Episode:15C





 今日は卒業式なので、他学年の登校は自由だった、おかげで空き教室は多い。
 そのうちの、2階の一番隅にある教室。
 カーテンが引かれ、廊下側の窓にも暗幕が張られていた。
「では、彼女無し男(みなしご)達の集会を開始する」
「うりゃー、死ねやぁ!」
 シンジの似顔絵が張られた人の重さ人形に突撃する男たち。
「甘い、甘いぞ!」
 ケンスケが指導する。
「惣流、綾波は女子ながらに50メートル6秒台という俊足を持っている、ところがこの二人がかりでも、本気で逃げる碇シンジを捕らえる事はできない!」
 なぜか軍服に着替えていた、黒板にチョークを走らせる。
「こと逃げることだけに絞れば、碇シンジは天才だ、そこで…」
 学校の略地図を描く。
「ここと、ここと、ここ!、このように人員を配置し、まずは碇シンジを捕獲する!」
 うおーっと歓声が上がった。
 ガラッ!っと戸が開かれた。
「誰だ!?」
 暗室を光が満たした、眩しさに目を細める。
「甘い、甘いわ!」
「その声はトウジ!?」
 息を切らせて、怒りに肩をふるわせているトウジ。
「あの外道、そんなもんですまさへんでぇ!」
「何だよトウジ!、ここはお前みたいに彼女付きの奴が来る所じゃないぞ!」
 そうだそうだと、叫びが上がる。
「彼女?、彼女やて?、そんなんおらへんわ!」
 言い切ってからトウジはしゃがみこんだ。
「ええいなんやシンジの奴、ヒカリもヒカリや、なんで…」
 ぶちぶちと愚痴り出す。
 その肩をぽんっと叩くケンスケ。
「そうかぁ、お前もとうとうあの鬼畜の犠牲になぁ」
 にやり。
「よし、仲間にいれてやるよ、良いだろう、みんな?」
 うんうんと、みなで涙ぐんでいる。
「ほんまか、こんなわしでもホンマに仲間にいれてくれるんか?」
「もちろんだよ」
「俺だって碇のせいでさぁ…」
「碇君の方が優しいとか言われて、ケンカになって…」
 逆恨みまで混じってる。
「よっしゃ、これでも元親友やったんや、あいつの行動パターンはみんなしっとる、ぜひ協力させてくれ!」
「判ったよトウジ、お前に作戦参謀を命じる!、さっそくシンジ捕獲作戦の穴を埋めてくれ!」
「よっしゃ、まかしとき!」
 この時点で総勢20名を越えていた…






「いた?、碇君」
「ううん、どこいっちゃったんだろ、トウジの奴…」
 校舎を見上げる。
「教室に戻ったのかな?」
「もうすぐ時間だし、戻ってみましょうか?」
「そうだね…」
 とぼとぼと校舎に沿って歩き出す。
「ごめんね、洞木さん…」
「え!?、やだ、碇君のせいじゃないわよ」
「でも…」
「よぉ、シンジぃ!」
「トウジ!」
「鈴原!」
 にたにたと嫌な笑みを浮かべて近寄ってくる。
「心配したんだよ、どこに行ってたのさ?」
「あのね鈴原、さっきのことなんだけど…」
 トウジは聞いているのかいないのか、にたにたと笑ったままだ。
「トウジ?」
「シンジ、お前が悪いんやで?」
 ぽんっと肩に手を置く。
「へ?」
 逃がさないよう、手に力を入れた。
「いまやぁ!」
 校舎からネットが降ってきた。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
 ヒカリも巻き込まれた、バレーボールやテニス用のネットだ。
「それ、捕まえろ!」
 ケンスケを先頭に妖しい覆面をした男たちが走ってきた。
「シンジ!」
「覚悟ォ!」
 もぞもぞと動くネット目掛けて突撃した。
きゃあああああああああああああああ!
 悲鳴が響いた。
「え!?」
「あれ!?、洞木だけ?、なんで…」
「あーーーーーーーー、あそこだぁ!」
 シンジがスタコラと校庭を横切って走っていく。
「ぐ、なんてすばしっこい奴だ!」
「あぁなぁたぁたぁちぃ!」
 すっごい形相のヒカリ。
「行くぞ!」
 うわーっと逃げ出していく一同。
「ま、まてやわしも…ぐえ!」
 襟首をヒカリがつかんでいた。
「すずはらー、これは一体どういうことなのか、ちゃんと説明してもらいますからね!」
 ヒカリは胸元を押え、真っ赤になって怒っていた。
 まったく誰よ!、どさくさに紛れて胸さわったの!
 ヒカリの怒りはかなり本物だった。






「ねぇ、ちょっとヤバいかもって雰囲気!」
 教室に飛びこんでくる女の子。
「碇君が追いかけ回されてるの!」
 えーっと上がった声は悲鳴に近かった。
「なんで、どうしてぇ?」
「やだぁ、あたしまだ順番回ってきてないのにぃ!」
 そんな声が飛んでいる。
「ねぇ、もう時間ないよぉ!」
 泣きそうな子が何人かいた。
「男子のほとんどが追いかけ回してるんだって!」
「主犯は相田らしいよ」
「ひっどーい」
「ねえ、何とかしなきゃ!」
「そうだよ」
 真宮寺さんを中心に、すでに告白タイムを終えている子達が立ち上がった。
「あんな汚れに好き勝手させちゃいけないよね!」
「碇君を助けなきゃ!」
 この会話は、ケンスケの机の中にある盗聴マイクで拾われていた。


「ふ、ふふ…、汚れ…」
 校庭のド真ん中で、ケンスケは盗聴器の受信機をグラウンドに叩きつけた。
「け、ケンスケ?」
 地の底から響くような声に、みな後ずさる。
「ふふふ、いいさ、どうせ俺は汚れものさっ、それが俺なんだろ?、そうなんだろ!?」
「お、おいっ、しっかりしろよ!」
「汚れ者以外の何者でもない、真の汚れ者なのさ!」
「ケンスケ!」
「そうだよ、自分で気がついていたはずじゃないか相田ケンスケ!、俺は友情を盾に金儲けを企むような裏切り者だって!」
「あ、それはちょっとホントかも…」
「くっそおおおおおおおお、シンジの奴どこまでも卑劣な!」
 ケンスケが叫んだ。
「みてろよ!、絶対に後悔させてやるからなぁ!!」
 ケンスケの怒りが屈折した方向へ向かいはじめた頃…


 シンジは校庭隅にある体育倉庫の裏に隠れていた。
「ちょっと得しちゃったかな?」
 右手を見ながらニギニギさせるシンジ。
 顔がちょっと赤くなってる。
「以外とあったな、洞木さん…って、バレたらトウジに殺されちゃうかも…」
 グラウンドを覗き見る、ケンスケ達が騒いでいた。
「まっずいなぁ、これじゃ逃げられないよぉ」
 じたばたと、その場で足踏みする。
「シンちゃん、シンちゃん…」
 聞き覚えのある声がした。
「もしかして、レイ?」
「そう」
 どこかと探る。
「体育倉庫の中、バレないように入ってきて…」
「うん」
 他に逃げ場所があるわけでもないので、シンジは素直に従った。
「入るよ?」
 倉庫はコンクリート建てで、入り口の扉を除けば、後は奥に小さな窓があるだけだった。
「レイ?」
「こっち」
 手前にハードルや跳び箱なんかが置いてある。
 奥には体操用のマットが丸められ、数本立てかけられていた。
 その間に隠れるように、レイが潜んでいる。
「レイ…、どうしたのさ?」
 マットの裏に回る。
 ひと一人が横を向いて立てる程度のすき間だった。
 並んで壁にもたれる。
「どうって…、だって心配だったから…」
 って、こういうシュチュエーションに弱いのよね、シンちゃん。
 口元がほころびそうだったので、わざとうつむき、髪で隠した。
「いつものことだし…、付き合ってくれなくてもよかったのに」
「でもぉ…」
「うん、わかってる、ありがとう、嬉しいよ…」
 ガタ!
 シンちゃん!っと、いつものように最後のひと押しをしようとした所で、入り口が騒がしくなった。
 こん中見たか?
 これからだよ
 もしこの中だったら袋のネズミだぜ?
 そんなとこに隠れるか?、普通…
 そんな会話が聞こえてくる。
「ま、まずいよ、どうしよう!」
「ここに隠れるの!」
「え!?」
「はやく!」
 レイは丸めて立てかけてあるマットを開くと、シンジをそこへ押し込んだ。
「うわ!」
 シンジに抱きつくレイ。
「ちょ、ちょっとレイ!?」
「黙って!、バレちゃうよ」
 そのままシンジの脇の下に腕を通し、向こう側にあるマットの端をつかむと、レイはくるくると回転をはじめた。
「うわ…」
 胸が押しつけられる。
「れ、レイ、離れてよ」
「無理だよ…」
 マットは巻きあがっていた、その中心で密着している二人。
「静かにしてて…、卒業式がはじまれば、きっとみんな諦めるよ…」
 そ、そんなこと言ったって…
 もぞもぞと体を動かす。
「ん…、シンちゃん、あんまり動かないで…」
「そんなこと言ったって…」
 全身でレイの存在を意識してしまう。
 暗い、かろうじてレイの耳と首筋が見えた。
 きっと僕と同じで赤くなってるんだろうな…
「うん、シンちゃん…」
「ははははは、はい!?」
「…あんまり息吹きかけないで」
「ご、ごめん!」
 必要以上に緊張するシンジ。
 ガラッ!
 とうとう体育倉庫の扉が開かれた。







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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