NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':1C





「おきろ、バカシンジー!」
 土曜日、7:30。
「おふぁよー」
 相変わらずシンジの朝はテンションが低い。
 カヲルの部屋はヒカリが持ち込んだ布で仕切りを作られていた。
 仕切りの片方が女子、片方が男子用の部屋、というわけだ。
 アスカは久方ぶりの爽快感を満喫する。
「やっぱ朝はこうでなくっちゃねー」
 実にすがすがしそうだ、蹴り起されたシンジは不幸を噛み締めている。
 トウジ、ケンスケは、シンジよりもやさしく起された。
「あれー、カヲルはぁ?」
 シンジは寝癖のついた頭をかくと、部屋のすみを指差した。
 酒瓶を抱いたまま轟沈しているカヲル。
「シンジといっしょやから、おとなし寝てくれへんやろ?」
「加持さんにアルコールのすごくきついやつを持ってきてもらったんだ。」
「昨日は静かだったなー」
 扱いが酷くなってる。
「ちょっとぉ、つかいものになるんでしょうねぇ?」
「大丈夫だよ、けっこう頑丈にできてるみたいだから」
 それで済まされるカヲルも、実は不幸なのかもしれない。


「いやー、ご飯とおみおつけ、これこそニッポンの朝やでー」
 ほくほくとかきこむトウジ。
「おかわりあるからね」
 ニコニコとヒカリ、アスカの陰謀で席はトウジの隣。
 今日の朝食はヒカリとミズホの共作だ。
「ヒカリちゃんをお嫁さんに貰う奴は幸せだね」
「ほんまやでー」
 赤くなるヒカリ。
「こんなうまいもん毎朝食えるんやもんな〜」
「朝からちゃんとしたものを用意してくれる人って、なかなか居ないもんなんだよな」
 シンジたちはユイと比べてみた。
「で、なんであんたがいるのよ」
 アスカの冷たい視線、ラステーリが座っていた。
「トラックを運んでくる途中で見かけたんだ、これから朝食だっていうしね、誘ったんだけどいけなかったかな?」
 加持にそう言われては、引き下がるしかないアスカ。
 はっはっはーと、白々しく笑うラステーリ。
「あんた出るって言ってたけど、他のメンバーどうしたのよ」
「直接行くって連絡が来たよ、おかげで寂しくてね」
 そうはみえない。
「どうせ女引っ掛けて泊まり歩いてたくせに」
 はっはっはーと、否定しないラステーリ。
「まあまあ、そんなに角を立てなくてもいいだろう?、敵といえども普段は友達なんだから」
「こんなやつ、友達なんかじゃないもん!」
 加持にたしなめられて、赤くなる。
「シンちゃん楽譜読んでないで、さっさと食べないと」
「うん…」
 いいつつウィンナーをちょろまかすレイ。
 シンジはアスカにちょっかいを出すラステーリが気になっていた。
「はれ?みはとへんへーは?」
「まだ寝てらっしゃいます〜」
 ケンスケに答えるミズホ。
「朝が弱いからな、昔から」
 ぼそりと加持、そのセリフにアスカは味噌汁の豆腐をつまみそこねた。
 誰も気にしていないのに、動揺を悟られてはいないかと様子をうかがう。
「血圧の高いおばさんみたいですね」
「シンジくん、後で殺されるぞ…」
「はいシンジ君、この浅漬け僕がつけたんだよ?」
 漬け物をシンジの口へ運ぶカヲル。
「あ、ありがとうカヲル君」
 汗をたらたらと流すシンジ、ちょうどアスカと目が合う。
 ぷい!
 そっぽを向かれるシンジ。
「うまかったー、さてとシンジ、楽器運ぶん手伝えや」
 さり気なくトウジの湯呑みにお茶をつぐヒカリ、それを飲んでからトウジは立ち上がった。
「俺も手伝ってやるよ、君達だけじゃ辛いだろう」
「すんませんなぁ、加持さん」
「じゃあ悪いけどこれ、後片付け頼めるかな?」
「はーい」
 加持に元気な返事をするアスカ。
「男子は楽器の積み込みだ、いこう」
 アスカ、レイ、ミズホ、ヒカリは男子が出て行くのを見届けてから、手早く食器をまとめると、流しへ運んだ。
 それぞれエプロンを着用すると、ヒカリの指示で洗浄、乾拭きに別れる。
「いいねー、ヒカリちゃんが家庭的なのは見ててわかってたけど、アスカやミズホもなかなかのもんじゃないか」
 認識を改めるラステーリ。
「とくに綾波さん、まるでおかーさんみたいだね」
「人種差別主義者が何とち狂ってるのよ」
「いやいやいや、モンキーが作った食事だということを忘れさせるほどに、素晴らしかったからね」
 おどけるラステーリ。
「それにこういう光景には縁がないんだ、見てるぐらい良いだろう?」
 じゃあ、ちゃかすなと言いたいアスカ。
 鼻歌を歌いながら片付けを進めるレイ。
「ラステーリさんならそれぐらいしてくれる人、適当にいるんじゃないですか?」
「いや、リョウジも言ってたろ?普通はインスタントなコーンフレークさ、トーストがつけば上等かな?、朝から手の込んだものを作ってくれやしないよ」
 いつもきちんとしたものを用意するユイを見ているアスカとレイには、今ひとつぴんと来ない。
 ミズホをみるが、ミズホはポケーっとして、布巾片手に皿を拭くパントマイムをしていた。
シンジ様、おいしい?うん、やっぱりミズホのご飯は…ぶつぶつ
 妄想モードに突入している。
「あんたも食べたんだから、少しは手伝ったら?」
「そうだね、リョウジには負けたくないからな」
 言って、乾燥機にかけた食器を棚へ片付けはじめた。
「ど、どうしてそこで加持さんが出てくるのよ」
 どもるアスカを、つい笑ってしまうラステーリ。
「やっぱり大人だなって思って、さっきもみんな当たり前みたいに出ていったけど、リョウジだけはひとこと言っていったろ?「頼めるかな」って」
 いわれて思い出すアスカ。
「相手が子供でも、ちゃんと気をつかってる、大人なんだよ」
「真似したって、加持さんにはなれないとおもうけど?、あなたの笑い方、アスカのお父さんに似てるわ」
 レイ。
 え?っとアスカ。
「するどいなぁ、でもぶすっとしてるよりは良いだろう?」
「…まあね」
 間を置いて、ラステーリをじろじろと見るアスカ。
「けどやっぱ加持さんの「大人の笑み」にはおよばないわね」
「きついなー」
「そだね、加持さんのは微笑んでるって感じだけど、ラステーリさんのは、にやけてるとかそんな感じがする」
 結構きついヒカリ。
「カヲルみたい」
 とはレイ。
「渚君と一緒にされたくはないな」
 余り嫌がっているようには見えないが…
「ふうん、でも加持さんの笑顔って、シンちゃんが一番近いとおもうんだけどなぁ」
「えーーーーっ、なんでよりによってバカシンジー!」
「いや、ぼくもそう思うよ」
 ラステーリの意外なセリフ。
「だから嫌いなんだけどね」
 どう受け取っていいのかわからないアスカたちだった。






 加持が好意でレンタルしてくれたトラックと、ミサトのボックスカーに分乗してメンバーは会場入りした。
 G・Front前の大通り、およそ500mが通行止めとなり、歩行者天国が作り上げられている。
 9:30以降は完全に通行止めとなる、準備の都合もあって、いまはまだ参加バンド関係の車が行きかっていた、20キロ制限を守って。
「うわー、ぎょうさんおるわぁ、大丈夫か?」
 トウジはトラックの上からケンスケを探した。
 今日は全員制服できているので目立つ。
 ケンスケが参加登録をして戻って来た。
「B−20だってさ、奥の方はまだ十分スペースあるらしいよ」
 ケンスケに乗るよう指示して、加持は車を動かした。
 ミサトは車を止めるため空いている駐車場へ向かう、ミサトの車から降ろされた一行はトラックと並んで歩いた。
「結構端っこだね」
「シンジたちがとろとろしていたからよ」
 レイとアスカは知り合いがいないかと見回した。
「あそこでラステーリさんが手を振ってますぅ、おーい」
 無邪気に手を降るミズホ。
 一足先にカヲルの部屋を出たラステーリは、どうやらアメリカから来た仲間と合流したようだった。
「結構近いなー」
「見えんよりはええわ」
「でもシンジが…」
「あー、センセにはプレッシャーきついかー」
 トウジとケンスケは、シンジの様子を伺い見た。
 道路にチョークで四角い箱が描かれている、真ん中にB−20の文字。
 シンジは加持と荷物を下ろしはじめていた。
「すんまへんなぁ加持さん、帰りもたのんます」
 加持は軽く手を上げて挨拶すると、ミサトを探しに出た。
 トラックは駐車したまま、その脇で演奏することになる。
 着替えや休憩はトラックの中ですることになっていた。
「カイザーのとこ、見て見ろよ」
「やなやっちゃなー、移動式ステージやで」
 トラックの後部コンテナが変形して、ステージになっている。
「ムシムシ、それより、ねー、曲はどれでいくの?」
 はしゃぐアスカ。
「メドレーで適当に行くけど…ソロをやるかどうかは微妙だな」
「どうしてよ、あたしの美声ならいくらでもお客を呼べるのに」
 らららーっと歌ってみせる。
「おかね稼ぐんじゃないんだから」
 あきれるヒカリ。
「ホンマのとこはシンジしだいやな〜」
「シンちゃん、すごく緊張してるみたい」
「だいじょうぶ、ミズホがガンマリマすぅ」
 すでにあがりまくってる。
「かるく音あわせから始めて、シンジ君の調子を上げてくしか無いね、僕もフォローするから、なんとかなるよ」
 ギター片手に微笑むカヲル。
「シンジー、やれるかー?」
「た、たぶん、なんとか」
 声が裏返ってる。
 だめだこりゃー!
 六人総突っ込み、こうしてマラソンライブはスタートした。






 昼を過ぎる頃には、かなりのひとでになっていた。
 天気は上々、ラステーリのバンド、カイザーは人垣を作っていた、その両隣のバンドは諦めの色が濃い。
 意外なことに、シンジたちも客を作ることに成功していた、アニマラソンが子供達に受けたからだ、親子連れが多い。
 早々に引き上げを決意したグループの幾人かが、飛び入りで遊んでいった、トウジたちが飛び入りのレベルに合わせることが出来たのも、死ぬ気の練習があったればこそだ。
 ただ一人、シンジだけがその成果を出せないでいた。
「なによシンジあの間抜けた音は!」
「ご、ごめん」
 シンジの音にごまかしが効かなくなってきたので休憩に入った。
 練習の通りに、無難に弾こうとすればするほどうまく弾けない、それを何とかしようとしてトチリまくる、悪循環が続いていた。
 エネルギーの補充とばかりに午後ティーの500mlペットを一気飲みするアスカ。
「僕もギターで入るよ、シンジ君とツインで…」
「だめよ、それじゃカヲルだけで引いたほうがいいじゃない」
 二時間演奏して一時間休憩、もう二時間で一時間休憩、ラストに一人一人ソロで…というのがケンスケの立てたプログラムだったが、初めの二時間で挫折しかけていた。
「どうしてそうビクビクしてんのよ、いつもみたいに気軽に弾けないの?」
「シンちゃん時々あがり性になるもんね〜」
 くすくすとレイが笑う。
 赤くなるシンジ。
「アスカさんと違って、シンジ様は…えーと、え〜とぁ」
 むんっと鬼のような形相を見せるアスカに言葉を濁す。
「カヲルが弾くのもええんやけどなー」
 煮えきらないトウジ。
「なんだ、もうやめたのかい?」
 ラステーリだ、首からスポーツタオルをかけ、ミネラルウォーターをくぴくぴ飲みながら様子を探りに来た。
「そっちこそ敵情視察してる暇あるんかいな?」
「苦戦してるみたいだね」
 誰のせいや、と言いたかったが、さすがに自重する。
「結果が全てや」
 口の中で呟いた。
「まさか有名バンドにつぶしをかけられるなんてね、場所が悪かった、ついてないよ」
「運も実力のうちやさかいな」
 せめてとばかりに、ラステーリに皮肉るケンスケとトウジ。
「これじゃ勝ったと胸を張ることもできないなぁ」
 ラステーリは…とくにシンジに目を向けて言った。
「まだ始まったばかりだよ」
 言い返すシンジ。
「そうだね、こっちはしばらく休憩だ、そのあいだに頑張ってみればいい」
「このままじゃ、頑張るだけ無駄だけどね」
 ぼそりとアスカ。
「アスカ…」
「だってヒカリぃ、メインのはずのギターがこの状態じゃ、勝てるもんも勝てないわよ」
 言い返せないシンジ。
「やる時はやるって思ってたのに、とんだノミの心臓ね〜」
「アスカ」
「だってこれじゃあの時と同じじゃないっ、前だってシンジを信じて失敗してさ、模試だけ満点取る奴だってわかってたのに…」
「だめっアスカ、それ以上…」
「あーなっさけない、ちょっとは言い返したらどうなのよ!」
「アスカ!」
 ヒカリの剣幕に、さすがに言い過ぎたかとシンジを伺い見る。
 シンジは顔を上げた、笑っているのか、泣きそうなのかよく分からない。
「…そうだね、ごめんカヲル君、後お願いできるかな」
「シンジっ、また逃げるの!?」
 シンジは答えずに立ち上がると「自販機行ってくる」と笑顔で答えた。
「シンちゃん、まって、あたしも行くから」
 寂しそうなシンジの笑い顔にたえられず、後を追うレイ。
 アスカは荒くなった息を落ち着けようと、午後ティーの残りを飲み干した。






 後を追ってきたものの、声をかけられずにいるレイ。
 シンジは近くの公園で、ブランコに腰掛け顔を両手で覆っていた。
「シンちゃん…」
「怖いんだ…」
 呟くシンジ。


「情けないのよ、あんなシンジ見たくない!」
 ぷんっとアスカ。
「シンジが情けないのはいつものことやないか」
「そうだよ、いまさら怒るようなことでも無いだろ?」
 下手な言葉は炎に油を注ぐだけだ。
「違うわよ、いつものシンジはあんな目をしてないわ!」
 トウジたちにはわからないが、アスカは夢で見たシンジの、優しい、穏やかな目を思い出していた。
 今のシンジは違うの…
「あんな目をしたシンジなんて嫌い」
 ラステーリはため息をついた。
「なにタメ息なんかついてるのよ、あんたも無関係じゃないでしょうが」
「ま、そうだけどね」
「カイザー、そろそろ本当のところを話してくれても良いんじゃないかい?」
 にこにことカヲル。
「別に裏なんかないさ」
「そうかい?」
 なにかを知っている風なカヲル。
「言いたくないならいいけどね、続きはどうする?もう歌わないのかい?鈴原君は僕のギターが気に入らないみたいだけど」
「気に入らん、いうわけやないんやけどなー」
「なんだよトウジ、らしくないな、はっきり言えよ?」
「うまく言えんのやけど、熱くないんや、魂がこもっとらんって感じでなぁ」
 少しだけカヲルの表情がかたくなった。
「テクはシンジより上やけど…う〜ん」
 すっくと立ち上がるアスカ。
「アスカ…どうするの?」
「ヒカリ…ちょっと頭冷やしてくるわ」
「私もいきますぅ〜」
 アスカが心配でついていこうとするミズホ。
「ついてこないで!…一人になりたいの」
「アスカさぁん…」
 すぐに人ごみに紛れてみえなくなった。
「青春っていうのはいろいろあるものだね」
 カヲルにウィンクしてみせるラステーリ。
「加持さんのマネが好きだね」
「物真似に終わっているけどね…」
「私、やっぱりシンジ様とアスカさんを迎えに行ってきますぅ」
 心配で心配で、ミズホはじっとしていられなくなった。
「カヲルはいかんでええんか?」
「帰ってくるよ、シンジ君は」
 走っていくミズホの背中を見ながら、呟く。
「えらい自信やな」
「いつもそうだったからね、帰ってきた時、シンジ君は誰にも負けない強さを見せてくれるよ」
「帰ってきたらだろ?どうすんだよトウジ」
「まあ帰ってこーへんかったら、ワシらの負けってことや」
「こんな勝ち方は嫌だけどね、ぜひともシンジ君の実力を見てみたかったな」
 あれ?とヒカリ。
「ラステーリさん、シンジ君のこと嫌いなんですよね?」
「そう嫌いでもないんだよ」
「ねたましいんだよね」
 にこにことカヲル。
「ほんと憎らしいね、君は」
「ありがと」
 ラステーリとカヲル、ホントは仲が良いんじゃ?と思ってしまうヒカリだった。
「しゃーない、委員長、飯でも食って待ってよーや」
「鈴原君、そればっかりね…」
「戦のためや、かんべんしてーな」
 ラステーリのマネをしてウィンクしてみるトウジだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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