Episode:15B
あ…、待ってよ…
暗闇の中、ケンスケは腕を伸ばした。
じゃ、あたし行くから。
そう言ってキィが走り去っていく。
待って、待ってよ…
ケンスケはうなされながら目を開いた。
「夢?」
「気がつきましたかぁ?」
覗きこむミズホ。
ケンスケは保健室のベッドに寝かされていた、消毒液の匂いが鼻につく。
「悪かったよ」
ケンスケはぼそっとそう言って、布団を被りなおした。
「まったくですぅ!、私とシンジ様の気持ちを知っててあんなことなさるなんてサイテーですぅ!」
「なっ!、誰がサイテーだよ!」
がばっと起き上がる。
「だったらあの女の子たちの気持ちを考えた事あるのか?、さっきの幸せそうな顔見なかったのかよ!?」
「そんなこと気にしてたら恋なんてできません!」
言い切った!
「シンジ様もシンジ様ですぅ!、でれでれと鼻の下を伸ばして…」
いきなりしょぼくれる。
「ちょ、ちょっと…」
「…シンジ様、私以外の女の子と握手なさってましたぁ」
実はあの後、シンジは別の女の子と握手したりしていた。
「なんだ、良いじゃないか握手ぐらいさ」
「ダメダメですぅ!、きっとあの方は握手した右手を洗わないで「シンジ」って名前をつけて大事になさるんですぅ!!」
「右手に名前って…」
意味わかってるのかと疑うケンスケ。
「だいたいあなたが女の子の気持ちなんて言う方がおかしいんですぅ!」
「な、なんだよ、言い過ぎじゃないのか!?」
フンッと鼻で笑う。
「キィさんに逃げられたのはどこのどなたですかぁ?」
ぐさっと来た。
胸を押えて倒れふすケンスケ。
「そ、そこに触れなくても…」
「ふふんですぅ!、しょせんはもてない方の遠吠えですぅ、わかったらシンジ様に余計な虫を近づけないでくださいっ、わかりましたかぁ?、わかりましたねぇ!?」
バス!
ミズホは最後に枕を投げつけた。
「他人の世話を焼いている暇があったら、ご自分の心配でもなさったらどうですかぁ!?」
ぐさぐさと鋭利なナイフで刻まれている気分。
「それじゃあ後は卒業式がはじまるまで、ここで大人しくしていてくださいね!」
言いたいことだけ言うと、ミズホは飛び出して行った。
「…くしょう、ちくしょう、ちくしょう!、俺だって彼女が欲しいよ!」
空しく叫ぶ。
「無理だね」
「な、渚!?、いたのか?」
気配というものを全く感じなかった。
「ずっといたよ、ベッドの下にね」
「な、なんでそんな所に…」
「ゆっくりと話を聞きたかったからさ」
シャッとカーテンを閉じる。
「悪いけど、今の君にはシンジ君のような魅力は何もない、とうてい好きになってくれる子なんて出てこないね」
「う…、なんだよ、俺には夢見ることも許さないって言うのかよぉ…」
半泣きだ。
「相田君、君には根本的にかけているものがあるとは思わないかい?」
きょとんとするケンスケ。
「優しさだよ」
にっこりとカヲル。
「お、俺が優しくないって!?」
「ああ、君には鈴原君やシンジ君のような優しさがない!」
ズバズバと口にする。
「少なくとも人をお金儲けの道具にしているようじゃね」
そうですぅ、この守銭奴〜
ぐわんっと衝撃を受けた所に、どこかで聞いたような声が脳裏に響いた。
お邪魔虫ぃ。
変態ぃ。
えっとぉ、あと何がありましたっけぇ?
「でも確かに、君のような存在がいるから報われる子もいる、それは事実だよ」
ケンスケはうなだれていた。
「内気な子のことさ、言わないままにするよりは、伝えておいた方が良いこともある、勇気に最後のひと押しを与えてやる、そんなことができる存在だね、君は」
「なんだよ、それ…」
「損な役回りってことさ」
カヲルは天井を見上げた。
「ほら、聞こえてこないかい?」
ありがとう。
ありがとう。
碇君にぃ…
そして段取りをつけてくれた相田君にぃ…
全ての感謝を込めてぇ…
ありがとう。
「き、聞こえる…」
「ああ、聞こえるね、でもこの賛辞はシンジ君が自分と言う存在を覚えていてくれる、それが嬉しいからこそなんだよ?」
「え?」
「つまり、君はお呼びじゃないってことさ」
「そ、そんな…」
「みんな君のことなんて忘れて、シンジ君がどれ程優しかったかだけを覚えて卒業して行くんだよ」
「そんな、酷い…」
「そうだね、酷いね…」
カヲルはベッドの脇に手をついた。
ケンスケの耳元で囁く。
「これで良いのかい?」
「…いいわけない」
「そうだね、ずるいよね、自分だけがおいしい所を持っていくなんて」
「ああ、そうさ、俺が自分を犠牲にしてまで甘い目を見させてやってるのに、シンジの奴、それを独り占めするなんて」
「そうだよ、じゃあ、君はどうするんだい?」
……。
ケンスケは無言で立ち上がった。
「このまま終わらせてやるもんか!」
ベッドから飛び降りる。
「見てろよシンジ!、お前の存在に泣かされてんのは、俺だけじゃないんだからな!」
ケンスケは保健室から飛び出していった。
「シンジにだけいい目見させてやるもんかぁ!」
そんなことを叫びながら。
ちょっとしてから、ひょこっとミズホが室内を覗きこんだ。
「うまくいきましたかぁ?」
その手にはマイクが握られていた、小指が立っている。
「ばっちり、うまく乗せられたよ、これもミズホの演技がうまかったからだね?」
「そんなことないですぅ、渚さんの乗せ方がうまかっただけですぅ」
実は投げつけた枕の中に、小型スピーカーをしこんでいたのだ。
「さあ、じゃあレイ達に嗅ぎつけられないうちに行こうか」
「はいですぅ」
甘かった。
保健室は一階にある、窓の外にはコップを壁にあてて張り付いてる、二人の姿があった。
「もうっ、相田君、ああも簡単に乗せられるなんて…」
「単純なのよ、シンジと同じね」
「え?、逆に見えるけど…」
「どうして?」
「だってシンちゃん、考え込んだら結論だすのに無茶苦茶時間かかるじゃない?」
「そうかもねぇ、あれこれいらないことまで考え過ぎんのよ、あいつ」
「それって優柔不断なだけなんじゃ…」
「そうそう、結構悩まされてるし…って、なごんでる場合じゃないわよ」
「そうだね、カヲルが何考えてるのかわからないけど、シンちゃんを守ってあげなきゃ」
「でも、ちょっとねぇ…」
「どうしたの?」
「やっぱ他の女の子相手にでれでれしてるシンジって、見たくないなぁって…」
アスカの呟きに、レイもちょっとだけ考え込んだ。
「でもまぁ今日は特別なんだから、我慢してあげようよ、ね?」
「んー…」
「その分は今日の晩にでも、シンちゃんに返してもらえばいいんだし」
レイの顔は、何かを企んでいる時の顔だった。
「まあそうね、それにあいつ、相田に酷い目に合わされたばっかりだしね」
唇を奪われたことを言っているらしい。
「そうそう、二連続じゃいくらシンちゃんでもダウンしちゃうよ?」
じゃ、行きましょうかと二人はどちらからでもなく立ち上がった。
●
「あー、良いよな碇の奴ぅ」
「全くむかつくよなぁ」
けやきの樹は校舎の廊下側から眺めることができた。
シンジがまた別の女の子と楽しそうに話している。
「聞いてくれよぉ、俺さぁ、碇の悪口言ってたって誤解されてさぁ、惣流にぶん殴られた事あるんだぜ?」
「そんなのまだ良い方さ、俺なんて信濃にプールに放り込まれたんだよなぁ」
ほけーっと陽気に包まれる。
「ちっ、バケツの水でもひっかぶせてやろうか?」
「どうせなら雑巾入れようぜ、雑巾」
「いいのか?それで」
「うわっ、相田!?」
しゃがみこみ、じっと二人を見ていた。
「何やってンだよそんな所で!?」
「あれ見ろよ」
でれでれと鼻の下を伸ばしているシンジ。
「想えば暗い青春だったよなぁ…」
しみじみと語り出すケンスケ。
「なあ宮本ぉ、お前好きだった子に「シンジ君にラブレター渡して欲しいのぉ☆」って頼まれた事あったよなぁ?、あの手紙どうしたぁ?」
「聞くな!」
るるーっと涙が流れる。
「杉野ぉ、シンジのことが気になるからって断られた事、二桁越えてるよなぁ」
「うるさい!」
こっちも血涙を流す。
「いいのかぁ?、このまま卒業しても、ホントに良いのかぁ?」
ニヤニヤとケンスケ。
「今日が最後だぞぉ?、復讐するには今日しかないんだぞぉ?」
耳元で囁く。
「今日…」
「そう」
「今から…」
「もちろん、卒業式が終わったらもう帰っちゃうんだからなぁ」
くすくすと悪魔の囁きが聞こえる。
「さあ行こうぜ復讐に…」
にやり。
ケンスケの洗脳作戦は着実に進んでいた。
「ふう、これで何人だっけ?」
シンジは一息ついた。
「あ、碇君」
ヒカリが歩いてくる。
「あれ?、洞木さんどうしたの?」
「えっと、あの…」
モジモジと言いにくそうにしている。
「あ、そっか、次の人の番なんだ、ごめん」
「う、うん、良いの…」
赤い顔で、ヒカリは微笑み返した。
「トウジ待ってるんだ」
「うん…」
きゃっと顔を隠す、そのしぐさにシンジは可愛いなと感じてしまった。
…って僕なに考えてんだよ!、トウジの大事な人じゃないか!!
「あ、じゃあ、僕行くから頑張ってね」
「うん…、あ、まって碇君」
「え?」
「襟元、乱れてるよ?」
極々自然に、ヒカリは手を伸ばした。
るったるったるん♪っと、今にもスキップしそうな感じのトウジ。
「なんやぁ、ヒカリの奴、こないなとこ呼び出してぇ」
もちろん気がついているだけにトウジはにやけっぱなしだった。
「ここを曲がればヒカリの奴が、恥ずかしげに立っとんのやろなぁ〜」
待ってろやヒカリぃっと曲がった所で、トウジは凍りついた。
「んな!?」
シンジの背が見えた、肩越しにヒカリの髪が見える。
まるで抱きつくように、その胸元に…。
「あ、トウジ」
「鈴原」
「なななん、なにやっとんのや!」
「なにって…」
きょとんと顔を見あわせる二人。
「まさか、まさか話して、そないなことやったんか!?」
「トウジ、何言ってんだよ?」
「そうよ鈴原、どうしたの?」
「うるさいわ!、シンジもヒカリも、好きにすりゃええんや、アホがぁ!」
泣きながら駆けだしていく。
「ちょっとトウジぃ!」
トウジは止まらなかった。
その光景を屋上から見おろしている人物がいた、渚カヲル。
安全のためのフェンスを越え、ふちに立っている。
その背後に、フェンスに両腕をついてミズホ。
「ふふふ、シンジ君、たまにはお仕置きしてあげないとね」
「…シンジ様が悪いんですぅ、私という者がありながら…」
カヲルはミズホを見た。
「罪の意識を感じているのかい?」
ギクッとするミズホ。
「たまには発散したほうがいい、特にミズホは、レイ達のようにシンジ君を振り回したりできない性格だからね」
あまり浮気はするものじゃないよ?、シンジ君。
カヲルは楽しげに慌てふためくシンジを見ていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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