Episode:17D




「「「いっただっきまーっす!」」」
 その日の夕食。
「入学式って言っても、新設校だから生徒少なかったね?」
 箸を口に咥えてるレイ。
「2、3年生も少ないしね、でもすぐに編入生で埋まるさ」
 それより…、とカヲルは話を変えた。
「アスカちゃんはどうするんだい、あの話…」
「ああ、あれね…」
 ぴくっと来て、夕刊をたたむゲンドウ。
「なにかあったのか?」
「う〜ん、実は演劇部に誘われちゃって…」
「あ、そう言えばシンジ様はどちらの部に入られるんですかぁ?」
 食卓の端に転がってるシンジ。
「あ、死んでる死んでる」
「うう〜、筋肉痛がぁ〜〜〜…」
「シンジ、お行儀が悪いわよ?」
 たしなめるユイ。
 それを微笑ましく見てから、カヲルが代わりに答えた。
「シンジ君はね?、僕と一緒に演劇部に入ることになったよ」
「「「えーーー!」」」
「なによそれ!」
「シンちゃん、どうしてぇ!?」
「四類には専門過程があるんだよ、それで演劇部に強制入部させられると言うわけさ」
 やっぱりカヲルが答えた。
「うう〜、じゃああたしも入りたいなぁ、演劇ぃ」
「なんだレイ、どうかしたのか?」
「実は陸上部に誘われててぇ…」
「あら、レイちゃんは足が早いんだから、いいんじゃないの?」
「でも…」
 もごもごと口の中で言いよどむ。
「レイは体育会系よりも、文化系の方が好みなんです、そうだろう?、レイ」
「う、うん、だから美術部か吹奏楽なんて良いかなぁ、なんて…」
「ミズホちゃんは?」
「困ってしまいますぅ」
「どうしたの?」
「はい…、シンジ様と同じ演劇部に入りたいですけどぉ…」
「他にやりたいことができたのよね?、あたしもだけど…」
 同じことを考えているアスカ。
「悩むと良い、最低でも1年、最高で3年も関ることになるのだ、ちゃんと考えて決めなさい」
「はい、お父さま」
「ああ、で、だ」
 コホンと咳払い。
「明日、何があるのだ?」
 身を乗り出し、ゲンドウは尋ねた。
「シンジ、ご飯は?」
「胃が…、胃が受け付けてくれない…」
 呷くシンジ。
「ちょっとやり過ぎたかしら?」
「シンちゃんお風呂先にすればぁ?、なんなら一緒に入るぅ?」
「あんたもう入ったじゃない」
「…そういう問題じゃないと思うんだけど…」
「そうね、先に体ほぐしてくれば?、後でマッサージしたげるから」
「覗かないでよ?」
「普通逆だと想いますぅ」
 シンジはひょこひょこと尺取虫のように風呂に向かった。






「ふう…」
 っと湯船に浸かって口に出す。
「お風呂がこんなに気持ち良いだなんて、知らなかったな…」
 シンジはあの後のことを思い返した。


「おらぁ、シンジ走らんかーい!」
「どうして僕がぁ!」
 シンジはいきなりグラウンドを走らされていた。
「シンジくーん、あまり無茶しないでねぇ!」
 手でメガホンを作る伊吹マヤ。
「そんなのトウジに言ってくださいよぉ!」
「でも感激だなぁ!、また先生と会えるなんて、それも毎日!!」
 マヤの横顔を撮ってるケンスケ。
「ありがと☆、でもホントはぎりぎりだったのよ、うまく教員の枠が余っててね」
「先生って陸上の経験あるんですか?」
「コーチはちゃんと居るのよ?、あたしはただの顧問なの」
「ほらシンジぃ!、スピード落ちてるわよぉ!」
「シンちゃんしっかりぃ!」
 ごりごりごり…
 二人の後ろで、何かをすり鉢で擦りおろしてるミズホ。
「ミズホ、何してるんだい?」
 覗きこむカヲル。
「特製スタミナティーの準備ですぅ!」
「…それってお茶の作り方じゃないと思うけど」
 ヒカリは冷や汗を流した。
「ほらレイ、かけ声いくわよ?」
「うん!、いっくよー、せーの!、えいほっえいほ!」
「えっほえっほ…って、あんたねぇ、おサルのカゴ屋じゃないんだから」
「えー?、何でもいいじゃない別にぃ」
「普通こういう時のかけ声って言ったらファイ・オーでしょ!?」
「えいほーの方がはまるのにぃ!」
「もういいわよ!、せーの!、ファイ・オー!」
「えいほ」
「ファイ・オー」
「えいほ」
「ファイ・オー」
「えいほ」
「ファイ・ホー」
「ぷっ、今「ファイホー」って言った」
「言ってない!、言ってないわよ、そんなこと!」
「なにやっとんのやあいつら?」
「知らないよぉ!」
 シンジはあえぎながら答えた。
「どうして初日からこんな目にあわなきゃならないんだよぉ!」
「すまんなぁシンジ、そやけどワシ、あいつを許せへん、許せへんのや!」
 トウジは空に向かって激しく叫んだ。
「ああいう、いけ好かんタイプの男は、一度ぎゃふんと言わせたらなあかん!」
「じゃあトウジがやればいいのに」
「どアホウ!、ケンカ売られたんはお前やろ!、ええか!、ワシは別に個人的に絞めたろう思とんのとちゃうで!、これは世界の意思っちゅうやっちゃ!」
「ぜったい個人的な方だと思うんだけど…」
「黙って走らんかい、このボケがぁ!」
 そのままトラックを数周させられるシンジ。
「もうダメだぁ…」
「けっこう余裕あるじゃない?」
 トウジの方は動けなくなっている。
「朝走ってるのが効いてたりしてね?」
 微笑むぐらいの余裕はある。
「まあその調子ならなんとか…、ならないかな、やっぱ」
「アスカぁ…」
「バァカ、どうやったってあんたがあいつに勝てるわけないじゃん」
「そ、そうだけど…」
「あんたねぇ、どうしてそう煮えきらないのよ!」
「だ、だって、勝てないって言ったのアスカじゃないか…」
「じゃああんたは、あたし達と一緒にいられなくなっても良いってのね?」
「誰もそんなこと言ってないだろう!?」
「言ってるじゃない!、負けちゃったら自動的にそうなるのよ!」
 睨みあう。
「あんたそれでも良いっての!」
「だから…」
「うっさい!」
 パン!っとはたいた。
「うじうじとしてないの!、それともまた逃げ出すの!?」
 うっとつまるシンジ。
「わ、わかったよ…」
 シンジは自主的に走り出した。
「そうよ、それで良いんだから」
「アスカ、ちょっと冷たくない?」
 レイ。
「たまにはいいのよ」
「でも…、ちょっとすねてるでしょ?」
 答えないのが、答えになっていた。
「どうして?」
「だって…、朝は起こせないし、朝食はレイの手作りだし、今度はミズホのためだし…」
「あ、アスカ焼いてるの?、ひょっとして」
 ニヤニヤとレイ。
「ち、違うわよバカ!」
 アスカはカバンを振り上げた。
「やっぱりだぁ!、もう!、素直じゃないんだから、シンちゃんにそう言って甘えればいいのに…」
「…今は、やだな」
「どうして?」
「だって今のあいつ、あたしのことが一番じゃないんだもん」
「欲張りなんだから…」
 二人でシンジを見る。
「シンジぃ!、明日は俺に任せとけよ?、ちゃんと勝負になるよう考えてやるからな!」
 場は既にケンスケがしきっていた。
 ケンスケがそのようなイベントを見逃すわけもなく…、チケットは一通りSOLD・OUTとなっていた。
「まかせとけって、我に秘策ありさ!、ちょっとこっちにこいよ」
 ケンスケのメモ帳には、シンが勝つための10の可能性が書き記されていた。


「鰯水君…」
 思い返す。
 君も男なら、誰か一人を真剣に愛してみたらどうなんだ!
 いいや、こんな幾人もの女性の間をふらつくような、二股をかけるような男に、君達が弄ばれてるかと思うと、僕は僕が許せなくなる!
「悪い人じゃないんだ…」
 胸につき刺さる言葉だった。
「シンジ君?」
「カヲル君!?」
 すりガラスの向こう、脱衣所にカヲルの影が見えた。
「ちょっと、いいかな?」
「え?、あ、うん、なに?」
 何だろうと身構える。
「シンジ君、僕の言ったことを覚えているかい?」
「え?」
「挨拶する人がいる、それが嬉しいって…」
「ああ…、うん」
 何が言いたいのか、不安になる。
「でもみんなは違う…」
 カヲルのトーンが落ちる。
「カヲル君?」
「抱えているのは小さな不満だよ、だけどそれがどう膨らむかはわからない」
「例えば、アスカが怒っている事とか?」
「そうだね、レイや、ミズホも、見せないだけなんだよ」
 シンジは腰をずらして、湯船に深く浸かった。
「僕は…、僕はどうすればいいの?」
「自分で考えて…」
「自分で決める…」
「みんなが欲しいのはシンジ君の気持ちや心だからね、焦らなくてもいい、でもいつも考えてあげて欲しいんだ」
「どうしたのカヲル君、急に…」
「ちょっとね…」
 歯切れ悪く、カヲルは脱衣所から出ていった。
「不満…、か」
 口まで浸かる。
「アスカの不満って何だろう?」
 取り敢えずそこから始めることにした。






「戦ってよ、あたしのためにぃ!っか…」
 ベッドの上のアスカ。
「ミズホじゃあるまいし、恥ずかしいじゃない、それに…」
 ボロボロのサルのぬいぐるみを抱いている。
「あたしなら自分でやり返しちゃうもんね」
 ぬいぐるみには名札が付いていた。
「だからって、泣き出すような目にあいたいわけじゃないけどさ、ねぇ?、シンジ」
 名札はシンジのものだった。
 幼稚園の時のものだ。
「あれ?、誰もいないの?」
 隣の大部屋からの声、アスカはがばっと起き上がり、おサルのシンジをベッドの下に隠してから、襖を開けた。
「シンジ」
「あれ?、アスカだけ?、みんなは?」
「カヲルはおじ様と何か話してる、二人はコンビニよ?、シンジのために湿布とか買ってくるんだって」
「ふうん…」
 なんとなく、敷居をまたげない。
「なによ?」
「あ、いや、随分久しぶりだなと思って」
「だからなにが?」
…二人っきりなのが
 一瞬しんとした空気に包まれた。
 二人とも照れて赤くなる。
「ば、バカなこと言ってないで、ほら、さっさとこっちに来なさいよ!」
「あ、う、うん、なに?」
 シンジはためらうようにアスカの部屋へ入った。
「ほら横になって」
「ええ!?」
 後ずさる。
「何恐がってんのよ」
「だ、だって…」
「いいから!」
「は、はい…」
 逆らえず、アスカのベッドにうつぶせになる。
「な、何をするのさ?」
「決まってんじゃない」
 シンジの足に触れる。
「マッサージよ」
 そしてそのまま揉みはじめた。
「な、なんだ…」
 ほっとする。
「…襲われるとでも思った?」
「ちょっとだけ」
「ばかねぇ、それで逃げ回られちゃったら、せっかくの時間がもったいないじゃない?」
 シンジの足先から、太股の方へ上がっていく。
「あんたから二人っきりになってくれることなんて、ないんだろうしね…」
 シンジはちょっと迷ってから、口を開いた。
「その事なんだけど…」
「なに?」
 深呼吸してから口に出す。
「ブラインドか…、タペストリーか…、なんでもいいや、窓を隠すもの買いたいんだ」
 アスカは期待して、次の言葉を待った。
「…買いに行くの、一緒についてきてくれないかなぁ?」
「ばぁか…」
「アスカ?」
「あんたねぇ、あれだけ怒らせといて、そういう約束しろっての?」
「…うん、ダメかな?」
「行くに決まってんじゃない」
 はい終わりっと離れる。
 気づかれないように、にやけ顔を直すアスカ。
「さ、むこうの部屋に行こ?、見つかるとレイ達がうるさいしね」
「あ、うん…」
 ベッドから降りる。
「アスカ、ありがと、大分楽になったよ」
「ふんっだ」
 シンジの背中をばしっと叩く。
「勝つのよ?、いいわね」
「うん、わかったよ」
 シンジは明るく答えて見せた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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