたぞ、私は社に戻らねばならん、駅まではタクシーを使いなさい」
 といってチケットを渡す。
「じゃ、急ぐわよ」
「うん!」
「はいですぅ!」
 三人は車を飛び出すと、一直線にエレベーターへ走っていった。
「お母さまただいまー!」
 勢いよく上がり込む、おじゃましまーすっと続く二人。
「あ、ちょっと待って、みんな帰ってきたみたい」
 ユイが手招きしている。
「みんな、シンジよ?」
 ダッシュ、受話器を奪い取ったのはアスカだ。
「バカシンジー!」
「アスカ…」
 シンジの引いているような声。
「こらちょっと、なによまた逃げる気!?」
「に、逃げないけど、もうちょっと静かにしてよ、耳が痛いから…」
「悪かったわね声が大きくて、あたしはそんなにおしとやかじゃないのよ、がさつで意地悪で狂暴で…」
「何だよそんなこと今更…」
「いまさらですってぇ!?」
「ちょ、ちょっとアスカ?」
「あんたねぇ、あたしのことが嫌いになったからって…、青森まで逃げる事…、無いじゃない…」
「へ?」
 と間抜けな声。
「嫌いになったって、誰が?」
「誰がって…、あんたあたしと顔あわせたくないから、コダマさんについて行ったんじゃないの!?」
「あ、うん実は無理矢理コダマさんに荷物持ちさせられちゃってさぁ」
「無理矢理って…」
「こんな所まで来るつもりなかったのに、色々あって、すっかり入試のこと忘れてて…」
「忘れててって…」
 拳がふるふると震えている。
「あんたバカぁ!?、どうするつもりなのよいったい!」
「あはははは、どうしようか?、ほんとうに」
 ダメじゃない、ほらもっとしっかり答えないと。
 女の子の声。
「ちょ、ちょっとまってよねぇ、その女の子、誰?」
 えっ!?っとレイとミズホが受話器を奪おうとした。
「え?、あ、こっちでできた友達だよ」
 逃げ回るアスカ。
「と、友達ってあんた、酷い!、あたしのこと捨てといて余所に女作ってるなんて!」
 ぐぬーっと組み付いてくるレイの顔を蹴る。
「何言ってんだよ!、そんなんじゃないってば」
 えー、違うのぉ?っと甘ったるい声。
「あ、あ、あ、あんた人バカにするのも対外に…」
「違うって言ってるだろ〜って、ちょっとやめてよ、何すんだよ…」
 えー、だって暇なんだもぉん、かまってよぉ。
「何いちゃいちゃやってんのよー!」
 首に噛り付いているミズホを振り回した。
「とにかく!、今からそっち行くから!」
「え?、来るって!?」
「そうよっ、迎えに行ってシメてあげるから大人しく待ってなさいっ、いいわねっ!」
「ちょっと待ってよアスカ!」
 逃げたら酷いんだから!っと電話を叩ききった。
「あ…」
 振り返ると、むーっと怒っている二人がいた。
「アスカぁ…」
「アスカさぁん…」
「あは…、ごめん、つい勢いで」
「勢いでじゃないでしょー?」
「酷いです、アスカさんだけ話すなんてぇ!」
「でもほら、シンジったら浮気してたわけで…」
「わかんないでしょー、そんなのぉ」
「そうですぅ、今回だって、アスカさんが勘違いした上に勝手に怒り出したのが原因だったんですからぁ!」
 ううっとたじろぐ。
「ほらほら、ケンカは後になさい?」
 ぱんぱんっと、手を叩いてユイが仲裁に入った。
「急がないと、迎えに行けなくなっちゃうわよ?」
「あ、それは困る!」
「早くシンジ様の着替えをまとめませんとぉ!」
「そ、そうそう、急がなきゃ、ね?、…そんな目で見ないでってばぁ、冷凍みかん買ってあげるからぁ」
 その一言で、この場はなんとかおさまった。


「…切られちゃった」
 くすくすと笑ってるミヤ。
「笑い事じゃないよぉ!」
「ごっめーん、でも聞いてたら深刻になりそうだったしぃ」
「一歩間違ってたらまたこじれる所だったじゃないか…、でもなんだかちょっと拍子抜けしちゃったのも、ホントかなぁ?」
 ミヤは「はい、御褒美」っと、キャンディーを渡した。
「怒られると思ってたんでしょ?」
「うん…、心配してくれてたみたい…、どしたの?」
 ミヤが険しい顔をして人ごみを見ていた。
「やば…、シンジ君、行こう」
「あ、ちょっとなに?」
 ミヤは答えないで、シンジをぐんぐんと引っ張った。
 それで余計に目立ってしまった。
「あれは…?」
 二人を見つけたのはカスミだった。






「さて…、あたしも出かけてくるわ」
 台所で食器を片付けていたサヨコに声をかける。
「あらコダマさんもですか?」
「ええ、これが最後の下見になるから」
 帽子のツバをはね上げる。
「写真、お好きなんですね?」
「これだけが、あたしに残してくれたものだから…」
 ちょっとブルー。
「あ、ごめんなさい、何か聞いちゃいけないことだったみたいね…」
「いいのよ、ちょっと小学四年生のときに引っ越していった子のことを思い出しただけ」
 謎である。
「あなたは出かけないの?」
「今日は仕事も無いから、それにお客様が来るの」
 コダマは何気なく、サヨコの後ろ姿を写真に納めた。
「姉妹でも家族でも無いのに、母親のように振る舞うのね?」
「あら、家族ですよ?、わたしたちは…」
 食器を乾燥機にかける。
 かしゃっとまた一枚撮った。
「似てるわね、あなた、シンジ君に」
 え?、っと振り返る。
「シンジ君に?」
「だからみんな、あなたに甘えるのね…」
「みんな?」
「ミヤちゃん、リキ君、シンジ君、他にもいるんじゃない?」
「どうしてわかるの?」
「カメラはそこにあるものしか写さないわ…、でも」
 帽子をぐっと深く被り、口元をにっと釣り上げる。
「人の目は、心の中まで見通すことができるのよ?」
 帽子の下で、コダマの瞳が妖しく光った。
「例えばそう、あの子が偽りの仮面を被っていることなんかもね」
 サヨコはドキッとしたが、コダマはただ、何か隠し事をしていると言いたいだけだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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