Episode:18D




 小和田が華麗に舞う。
「すごいや、小和田先輩」
 シンジは素直に感嘆の声を上げた。
「あらぁ、強敵出現じゃない?」
「小和田先輩はそんな方じゃないですぅ!」
「はい、じゃあ惣流さんに信濃さん」
「はいですぅ!」
「え、あ、あたしもぉ!?」
「そうよ?、さ、はやくこちらに」
「え、えっと、その…」
「しびれたの?」
「うっさいわね、バカシンジ!」
「これ!」
 ピシッと扇子で叩く。
「汚い言葉はおよしなさい」
「いったぁ〜い…」
「あの、その扇子は鉄扇じゃないんですか?」
「ええ、もちろんですよ葛城さん」
 その笑みに引きつる。
「お気になさらずに、プロの教育方針の一つはスパルタですわ」
「そ、そうではなくて…」
「そうよ、そんなの危ないじゃないの!」
 ピシッ!
「いったぁー!」
「ちゃんと手加減はしてあります、一々口答えしないように」
 不満を顔に浮かべたままで、アスカは前に出て座った。
「では、見真似で構いませんから」
 アスカは小さく頷いて、口の中で呟いた。
「アスカ、いくわよ?」
 まず手に扇子を取る、ゆっくりと立ちながら扇子を開き、おもむろに扇子を頭上へ、空いた手を腰に当てて、あとはひたすら腰を振った。
「…って、アスカ、それ懐かしのジュリ○ナ系の…」
「うっさいわね、バカシンジのくせに!」
 ピシッ!
「す、脛は痛いの…」
 涙目。
「さ、では信濃さん」
「はいですぅ!」
 ミズホはアスカと同じように座る所からはじめた。
「ミズホ、まいります」
 ゆっくりと立ち上がり扇子を開く、先日小和田が舞っていた舞いを、ミズホは記憶を頼りに踊った。
「えっと、こうきて、こうして、こう!」
 力んで振った扇子がすっぽ抜けた。
「うわぁ!」
 シンジの頭上を、ミサトの頬をかすめて障子にささる。
「あ、あぶ、あぶ…、先生、頬、切れてます…」
 引きつるミサト。
「これ!、余計なことに気を取られているから、そうなるのですよ?」
「はいですぅ」
「明鏡止水、舞いはじめたら、その事だけをお考えなさい」
「え?、でもでもぉ、ちゃんと見た通りにって考えてたのに…」
「格好良くする必要はないのです、そうしようと考えていたから余計な力が入り、そのようになったのですよ?」
「ふええん、そんなこと考えてませぇん!」
「泣くのはおよしなさい!」
「びええええええん、シンジさまぁ!」
「人に頼らないの!、何のためにここへ来たのですか!」
 ぴたっと止まる。
「それはもちろん、シンジ様のためですぅ!」
「なら少しは我慢なさい!」
「ふぇ…」
 また泣きそうになる。
「ああ、もう!」
 処置無しと見てアスカに振り返る。
「それではもう一度あなたから…、なんですか、その目は?」
「こっちだって真剣なのに、なんで一々怒るのよ」
「反抗は許しません」
 ピシ!
 アスカの何処かで何かが切れた。
「ほらもう一度」
 ヒュ!っと飛来した扇子を自分の扇子で受け止め、アスカは流れるように安奈の額を打った。
 ピシャン!
「ほーほっほっほ、いくら先生と言えども、油断していては逆襲されましてよ?」
「あ、アスカぁ…」
「だってこの人が!」
「アスカ、大人しくね?」
 冷や汗を流しているミサト。
「え〜!?」
「どうやらあなたには、根本的な何かが足りていないようですね?」
 手の内で鉄扇をぴしゃりと鳴らす。
「好きな殿方にそのような姿を見られて、あんたは何とも思わないのですか?」
「え、僕もうなれてますから…」
「バカシンジは黙ってなさいよ!」
「人の話を聞き…」
 振り上げた鉄扇を止める。
 いけないわ、この子にはこの方法じゃダメなのよ。
「碇君?」
「あ、はい」
「あなた、つつましやかな女性と、かしましい子とでは、どちらに魅力を感じますか?」
「え!?、な、なんですか、それは」
「たとえば小和田さんのような子ではどうですか?」
 ずっと無言で座っている小和田。
 シンジは思わず彼女を見た。
 小和田はただ微笑み返しただけだったが、シンジはそれだけで赤くなった。
「ああ!、シンジ様なにを赤くなってるんですかぁ!!」
 つねる。
「あいた!、ち、違うよ、そんなんじゃなくて、あの…」
「じゃあなんなのよバカシンジ!、あんたあたしにケンカ売ってんの!」
「ど、どうしてそうなるんだよ!」
 キッと安奈を睨むアスカ。
「何を急に言い出すのよ!」
「殿方が選ぶのは一人だけよ?、あなたはその一人になりたくないの?」
「うっ、そ、そりゃあね?」
 これでこちらのペースよ!
「ならば彼の理想に近づくのも一つの手だとは思わないかしら?」
 勝ち誇る安奈。
「なにそれ、ばっかみたい」
 胸を張る。
「あたしはあたしよ、それで良いじゃない」
 ええいもう!っと、青筋を浮かべる安奈。
「そこまで言い切ると立派ですぅ」
「そお?、そお?、あんがとね」
「何が立派なんだか」
「バカシンジは黙ってなさいよ!」
 安奈に向き直る。
「あー、もうやめ!、こんなのあたしに似合わないもん!」
「アスカぁ…」
「大人しいあたしなんてあたしじゃないし、シンジは本当に大人しいあたしの方が良いわけ?」
「え?、いや、アスカはアスカらしい方がいいと思うよ?」
「どういう意味よ!」
「聞いたのはそっちじゃないか!」
 わたしらしいわたし…
 その言葉が引っ掛かるミズホ。
「はいもうわかりました!」
 立ち直る安奈。
「では信濃さん、もう一度初めからお願いします」
 わたしらしいって、なんでしょうかぁ?
 聞いちゃいねぇし!
 拳を握りこむ安奈。
「…もういいです、では葛城さん」
「ち、やっぱやらなきゃダメか」
「当たり前です!、さあこちらへ!」
「はい」
 扇子を畳の上に置き、その前に座る。
「では、いざ!」
 凛々しく顔を上げる、扇子をつかむ、一動作で開き、頭上へ上げる、払う、ターンする、そのきびきびした動きは素晴らしかった。
「うわぁ!」
 慌ててふせるシンジ。
「きゃあ!」
「ひっ、ですぅ!」
 アスカとミズホも避けた。
「ちょっと葛城さん!」
 聞いてない、気持ちよさそうに完璧に安奈の舞いを20倍速で再現していく。
 扇子が掛け軸に、障子に、そして畳に傷痕を残していく。
「どうなってんのよ、一体!、扇子は触れてないのにぃ!」
 アスカは悲鳴を上げた、扇子がかすめた時、アスカの髪がはらはらと落ちたからだ。
「すごい、まるで凶器だ」
「まるでじゃなくて、そのまんまじゃないのよ!」
「紙でできてるのに、柱に傷がついてますぅ!」
 その威力のすさまじさに、部屋から逃げ出すことすら叶わない三人だった。






「ああもう、酷い目にあったわね…」
「うう、小和田先輩に恥ずかしい所を見られちゃいましたぁ…」
 しょぼくれるミズホ。
 商店街によって、昨日シンジが食べたレイのせんべいの代わりを買ってから帰る所だ。
「なによあんなの、先生に比べたら大したことないじゃない」
 舞い終わった時、ミサトはすっきりとした表情を浮かべ、安奈は腰を抜かしていた。
「それより気がついた?、小和田先輩なんだけど…」
「もちろんよ!、ミサト先生があれだけ暴れたってのに、涼しい顔したまんまでずっと座ってたもん、すごいわよね?」
 ちらりとミズホを見る。
「さっすがミズホ憧れの先輩よねぇ、やっぱどっか普通じゃないわ」
「そ、そんな言い方酷いですぅ!」
「え〜、だって表情一つ変えなかったのよ?」
「そうだね、ちょっと近寄りがたい雰囲気もあったし…」
「そ、そんな、シンジ様までぇ…」
 うるうるとミズホ。
「え、ミズホ?」
「そんなこと言うシンジ様なんて、大好きだけど嫌いですぅ!」
 ふえ〜ん!っと走ってく。
「あ、ミズホ!」
「…なんだかカヲル君に似てきたなぁ」
 ぽりぽりと頭をかく。
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
 ぽかんと殴られる。
「泣かせたのよ!、あと追わなきゃ」
「あ、うん、そうだね」
 二人は急いで駆け出した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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