Episode:18B




「そういうわけですからお母さまぁ!」
「あらあら、どうしましょうか?」
 居間にて、へへーっと頭を下げているミズホ。
「でも、どうしたの?、急に…」
「…小和田先輩を見たんですぅ」
「あら、奈々ちゃんを?」
「!、知ってらっしゃるんですかぁ?」
「ええ、奈々ちゃんのお母さん…、先生には何度かお茶をいただいているから」
「そうなんですかぁ…」
「ええ、で、奈々ちゃんがどうかしたの?」
「はい、それで、なんというか、そのぉ…」
 赤い顔をしてユイを見る。
「良いなぁって、思ったんですぅ」
 何が言いたいのかよく解らなくて、ユイは困り顔をゲンドウへ向けた。
 新聞を降ろすゲンドウ。
「いいではないか」
「ですが…」
「ミズホ君の目標ははっきり言って無謀だ」
「そこまで言いますか?」
「ああ、だがな、それで可能性を潰す事はあるまい」
 ミズホを見る。
「永遠に安全な道を歩いていく事はできんのだ、ならば無謀な道へと進み、墓穴を掘ってみるのもいいだろう」
「なんだか無茶苦茶言われてるような気がするんですがぁ…」
「わたしは応援しているつもりだが?」
 むぅっと首をひねるミズホ。
「ま、まあいいでしょう、わかりました、じゃあさっそく着物の着付けからはじめてみましょうか?」
 場を取り繕うユイ。
「は、はい、わぁいやったですぅ!」
 ミズホははしゃいでユイの後について行った。
「むむ、これはマズいわね」
「まさかお母さまの協力を取り付けるなんて」
 覗き見していた二人。
 その後ろにカヲルが立っていた。
「…その前に、君達には必要なものがあるとおもうんだけどね?」
「なによ」
「なにが言いたいのよ?」
「いや、その格好を見ていたら、ね」
 襖に張り付き、お尻をカヲルに向けていた。
「うっさいわねぇ」
「ほっといてよ」
「おやおや、やはり君達に足りないのは品位とつつしみのようだね?」
 カヲルは肩をすくめて脱衣所へと向かう。
「ちょっとカヲル!」
「あんたどこ行くつもりよ!」
 肩越しに振り返り、軽く笑む。
「決まってるじゃないか、お風呂だよ」
「お風呂って…、いまシンジが入ってるじゃない」
 怒気をあらわにするアスカ。
「そうだよ?、だから背中を流してあげようかと思ってね」
 カヲルは持っていたヘチマを見せた。
「なにが品位とつつしみよ!、あんたこそ足りてないもんがあるじゃない!」
「カヲルに足りてないのは理性と常識!」
 二人で睨む。
「おや、何を根拠にそんな事を言うんだい?」
 軽く受け流す。
「根拠って…、あんたバカぁ?、男同士でお風呂に入るなんて…」
「男同士だからこそ入るんだよ、それとも君達は異性と入れって言うのかい?」
 むぐぅっとつまる。
「まったく、常識が無いのはどちらなんだろうね?」
 勝ち誇ったように脱衣所へ。
「た、確かにあいつの言う通りなんだけど」
「間違ってる、何かが根本的な所で間違ってる!」
 薔薇の湯なんて嫌すぎ!
 レイは駆け抜ける寒気に震え上がった。






「ほら、もじもじしないの」
「ふみ〜ん」
 それから一時間、ミズホはさっそく音を上げかけていた。
「足がしびれちゃったですぅ」
「どれどれ?」
 レイが足を物差しでつついた。
「ピッ!」
「こらこらレイちゃん、邪魔しちゃダメでしょ?」
「は〜い」
 転がり悶えるミズホ。
「我慢してればその内感覚が無くなるわ、さ、続けましょう?」
「はいぃ…」
 ミズホは泣く泣く我慢して、なんとか扇子の前に正座した。
「ほら初めから」
「はいですぅ」
 キッと気合いを入れなおして、ミズホは扇子を持って立ち上がり、気分に任せて踊ってみた。
「…どう、レイちゃん、アスカちゃん?」
「うーむ…、これは題して」
「サルの小躍り」
「むきー!、うるさいですぅ!」
 すかん!っと扇子を投げつけた。
「いったぁ!、ちょっとミズホ、ろくに広げられないくせに、なんで投げるのだけうまいのよ!」
「知りません!」
「むっかぁ!、はっらったっつっわねぇ〜」
「だいたい自分ができないことで人を笑うのがおかしいんですぅ!」
「なによそんなの簡単じゃない」
「じゃあやってみるですぅ!」
「へへ〜んだ、見てるだけで覚えたわよ、簡単じゃない」
 そう、確かに覚えていた。
「題して、鶴の小躍り…」
「二人あわせればぴったりだね」
「カヲル!」
「何しに来たのよ!」
 髪をわしゃわしゃと拭いている。
 隣にはシンジが立っていた。
「随分騒がしいから、何してるのかと思ったんだけど…、邪魔なら上にいるよ…」
「あ、シンちゃんじゃなくって…」
 シンジは聞かずに、とたとたと階段を駆け上がっていった。
「…カヲルぅ〜」
「そんなに恨めしそうな目を向けないで欲しいね?」
「なんですって!?」
「僕だってのけ者にはされたくないさ」
 ちょっと貸して…と、ミズホから扇子を借りる。
「あんた日舞なんて知ってんの?」
「知っているよ?、大和撫子の踊りのことだろ?」
 扇子を開いて見せる。
「あらあら、少し違うと思うんだけど」
「だいぶ違いますぅ」
「そうなのかい?」
 首を傾げるカヲル。
「ああもう、良いじゃない別に、それよこうなったら意地よ!」
 ユイに頭を下げる。
「おば様!、あたしにも教えてください!」
「ああっ、ズルいですぅ!」
「うっさい!、あんたなんかに負けてらんないのよ、このあたしは!」
「ミズホにこだわってる…」
「うう、それどういう意味ですかぁ?」
「対抗意識が先走るようじゃ、やめておいた方がいいんじゃないのかい?」
 カヲルは居間の中央に進み出た。
「なによ、あんたまさか踊ろうっての?」
「そのまさかだよ」
 ちょっとバカにしたような笑み。
「終わったら笑ってあげるわ」
 カヲルは正座の位置から始めた、扇子を広げ、立ち、舞う。
 ユイがミズホに見せるために舞った動きだ、カヲルはそれを寸分違わずに再現して見せた。
 まさに完璧だった。
「…どうだったかな?」
 舞い終えて、まだ乾ききっていなかった髪を手櫛で直した。
 引きつってる二人。
「これで思いつきでやるものじゃないってわかったろう?」
 こういう時の笑みはむかつく。
「うっさい!」
 パシッと叩くように、カヲルの手から扇子を奪った。
「見てなさいよ、絶対見返してやるんだから!」
「ふふ、楽しみにしているよ」
「ミズホ、やるわよ!」
「はいですぅ!」
 二人はカヲルを追い出して、ぴしゃんと襖を閉じた。
「やれやれ、まいったね」
 さしてそう思ってるような雰囲気を見せずに、カヲルは階段を上がろうとした。
 足音が自分以外にもあることに気がついて、カヲルは振り返った。
「レイは教えてもらわないのかい?」
 レイが着いてきていた。
「ええ、シンちゃんと二人っきりにしたくないしね」
 苦笑する。
「気づいてたのかい?」
「そんな事だろうと思ったのよ」
 カヲルは小さく舌を出した。
「たきつけてどうするのかと思ったし、それに…」
「それに?」
「お風呂で何してたのか、ちゃんと吐いてもらおうと思って」
 レイはカヲルのマネをして微笑んだ。






「こらカヲルっ、吐きなさいって!」
「何を焦っているんだい?」
 二人の声に、寝転がっていたシンジは首だけ動かした。
「はれ?、レイ、もういいの?」
「うん、あたしには関係…、あー!」
「な、なに!?」
「それあたしのせんべい!」
 子供部屋、ごろごろと転がってシンジが食べている物を指差す。
「あ、ごめん…、つい」
「ついじゃないよぉ、楽しみにしてたのにぃ!」
「なんだ、お腹がすいたのかい?、シンジ君」
「うん、疲れが取れたからかな?、あ、さっきはありがとね、カヲル君」
 レイはシンジとカヲルの顔を交互に見た。
「もう!、一体なにしてたの!?」
「え?、なにって…」
「言うほどのことじゃないさ、そうだろう、シンジ君?」
「うん、まあ」
 カヲルが微笑み、シンジは赤くなった。
「ちょっと一体なんなのぉ!?」
「えっと…、マッサージ」
 赤くなったままのシンジ。
「え?」
「だからマッサージだよ」
 きょとんとするレイ。
「そう、シンジ君の張った体を、一つ一つ揉みほぐしていただけさ」
「そういう言い方はやめてよぉ」
「嫌なのかい?」
「恥ずかしいよ…」
「ただのマッサージなのに?」
「マッサージって…」
 レイ、妄想中。
「シンちゃん、不潔…」
 レイの一言はシンジに衝撃を与えた。







[BACK][TOP][NEXT]



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。



本元Genesis Qへ>Genesis Q