Episode:12P





「今どの辺りかわかる?」
 次々と情報を引き出している日向、リツコは半分の作業を彼に任せていた。
「間の停車駅をずいぶんすっ飛ばしてますからねぇ…、出ました、青函トンネルの中です」


「見えた!」
「追いつけるの?」
「もちろんさ!」
 だがマイトは逆にスピードを落とした、相対速度を合わせる。
「突入部隊、用意!」
 マイトが脇にあるへこみを指す。
「さ、行ってくれ」
 シンジはカヲルに後押しされる形で、へこみを覗いた。
 そこは階段になっていて、車両の先端部へと道が続いている。
「強制連結する、最後尾はすでに制圧済みだ」
 マイトがスピーカーで注意を促した。
「いくぞ!」
 シンジはカヲルにしがみついた。


 ミサトは銃を構えたまま、注意深く歩を進めた。
「しょうがないな、後でまた…」
 オルバは踵を返した。
「加持…」
 声をかける、万感極まる想い、だが加持はレイをまたぐ様に越え、ミサトを無視した。
「大丈夫かい?」
 ツバサを助け起こす。
「う、うん…、ありがと」
「加持!、あんたいったいどういうつもりよ…」
 バン!
 振り向きざまの一撃だった、ミサトが銃を取り落とす。
「悪いな、葛城」
 ミサトの眉間へと照準をあわせた。
「嘘…、嘘でしょ?」
 声が震える。
「ツバサ…」
 レイが漏らした。
「なに?」
「あなた…、加持さんに何をしたの…」
 加持は冷徹な目でミサトを見ている。
「なにって…、僕は何もしてないよ、サヨコの晩ご飯をかけたっていいからね」
 それは信憑性のある話だね。
 脳裏に声が響いた。
「「カヲル!?」」
 二人は同時に叫んだ。
 バン!
 加持がまたしても撃った。
 ミサトの髪が数本落ちる。
 イヤフォンのラインが切れていた。
「やめてください!」
 レイがしがみつこうとする。
 加持はミサトを見たまま動かない。
 ミサトは歌による眠気に襲われ、膝を曲げた。
「まずいよ、こんな事してる場合じゃない、大事になったらごまかせなくなっちゃう」
「そうだな」
「あ、待って!」
 加持は銃で牽制したまま前部の車両へと移動した。
「先生!、加持さん操られてるの」
「操るって…」
 ミサトは目の前が急に暗くなったような気がした。






 先頭機関車の後ろの車両は、車掌達のための休憩室になっていた。
 外側はイミテーションの石炭が乗せられている。
 幸か不幸か人影はない。
「こんな所まで来るなんて、しょうがない人たちだな」
 オルバは楽しそうに笑った。
「何が楽しい?」
 計り知れない部分がある、加持は慎重に狙いを定めた。
「僕にはまだ、切り札が残されているからね」
 指の間に挟んで見せる、青い勾玉。
 それをオルバは飲み込んだ。
「あ、あれって!」
 ツバサの記憶には残っていた。
「キクちゃんのお母さんの勾玉と同じ物だ!」
 オルバの体、その皮膚の下を何かが蠢いて広がっていく。
「そう、真に評価されるべきはぼくたちだけなんだ」
 ツバサは身震いした。
「あの人の心に、激しい憎悪を感じるよ!、世界を滅ぼしても有り余るほど、すっごい嫌ってる」
 まるで葉脈のように広がっていく。
「我々こそが世界の中心に有るべき存在だと判らせてやる」
 変態が始まる。
「僕らには、生まれながらに力が有った」
 筋肉が異常な形に膨れあがる。
「だけど君達が生まれた、たったそれだけの理由で黙殺されたんだよ」
 それは2メートル近い獣だった、足は獣のように逆関節となり、腕は鎌のような刃を生み、関節を無くして蠢いている。
「お前達にはわからないだろうね、人を越えた力を持ちながら、評価を受けないものの苦しみなんて」
 腕が鞭のようにしなった。
「うわ!」
 壁面から床にかけて鋭い切れ目が入った。
 ぞっとするツバサ。
「僕等の味わった屈辱、そして絶望、それはこの世界の滅亡と引き替えにしてこそ癒される」
「そんな病んだ心持ってるのは、健康に悪いよ、やめようって!」
 ニ撃目。
 ツバサの壁の展開が間に合わない。
「早い!」
 加持がツバサを突き飛ばした。
「サンキュー」
「危ないから下がってろ!」
 かわりに前へ出る。
「電車の中じゃ強い力は使えないしなぁ…」
 まるで猛獣の住処だと、ツバサは冷や汗を流した。


「オルバめ…」
 クールに…という彼の哲学を無視した弟にいらだつ。
「そろそろ潮時かもしれないな」
 ハッカーがぼそりと漏らした。






 新幹線の先端部が開く、吹き込んでくるすさまじい風、消し飛んでいく景色、レールの震動、シンジは生唾を飲み込んで祈った。
「どうか死んでも命はありますように」
 シンジたちの足元から、車両連結用の機械が姿をあらわした。
「あ、待って!」
 シンジが叫んだ。
「どうしたんだ!、もう後戻りは…」
「あれを見て!」
 非常灯の明かりしかない暗いトンネルの中、列車が右へ右へと折れ曲がるように走っている。
「機関車部分が!?」
 先頭、そして石炭を乗せているように見せかけている次車両だけが、突然外れたように違う道を歩み出した。
「切り離したのか!?」
 慌てて線路図を見る。
「旧青函トンネルに向かっている!?」
 その大半は土砂に埋もれている、行き止まりも同然だ。
 客車はそのまま第二青函トンネルを進む。
「何を考えているんだ」
「カヲル君、どうしよう?」
「シンジ君はレイ達を、僕はあれを追うよ」
「わかった、一度連結して、とにかく客車に制動をかける、作戦変更だ!」
 マイトは先端部のハッチを閉じただけで、シンジたちを気にせずに連結作業を行った。
 ゴン!
「うわぁ!」
 ぶつかったような衝撃に、シンジはひっくり返った。
「制動、逆進!」
 マイトの叫びに合わせて、ロコモライザーとレールとの設置点が火花を上げた。


「きゃあ!」
「なに、なんなの?、いったいどうなってるのよ!」
 レイとミサトの悲鳴、急激な震動にひっくり返った。
「列車…、止まってるの?」
 一瞬加持が何かやったのかと思った。
 レイ…
 カヲルの声。
 シンジ君をそっちにやる、皆を起こして、逃げろ。
「え!?」
 確認をするよりも早く、レイの視界にシンジが入った。
 今の衝撃でひっくり返った乗客たち、歌はやんでいたが、乗客達の目はさめない。
 シンジは乗客達をまたいでまたいで、やってくる。
「シンちゃん…、シンちゃん…」
 レイはシンジのもとへ行こうとした、だが膝に力が入らない、それでも這いずるように進む。
「レイ!」
「シンちゃん!」
 レイが腕を伸ばした、シンジは首に噛り付かせて、レイを抱きしめた。
「シンちゃん、シンちゃん!」
「よかった、無事で、酷いことになってるって聞いて、心配してたんだ」
 シンジはレイの髪をくしゃくしゃと撫でた。
「アスカとミズホは?」
「無事、でも眠ったままなの」
 シンジは部屋の中を確認した、ベッドから転がり落ち、重なっている二人。
「なんだ、寝相が悪いんだから」
 シンジはミサトを見た。
「ミサト先生、早く後ろの車両に乗ってください」
「え!?」
「カヲル君が犯人を追いかけるって、だから早く」
 加持の姿が浮かぶ、ミサトは一瞬躊躇した。
「先生!、加持さんを連れ戻してっ」
 レイは真剣な眼差しでミサトを見据えた、その瞳に飲まれるミサト。
 ぶんぶんと頭を振ってから、ミサトはぴしゃっと自分の頬を叩いた。
「いったぁー…、わかったわ、綾波さん」
「先生!」
「あいつには、ちゃんと聞かなきゃならないことがあるからね」
 それはあの約束のことだった。
「シンちゃん、みんなをどうすれば起こせるの?」
「歌えって」
「え?」
「カヲル君が歌えって言ってた」
 記憶にひっかかる。
「そっか!、シンちゃん女装して歌ってた時みたいに…」
「いらない事は思い出さなくてもいいんだよぉ〜」
 非常に情けない。
「シンジ君、綾波さん!」
 日向が駆けてきた。
「これ、赤木先生が渡せって」
 マイクだ、二本。
 シンジとレイは、頷きあった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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