Episode:20 Take2



「うう〜ん、お腹すいたなぁ…」
 テニスコートの端っこ、フェンスの側でしゃがみこんでいるレイ。
「あんたなにサボってんのよ!」
「だってぇ…」
 凄い剣幕のアスカに、引き気味の対応。
 アスカはテニスウェアに着替えていたが、レイはなんとジャージ姿だった。
「ほらそこ、ぼさっとしてないで壁打ちでもする!」
 部長の栗末にどやされる。
「そんなことじゃ世界はつかめないわよ!」
「べつにそんな大それた目標はないんだけど…」
「あやなみぃ〜〜〜」
「うわぁ!」
 いつの間にやら、フェンスの向こうにケンスケが。
「相田君!、一体どこから!?」
「朝練の風景撮って回ってたんだけどさぁ…、なんだよそのジャージはぁ?」
「いいじゃない、別に見せる気なんてないんだから…」
 涙を流して抗議したが、却下された。
「じゃあいつ撮らせてくれるんだよ、写真…」
 先日の約束を確認する。
「いっくらなんでも、寝不足の所なんて撮られたくないもん」
「ちぇっ、まあそりゃそうか…」
 あきらめたようにアスカの方を見た。
「それにしてもさ、珍しいじゃないか」
 くいっと顎先でアスカを指す。
 アスカは一人で黙々と壁打ちをしていた。
「なんだか判んないんだけど、いきなりはりきっちゃって…」
「ははぁん…」
 舐めるようにカメラを動かす。
「太ったんじゃないのか?」
 ガシャアン!
 フェンスにボールが突き刺さった。
「あ、ごめぇん」
 てへっと笑顔でごまかすアスカ。
「絶対…、わざとだよな?」
 青ざめたケンスケの言葉に、レイはさぁ?と、コメントを控えた。
「それより、ねえ、今日は一人なの?」
「なんでだよ?」
 まだ血の気が戻ってくれない。
「うん、シンちゃん一緒じゃないのかなぁと思って…」
「シンジなら遅刻寸前だろ?、まだ時間早いよ」
「やっぱねぇ…」
 がっくりするレイ。
「おお、それ、その表情!」
 逃さずに撮る。
「あれ?、いつものカメラは?」
「学生販売用だからさ、高解像度ビデオで十分なんだよ、あとでデジタルプリントすりゃいいんだし…」
「ふ〜ん…、どうでもいいけど、ちゃんと肖像権払ってよね?」
「はいはい、わかってるって、この間の約束通り、7:3でこっちが7、だろ?」
「うん」
「なんだよ、そんなに困ってるのか?」
「やっぱデート代ぐらい欲しいし…」
 くぅ〜、シンジの奴ぅと、悔し涙が溢れてくる。
「あ〜あ、シンちゃん今頃どうしてるのかなぁ?」
 向こうから歩いてくるのは、トウジとヒカリだった。






「るったるったるん♪」
 ご機嫌のミズホ。
 あいかわらずグルグルの瓶ぞこメガネにこだわっている。
「ああ〜、まさかこうしてシンジ様と手を繋いで登校できる日が来ようとは」
 まさに夢のようですぅ!、と繋いだ手を確認する。
「いや、本当だねぇ」
 空を仰ぎ見るカヲル。
「今日は本当に静かで…」
 チュンチュンとスズメ達が飛んでいく。
「これが嵐の前の静けさでない事を祈るよ」
「うう、嫌なこと言いますねぇ…」
 渋い顔をする。
「ね、シンジ様?、これが恒久的な平和と言うもの…、どうかなされましたかぁ?」
 怪訝な顔で覗きこむ。
 シンジはぼやっとしていて、気がつかない。
「シンジ様っ!」
「わっ!」
 ぐっと手を引っ張られて慌てる。
「うう、シンジ様ぁ〜」
 涙目。
「どうしたの、なに?」
「もしかして、私と一緒ではお嫌なんですかぁ?」
「違うよ、違う!」
「シンジ君はね?、少し寂しいと感じているのさ」
「寂しい?」
「カヲル君!」
 手で制するカヲル。
「今までずっと一緒だったからね…、それが僕達だけになったから」
「それでですかぁ?、なら大丈夫ですぅ!」
 パンっと手を打つ。
「私がいますからぁ!」
 ぐっと腕に組み付く、抱き込むようにしてシンジにもたれた。
「それに、僕もいるからね?」
 反対側の腕をカヲルが取る。
「ちょ、ちょっと二人とも…」
「嫌なのかい?」
「お嫌ですかぁ?」
 不満顔のダブル攻撃に、改めてアスカとレイの存在のありがたさをシンジは悟った。


「まったくもう、シンジのバカ、どうしてこう見なくていいとこばっかり見てるのよ」
 アスカは朝のカヲルのセリフを思い出していた。
「はいはい、でも羨ましいなぁ…」
 ボールを打ち返すレイ。
 二人で壁に向かい、スカッシュの真似事をしていた。
「なにがよ?」
 バン!っと壁にボールが当たり、跳ね返る。
「だって、それだけアスカをよく見てるってことじゃない?」
 それをレイが返した、バンっとまたアスカが返す。
 ふにゃっと一瞬ほほがゆるむアスカ。
「でも、おかげで気が抜けないのよ?、どうしよう、お腹がたるんじゃったら…」
 レイとアスカで往復、バンバンバン!
「そうだよねぇ、アスカって向こうの血が濃いしぃ」
「なによそれ?」
 バンバンバンバンバンバン!
「え?、だって外国の女の人って、みんな若い頃はスレンダーなのに、おばさんになったら急にでっぷりするじゃない?」
 バババババババババン!
「あんたばかぁ?、このあたしに限ってそんなこと…」
「でもテレビで見たよ?、たしか14ぐらいの時に、将来中年太りを始める脂肪分が生まれるんだって」
「うそ!?」
 バン!、ポ〜ン、ポ〜ン、ポ〜ン…
 転がるボール、アスカは一気に青ざめた。
「だからその年代の時に余計な栄養取らないように気をつけるのが大事なんだって?」
「ほんとに!?」
 レイはラケットを左に持ちかえ、アスカの側によった。
「な、なによ?」
「…ずいぶん貯えちゃったね?」
 つんっとアスカの胸をつつく。
「ばっ、バカ!、これは違うわよ!」
「うにぃ〜、でもこれに合わせてお腹が出っ張って…」
「そういうあんたはどうなのよ!?」
「あ、ちょっとやん!」
 背後から鷲づかみにするアスカ。
「もう!、やだ軽い乙女のジョークじゃない」
 聞かずにアスカは二三度グニグニと揉んだ。
「あんた、本当に成長してないわねぇ?」
 かなりショックなものがレイの頭を直撃した。






「しかし久々だよなぁ…」
「なにがぁ?」
「いや、お前と惣流の別登校なんてさ」
「そやなぁ、この調子やと帰りも別なんとちゃうんかぁ?」
 みたいだねぇ〜っと、シンジは気のない相槌を打った。
 珍しく元祖三バカトリオだけで、屋上から運動場を見下ろしていた。
 今は昼休みだ。
「なんや、元気無いなぁ?」
「もう倦怠期にでも入ったのか?」
「な、なんだよ倦怠期って!」
「倦怠期=互いに飽きて、わずらわしくなる時期」
「…って、すばやく辞書引かないでよ!」
 豆辞書をひったくる。
「そやけどなぁ…、あれ見てみいや」
 運動場の一角を指差す、テニスコートだ。
「あの群れだろ?」
「え?、なに?」
 テニスコートに男子生徒が群れていた。
 なんだか歓声が上がっている。
「なに、あれ?」
「惣流だよ」
「へ?」
「シンジって防波堤が無いからなぁ」
「なんだよ、それ?」
「女子連中の中に混ざってりゃ、ただの一女子高生ってことだよ」
「よくわかんないけど…」
「もてもてやなぁってことや」
「ああやって忘れられていくんだよな?」
「そうやなぁ、やりたい事やってるうちに、そっちの方がおもろなってな?」
「何の進展も無い恋愛ゴッコに見切りをつけて…」
「そして芽生える新しい恋!」
「捨てられた男は未練たらしく…」
「ストーカーに成り果てるんや」
「「なあシンジぃ?」」
「そんなことしないってば!、それに…」
 っと滑りかけた口を塞ぐ。
「それに?、それになんや?」
「なんだよ、おい」
「あ、なんでもないよ…」
「なんだよ、妖しいなぁ…」
「そや、白状せんかい、この!」
 っとヘッドロックをかける。
「ホントになんでも無いってば!」
 何とか逃れ、階段へ。
「なんや、もう戻るんかいな?」
「うん!、ちょっと用事があるから、じゃあ!」
 校舎内に戻るシンジ。
「なんや、付き合い悪いのぉ?」
 ケンスケは聞かずに、暗い笑みを漏らしていた。
「くっくっく、甘い、甘いぞシンジ」
「…またかいな」
 はぁっとため息。
「これは何かある、何かあるぞ」
「シンジの…、ちゃうな、惣流の邪魔するとヒカリが怒るんやけどなぁ…」
 聞いてない。
「行くぞトウジ、これは確かめないとな」
「へぇへぇ、わかっとるって…」
 いつものように諦めるトウジだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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