Episode:12Q
コォンコォンコォン…
その頃、青函トンネルの真上である海底に、一席の潜水艦が鎮座していた。
「連絡が入りました、やはり対E兵器を用意していたようです」
「それも僕が遊びで使ったやつか、芸のない…」
カスミの報告に頷く甲斐。
「まあ、最も単純で最も効果的だからな、あれは」
成原博士が茶菓子のようかんをつまんでいる。
船長室だ、とてもそうとは思えない事務的で質素な作りになっていたが。
「で、リキは?」
「所定の位置に着きました」
「あとはボーリングが終わるのを待つだけか」
全長570メートル総重量5500t、超弩級といえる大型潜水艦だ。
「この船、ウランでできてるのかしら?」
とカスミがのたまった船だが、これだけの大型船でありながら捕捉されてはいなかった。
現在、この海域に他の船はいない、総支配人からの通達により、民間、軍とわず圧力がかかったためである。
「どうした?」
カスミに尋ねる。
「あの子たち、大丈夫でしょうか?」
甲斐は心配ないと答えた。
「死者を出さないよう、列車にはレリアルを残している、乗客は彼女が救ってくれるさ」
指折り数える。
「子供達のためにガギエルも待機している、心配は無いよ」
そしてあの男だ、と続ける。
「Eに関しては多少の知識を持っている、対Eに関しての経験もな」
「だからつけたんだろう?、子供達だけではあの「声」だけでやられてしまう可能性もあったろうしな」
成原博士の推測に、甲斐はニヤリと口の端を釣り上げた。
「とられたものは、何があっても取り返す」
奴等のおもちゃにはしておけんからな…と、心の中で呟いた。
●
「来たな?」
暗いトンネル…というよりは洞窟の中で、リキは最後のアメ玉を口の中へ放り込んだ。
目の前を999の機関車部分が通り過ぎようとする。
リキは光を放った、刃が片側の車輪を切り裂く。
「うわっと!」
慌てて飛びのく、列車が横転した、横滑りするように進み、後ろの車両に押されて、くの字になって止まった。
「ちょっと派手だったか」
中から「きゅう〜☆」っと目を回してツバサが出てきた。
「こりゃまた派手にやったもんだな」
加持もついて出てくる。
「くるぞ」
加持の真剣な声にあわせて、車の横っ腹、いまは横倒しになって上を向いている側が吹き飛んだ。
「無茶なことを…」
脳震とうを起こしたのか、オルバは姿をあらわして、軽く頭を振った。
「ここなら人気はない、存分にやらせてもらおう」
リキの一撃がオルバの首につき刺さる。
「ふん!」
オルバは意にかいさずに腕を伸ばした、肘から先が幾重にも別れてのびる。
「うわっ!?」
網のように広がり、せまる。
その幾つかをリキは力で、加持は反射神経だけでかわしてみせた。
「ふーん、やるもんだね」
「ばかにするなよー!」
絡まってるツバサ。
「ツバサ!」
「うん!」
二人で壁を重ねる、オルバの枝が弾かれた。
「なに!?」
予想外だと言わんばかりの驚き。
「びっくりはしたけどね」
「ああ、物理的攻撃でしかないのが、限界だな」
「そして…」
いつの間にか、加持が背後に忍び寄っていた。
「これで終わりだ」
銃をつきつける、以前ワンボックスカーを大破させるために使った弾丸が装填されていた。
ドン!
オルバの胃の辺りに大穴が開いた、肉片と共に青く輝くものが飛び散る。
「勾玉、壊れちゃったね」
たのしそうにツバサ。
「あ、ああ…」
苦しみにあえいだ、喉元をかきむしるオルバ。
「兄さん…、兄さん…」
泣き漏らす。
だが返事はない。
「兄さん…」
涸れるようにしぼんでいく。
「あ、ああ…」
そこに残ったのは、老人のようにしぼんだオルバの死体だった。
●
「さあ、やるよシンちゃん」
「うん」
力強く返事をする。
次いで月の歌を歌いはじめた。
レイは歌いながら自分とシンジとを包みこむように、壁を展開する。
溶け合わさるような不可思議な感覚がシンジを襲った。
「シンちゃん、お願い、一つのことだけを考えて」
「なに?」
レイを見る、レイもシンジを見た。
「助けるって」
こっくりと頷く、シンジはもう一度歌いなおした。
「加持!」
「葛城…」
ゆっくりと振り返る、ロコモライザーが少し離れた所で停車していた。
「あ、カヲルだー!」
やっほーとのんきなツバサ。
ロコモライザーが引き返していく。
「加持を返してもらうわ」
カヲルはミサトの隣に立った。
「なるほど、ツバサは何もしていないんだね、ならカスミはどうかな?」
あちゃー、バレたかっと舌を出す。
加持がツバサを追い払うような仕草をした。
「早く回収するんだ、こっちは引き受ける」
「加持!」
ミサトの悲痛な叫び、だが加持が返したのは弾丸。
しかし当たりはしなかった、カヲルの壁が弾いたからだ。
「殺意が無いから始末が悪い、自動展開できないからね、張ったままにしておいてよかったよ」
リキを睨む。
「悪いな、俺もお前と戦いたいが、今日ばかりは都合が悪いんだ」
リキも機関車へと向かう。
加持は視線だけでそれを確認して、銃を捨てた。
「加持…」
ミサトが駆け寄ろうとする、それを腕で止めるカヲル。
「渚君!」
「待つんだ」
加持がナイフを抜いた、厚みのあるナイフ。
「行かせるわけにはいかない」
一気に駆け寄る、低い体勢から斬り上げた。
「加持!」
カヲルがミサトを突き飛ばす。
加持はミサトを無視してカヲルに斬りつけた。
壁を意識的に展開する、正面、だが振り上げた加持の右手には何も握られていない。
「フェイント!?」
左腕がカヲルの脇へと向かった、身をよじるカヲル。
「早い!」
攻撃するわけにもいかず、カヲルは防戦をしいられた。
「なんて動きなんだ…、これが」
「これが加持の…、本当の実力」
フェイントも使えないよう、一際大きな壁を張った。
カヲルの動きも常人の域にはない、だが認識してから動いているカヲルに対して、加持は反射行動のみで反応していた、それが差を埋めている。
「仕方ないね…」
カヲルも手加減をやめる、力を撃ち放とうとした、その時…
「うわああああああああ!」
絶叫が響き渡った。
「ツバサ?」
カヲルは動きをとめた、加持も攻撃をやめて振り返っている。
機関車から転がり落ちるツバサ、その横でリキも頭を抱えてうずくまっていた。
「オルバも、いい弟ではあったが、有能では無かったな」
中から現れたのは…
「はじめまして、Angels、私の名はトレーズ、かつてニュータイプと呼ばれていた男だよ」
その腕にはあのボックスが抱かれていた。
●
「何を思い返している?、甲斐…」
甲斐はじっと、何かの写真を見ていた。
「彼が僕に復讐を企てたのは、当然かもしれないな」
「そうだな…」
成原博士は、茶菓子の後の番茶をすすっていた。
「彼から彼女を取り上げたのはそうすべきだったからだ、結果、悲しみを産んでもね」
表情を消す。
「その怒りの矛先が僕に向いてしまったのは必然だったかもしれない」
「時の流れが早すぎたんだよ、あの地震の後、生き残ることに努めた誰にとっても」
甲斐を見つめる。
「歴史の奔流は余りにも激しすぎた」
「あれから15年か…」
真っ白な病室、甲斐はベッドの脇に立ち、幼さの抜け切らない女と話していた。
「僕のとった行動は、結果的に間違いだったかもしれない」
「わたしは、離れたくありませんでした…」
色白な女だった、どこかユイに似ている。
「君を危険には、巻き込みたくなかった」
サァっと、カーテンが風に揺れた。
「でも…」
「わかっている…」
甲斐は何かの言葉を飲み込んだ。
「しかし、あの時点ではこれが最善の選択だった」
女も本当はそれがわかっているのだろう、多くは口にしない。
「なぜすぐに彼の元を離れなかった?」
言葉にはしないで、唇だけを動かした。
愛していたから。
彼女は確かにそう、甲斐に答えた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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